「 上品で美しい国家 」
日下公人(くさか きみんど) / 伊藤洋一(いとう よういち)
株式会社ビジネス社 2006年5月発行・より
[日下公人] 以前、ワシントンに少しだけ住んだことがあります。
メイドさんが毎日来てくれていました。
「もう掃除は十分だから、少し休みなさい」
と言ってお茶を出して雑談をすると、これが実に面白い。
彼女はいろいろな偉い人の家に出入りして、その結果ものすごい情報通なのです。
そこで私は、「一時間六ドルあげるから、掃除より雑談をしよう」 と提案した。
その彼女は家政婦もしていますが、各国の要人が集まるパーティーで
ウェートレスもしています。
「どんなパーティー?」 と聞くと、「この間XXX国務長官のパーティーに行きました」 「XXX副大統領のパーティーに行きました」 「誰々と、誰々が来ていました。誰々は来ませんでした」 などと話してくれます。
日本の新聞記者はそんなに人の顔を覚えていませんけど、彼女は仕事柄、ワシントンの偉い人の顔をほとんど知っています。
私がもう少し英語ができたら、ワシントンでメイドを集めた情報組織をつくれば面白いと思いつきました。
日本でもタクシーの運転手は政治経済その他をよく知っています。
後部座席で携帯電話を使って、運転手を無視して大事なことまでさんざん話しているらしいですね。
タクシーの運転手に、「面白い話を聞いたら、俺に電話をくれ」 と頼んだ人がいる。
それで今日聞いた話をしてもらい、その場で即決して、「うん、面白い。
5000円」 とか、「それはすごい情報だ。5万円払おう」 とか、あるいは、
「だめ1000円」 とお金を払います。
そうすると情報がどんどん集まります。
それをどう利用するかは知りませんが、それと同じことです
新聞記者よりメイドさんのほうが使えますね。
ただし、日本人は品性が許しません。
8月25日 奈良公園の猿沢池にて撮影