「2017年 世界の真実」
長谷川慶太郎(はせがわ けいたろう 1927~)
ワック株式会社 2016年8月発行・より
「失われた20年」 で、日本の金融機関がどれほど苦労をしたことか。
例えば三菱東京UFJ銀行は三菱、東京、UFJ(三和、東海)と、
バブル崩壊前にあった四つの都市銀行が統合してできた。
それぞれの都銀は新宿駅の西口と東口に支店を持っていて、
合計すると11店舗があったが、今は二つだ。
九つの支店をつぶしたのである。
「つぶした」 という意味は単に支店を廃止したということではない。
建物をつぶす。地下金庫をつぶす。そうして全部更地(さらち)にした。
ある支店の例を紹介すると、更地にするために30億円以上を投じ、
中でも地下金庫をつぶすために18億円かかったという。
こうしてつくった更地を、三菱地所をはじめとする不動産会社に売った。
目抜き通りの四つ角の角地なんて、そうそう売りに出ることはないから、
不動産会社は飛びついた。
それでもってつくった金を不良債権処理に充てたのだ。
それから、不良債権を処理する十年以上の間、どの銀行もCEOを含めて、夏冬ともにボーナスがなく、毎年毎年、申告所得の金額が減った。
そういう苦しみを経て、日本の銀行は再建された。
それをヨーロッパの銀行はやっていない。
だから、BNPパリバにしてもバークレイズにしても、
貸し込んだ債権の補正ができないでいる。
デフレへの対応という点では、日本よりも一周遅れと言っていいだろう。
資産内容のいい日本の銀行は長期資金に余裕があるだけでなく、
金利が安いという強みがある。
金が余っている国は十年物の国債の利回りが低い。
日本はマイナス0.1%、アメリカは1.8%、ドイツが1.3%だから、日本と米独とでは桁(けた)が違う。
民間企業の銀行が貸し出すときは、
長期国債の十年物の金利に1%のプラスプレミアムがつく。
だから、アメリカの銀行は2.8%の金利になるが、日本は国債の金利がマイナス0.1%なので、銀行の貸出金利は0.9%になる。