「 地球を舞台に ボーダーレス時代をよむ 」
梅棹忠夫 (うめさお・ただお 1920~2010)
日本放送出版協会 1994年6月発行・より
~ 映画大国インドの素顔 松岡環 (まつおか・たまき 1949~) ~
梅棹 古代インドというのは大文明ですからね。
東南アジア世界というのは ふるくはヒンドゥー文明の世界ですね。
ことばにもずいぶんインド起源がはいっていますし、だいたいインド
ネシアおよびタイの古典はほとんどすべて起源が 『ラーマーナ
ヤ』 と 『マハーバーラタ』 だ。
東南アジア一帯が ヒンドゥー化されていく時代があるんですね。
たとえばカンボジアでは、むかし女王がはだかで走っているところ
にインドのバラモン僧がきた、その女王をつかまえて奥さんにした
と、そこからカンボジアという国ができたのが建国神話になってい
る。
東南アジアは中国の影響もありますけれど、それはあたらしくて、
ふるいところは全部インド文明で、「ヒンドゥー化された国ぐに」 で
す。
わたしは日本もある意味ではそうだとおもっている。
インド起源の仏教がはいってきた。
いまや日本は世界最大の仏教国家ですからね。
松岡 ヒンディー語がなじめないかたに、アイウエオというのはヒンディー
語のほうから はいったのも同然なんですよというと、みんなびっくり
されますね。
梅棹 そのことを意外に日本人は知らない。
わたしがインドにいったとき、日本人の留学生が、インドのアイウエ
オが日本のアイウエオとおなじ順番になっているといってびっくりし
ていた。
字引をひいたら、アカサタナでひける、というわけだ。
あたりまえじゃないかとわたしはいったことがある(笑)。
日本語の五十音図はインドを模範にしてつくったものですからね。
むかしの仏教の坊さんが梵語、サンスクリットを学んで日本語の
音韻図をつくったんだから。
~ 『月刊みんぱく』 1991年7月号 ~
8月25日 奈良公園の猿沢池にて撮影