「人間はなぜ戦争をやめられないのか 平和を誤解している日本人のために」
日下公人(くさか きみんど 昭和5年~)
祥伝社 平成16年5月発行・より
政治家は上から考え、軍人は下から考える。
軍人は現在の手持ちの兵力でできることを考えて、それを政治家の判断材料に提供する。
この両方が必要なのだが、戦前の日本では、下からしか考えられない軍人や官僚が陸軍大臣になり、総理大臣になった。
だから、戦争を設計するという考え方が育たなかった。
1991年に時計を戻してみよう。
イラクがクェートから撤退をはじめた時、パウェル(当時、統合参謀本部議長)がブッシュに 「もう二十四時間やらせてくれ。あと二十四時間あれば、イラクの戦車部隊を全滅できる」 と意見具申したが、ブッシュはそれを却下した。
なぜか。
フセインの軍団を全滅させれば、喜ぶのはイランである。
イラクとイランが睨(にら)み合っていてくれるのが、アメリカにとっていちばん都合がいいという事情は、開戦前も改選後も変わっていない。
ブッシュは当初、戦争目的として侵略者を罰すること、クェートの王権を回復することの二つを声明したが、それは表向きのことで、アメリカの究極の利益は、クェートの石油確保とサウジへの影響力確保だった。
では、なぜブッシュは、その後 「フセインを戦争裁判にかける」 と宗教戦争のようなことを言ったのか。
それは頭に血がのぼったからだと思う。
アメリカ軍パイロットが捕虜になり、顔にアザを作ってイラクのテレビに出てきたのでカッとなった。
それはアメリカ海軍のパイロットとして日本軍との戦いにのぞみ、父島の上空で乗機アベンジャーが爆撃されてパラシュートで降りる時、「もしも地上に降りたら、日本人は人食い人種だから食われる」 と思って海を目指し、数時間泳いだのち奇跡的にアメリカの潜水艦に救われた・・・・という、二十歳の自分の姿だった。
しかしさすがに、しばらくして頭が冷えた。
すると、フセインの戦車軍団を壊滅させるのは、かえって損であることが見えてきたのだろう。
中央公園(埼玉・朝霞)にて 11月2日撮影