「 バカの壁をぶち壊せ! 正しい頭の使い方 」
日下公人 (くさか・きみんど 1930~)
養老孟司 (ようろう・たけし 1937~)
株式会社ビジネス社 2003年10月発行・より
[ 日下公人 ] ちょうどソビエト連邦が崩壊する寸前、モスクワ
大学経済学部から資本主義の勉強をしたいと
いう要請がありまして、中小企業の社長を何人
か連れて集中講義に行ってきました。
モスクワ大学の教授たちは、「我々は命をかけてソ連共産党の支配を壊すまで闘う」 と言っていました。
彼らは、「思ったより共産党体制が長引いたのは、オイルショックで石油の値段が上がったからだ」 と言っていました。
オイルショックのおかげで産油国であるソ連は収入が増えて、「バターと
大砲」 の両方が手に入った。
ブレジネフ書記長体制が長く続いたのは、その間に安定した石油収入があったからだそうです。
やがてこれが見込み外れになります。
ゴスプランという中央計画経済の責任者たちは、石油価格は永遠に上がると判断したため、ありとあらゆる資料を全部石油開発に投資しました。
ところが、最大の石油消費国である、日本が省エネ対策を始めてしまった。
省エネ技術の開発に全力投球したために、10年経ってみると日本は、
経済成長はしているのに、石油輸入量は横バイという国になった。
一時は 「エネルギー弾性値」 が2ぐらいあって、5%の経済成長を成し遂げようと思ったら、石油の輸入量は10%増やさなければいけなかった。
しかし10年後、経済成長は5%、石油輸入量も5%という国になることができた。
5%以下というときもありました。
日本の石油輸入量は増えないので、共産党の予定通りに石油の値段が上がらず、大増産への開発投資が不良債権になってしまった。
バターも大砲も危なくなって、それで共産党支配を強化するために、秘密警察に頼ったのです。
書記長を KGB出身のアンドロポフにしたけれど、彼だけではだめで、次に現れたのがゴルバチョフです。
ゴルバチョフは 「技術開発だ、職場規律だ」 と言って このやり方も秘密警察的ですが 職場規律さえしっかりすれば、ソ連は宇宙ロケットを打ち上げる技術があるんだから、絶対に倒れることはないと思っていたようです。
しかし、これも誤判断で、結局は長く持ちませんでした。
ソ連を崩壊させたのは、日本の省エネ技術と省エネライフです(笑)。
日本にはそれだけの力があるんです。
日本とアメリカの間でもきっとこれが起こると思います。
8月15日の猿沢池