※BGMでも聴きながらお読み下さい。
村下孝蔵「踊り子」
以前、再婚する前、此所暮らしていた頃の私は、ライターを
集めることが一つの楽しみだった。
ダンヒル。
デュポン。
そしてジッポ。
その他にも様々なブランドライターを購入していた。
当時は今よりも自由に動けたし、趣味に使えるお金も多少は
あった。
高価な物を次々と買えるほど裕福ではなかったが、それでも
気に入った物を見つけると少しずつ購入していた。
今思えば、ライターそのものが欲しかったというより、その
ライターが持つ雰囲気や歴史、そして所有する喜びに惹かれ
ていたのだと思う。
しかし年月は流れる。
生活環境も変わる。
病気とも向き合わなければならなくなる。
そうなると趣味に掛けられるお金は自然と限られてくる。
高級ライターは購入して終わりではない。
長く使うためにはメンテナンスが必要だ。
部品交換も必要になる。
修理代も掛かる。
その結果、私の大切なダンヒルとデュポンは今では使えなく
なってしまった。
2階の別室で静かに眠っている。
時々見に行くことはある。
手に取ることもある。
しかし火を灯すことはできない。
少し寂しい気持ちはある。
あれほど大事にしていた物なのだから当然だろう。
それでも不思議なことに、完全な後悔はない。
なぜなら、それらのライターには思い出が詰まっている
からだ。
購入した時の嬉しさ。
手にした時の満足感。
そんな記憶は今でも色褪せていない。
そして現在も元気に活躍しているのがジッポライターである。
さすがジッポと言うべきだろう。
古くなっても壊れない。
傷が付いても使える。
オイルを補充し、着火石を交換すれば再び火が灯る。
その単純さと頑丈さが魅力だ。
世の中には100円ライターもある。
ターボライターもある。
電子ライターもある。
実用性だけを考えれば、そちらの方が便利かもしれない。
実際、煙草の味そのものは変わらない。
100円ライターで火を点けても、ジッポで火を点けても
煙草の味は同じである。
それは十分理解している。
しかし、それでも私はジッポを使いたくなる。
理由は上手く説明できない。
理屈ではないのだ。
蓋を開ける時の金属音。
ホイールを回した時の感触。
炎が灯る瞬間。
その一連の動作が好きなのである。
ただ火を点けるだけなのに、どこか特別な時間になる。
完全に自己満足だ。
しかし趣味とはそういうものだろう。
遠足へ出掛ける時は実用性を優先する。
風が吹く日もある。
屋外では確実に着火できる方が良い。
だからターボライターや電子ライターを持って行く。
しかし家では違う。
家ではジッポの出番だ。
ゆっくり煙草を吸う時間。
テレビを観る時間。
ブログを書きながら考え事をする時間。
そんな時にはジッポが似合う気がする。
そして気が付けば、ジッポの数が増えていた。
最初は一本だった。
次にもう一本。
また気に入ったデザインを見つけて一本。
価格の安い物を中心に少しずつ購入していたら、今では本当
にコレクションと呼べる数になっている。
自分でも時々笑ってしまう。
「また増えたな」
と思う。
しかし眺めているだけでも楽しい。
机の引き出しを開けると、様々なジッポが並んでいる。
デザインも違う。
色も違う。
傷の付き方も違う。
それぞれに個性がある。
私は一つのジッポを使い続けるのではなく、オイルが無く
なったら別のジッポに交換することが多い。
今日はこれ。
次はあれ。
そんな風に気分によって使い分けている。
まるで時計や万年筆を選ぶような感覚かもしれない。
オイルや着火石も身近な店で購入できる。
スーパーにあればスーパーで買う。
インターネットの方が安ければ利用する。
特別なことではない。
その手軽さもジッポの魅力だと思う。
一方で、2階には動かなくなったダンヒルやデュポンが眠っ
ている。
時々、「いつか修理してみたいな」
と思う。
再び火を灯してみたい。
昔のように使ってみたい。
そんな気持ちは今もある。
しかし現実には修理費用も掛かる。
生活の優先順位もある。
だから、その日はまだ先になるだろう。
来年かもしれない。
もっと先かもしれない。
あるいは一生そのままかもしれない。
それでも私は諦めていない。
いつの日か、再びダンヒルやデュポンに火を灯す日が来たら
嬉しいと思う。
人生には大きな夢もある。
しかし、小さな夢もある。
私にとっては、壊れたライターをもう一度使えるようにする
ことも、その一つなのだ。
机の引き出しの中には、多くのジッポが並んでいる。
そして2階には眠ったままのダンヒルとデュポンがある。
どちらも私の人生の一部だ。
これからもジッポを使いながら、時々昔を懐かしく思い出し
そしていつか高級ライターが再び火を灯す日を楽しみに待ち
たいと思う。
May be the best year of my life.










