「聖書の言葉」と「砂漠の気温」 | 人差し指のブログ

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「わたくしたちの旅のかたち」

兼高かおる(かねたか かおる)/(曾野綾子(その あやこ)

株式会社 秀和システム 2017年2月発行・より

 

 

 

 

<兼高>     一応わたくしのほうが経験者でしたから、

           新しいカメラマンにはいろいろなアドバイスをしました。

でも、なかなか聞いてくれない人もいるんです。

 

 

たとえば、あるカメラマンは、アフリカ取材の前に 「上着を持ってらっしゃいね」 と伝えたのに、現地へ行ったらどういうわけか持ってきていない。

それで、夜になったら 「寒い」 とガタガタ震えているんです。

 

 

「どうして持ってこなかったの?」 と聞きましたら、

「熱帯地域だから暑いと学校の教科書に書いてあったから」 と、こうです。

 

経験者の言葉より、教科書のたった一行のほうを信じているんですね。

 
 
 
曾野さんは後にアフリカへ何度も行かれているから、わたくし以上によくご存知ですが、一口にアフリカといっても、標高や地域によって気温は違うし、一日の寒暖差が大きい地域もあります。
 
 
 
<曾野>     ええ。サハラのあたりでは、昼間は五十度や六十度になりますが、夜は一気に十度程度まで下がることがあります。
上着がなければ、やはり寒いですよ。
 
 
それについては、おもしろいお話があるんです。
 
あるとき、聖書を読んでいて 「あら?」 と疑問に思ったことがありました。
 
 
聖書の言葉に 
「下着を取ろうとする者には、上着も与えよ」 という一節があるのですが、
まず 「下着を取ろうとする」 というのは順番がおかしくないですか?
 
 
普通、追いはぎか何かに遭ったら、最初、上に羽織った上着から奪い取られるはずでしょう。
 
「上着を取ろうとする者には、下着も与えよ」 ではないかしらと。
 
 
でも、その理由がわかったんです。
 
イエスの時代には、下着は安い麻でできていましたから、誰でもみな着替えを持っていた。
 
けれど上着はウールで高価なものなので、みんな一枚しか持っていないんです。
 
 
しかも、その上着は、寒暖差の激しい砂漠地帯では、夜の寒さから身を守る非常に大切なもの。
 
 
質屋でも、「昼間上着を質草に取ったら、日没前には返せ」 という決まりがあったほどだったそうです。
 
 
つまり、聖書の言葉は、それほど大切な上着でさえ、求めたら与えよという意味が込められていたんですね。
 
 
 
<兼高>      なるほど。砂漠の気候がわかっていないと、聖書も正しく理解できませんね。
 
 
<曾野>     そうなんです。イエスの時代から、砂漠では上着が生命にかかわるほど大事でした。
 
 
<兼高>     そんなことも知らず、ただ教科書を鵜呑みにして、「アフリカは暑い」 なんて単純に考えていてはいけませんね。
しかも、その 「暑さ」 も日本人が想像する暑さとは全然違いますし。
 
 
 
<曾野>    ええ、ほんとうに。以前、盲人の方たちと砂漠地帯を旅したのですが、六十度の熱風が吹いたら、みなさん 火事だ!」 と勘違いしてパニックになったくらいです。
 
 
 
 
 
昨年 11月27日 平林寺(埼玉・新座)にて撮影