おとなしくなった「いじめっ子」 | 人差し指のブログ

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 対談  目から脳に抜ける話 」

養老孟司 (ようろう たけし) / 吉田直哉 (よしだ なおや)

株式会社 筑摩書房 2000年12月発行・より

 

 

 

 

 

 

吉田 僕が子供の時、長崎で、友達みんなにバカにされ恐れられてる

    ”目くされのカズ”って乱暴者がいて、そいつが子猫 飼ったんです

    よ。

 

 

    本来いじめっ子なんですけど、子猫を拾ってきた。

 

 

    その家は馬車一台の馬方で、食うや食わずって状態でしたから

    母さんに どなられて、猫なんか飼う余裕はない。

 

 

    だからこっそり おやじの馬小屋に入れて自分の食い物をちょっと

    余したのをやって飼ってたんですね。

 

 

    そしたら泣いて僕の家へ来たんですよ。

 

 

    泣いて来たから どうしたのかと思ったら、子猫の死んでるのを

    持って来たんですよ。

 

 

    小学校四年の時で、どうしたんだって言ったら、腹が減って全部

    食っちゃったもので猫にやらなかったんだ、それで死んでた、って。

 

 

    それでオイオイ、普段のビヘイビアに似つかわしくないくらいボロ

    ボロ泣くんです。

 

 

    僕も感動して”目くされのカズ”って、年中トラホームで眼が腐った

    みたいに見える。

    だからその子と遊ぶなって言われてる そのいじめっ子がこんなに

    やさしかったと感動して、僕んちの裏庭がちょっと広かったもんです

    から、夏ミカンの木の下に埋めたんですね。

 

 

    そしたら、そいつは、僕はその後全然かまわなかったんですが、

    年中そいつが塀の下から来ておまいりしてた。

 

 

    おまいりしてたのは知ってた、夏ミカン持ってくついでに拝むんだろ

    うと思ってたんですけど、また ギャーと言って来たんですよ。

 

 

    また猫が死んだのかと思ったら化けて出たって言うんで行ってみた

    ら、見たこともないような鶏の足のような形のきのこが埋めた所から

         生えてるんですよ。

 

 

    真っ赤で、こういう手の指のばして指先ぜんぶ合わせたような形な

    の。

 

    確かにゾーッとするような。

 

 

    でも言いました、猫なんてものは飢えて死ぬわけがない、ゴミくずだ

    って何だってその辺で食うんだからお前の責任じゃない、って言った

    んだけれど。

 

 

    それをちょっと引っこ抜いてみるかと思ったし相談もしたんだけれど

    も、そいつが泣いて 「やめてくれ」 って言うし、もういままでの位置

    が逆転なんですよね、いじめっ子と。

 

 

    最初僕は死ぬほど殴られたんですから。

 

 

    長崎へ転校して行ったとたんに、その子とちがう よその学校へ行っ

    てるっていうんで毎日待ち伏せされて、それで取っ組み合いして仲

    良くなったんですけど。

 

 

    さすがに抜いてみる勇気はなくて、どう考えたって猫が出てくると、

    多分セミタケとかなんか あの仲間だと思う。

 

 

    見たこともない、トサカの付いた鶏の足、今でも覚えてます。

 

 

    そいつはその時からすっかり おとなしくなっちゃって ちっとも魅力

    がなくなっちゃった。

 

 

    悪ガキの粋だったんですけどね。

 

 

    おとなしくなっちゃって、それこそ改心・・・・(笑)。

 

 

養老 そうですね、転向しちゃった。

 

 

吉田 転向、結局 何年もあとに原爆で死んじゃったんで かわいそうだな

    と・・・・・。

 

 

 

 

                  奈良公園の猿沢池にて 8月25日撮影