米金融会社の予測を信じた中国 | 人差し指のブログ

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本を読んで面白かったところを紹介します

 

 

 

「中国 4.0 爆発する中華帝国

エドワード・ルトワック/訳者・奥山真司

株式会社文藝春秋 2016年3月発行・より

 

 

 

リーマン・ショック当時の予測は、2008年から2018年までは 「アメリカの経済成長率の低下は続き、中国の経済成長は高止まりで続く」 

というものであった。

 

 

2008年から2009年までのアメリカ経済の縮小は今後も続き、

中国の経済成長は10%から12%になると予測された。

 

 

ところがこれは完全な計算違いであったのである。

 

 

「線的(リニア)な予測」 には二つの特徴がある。

 

第一の特徴は。その結末を簡単に予測しやすいということだ。

 

100が105になり、その次ぎに110になろというように。

 

 

第二の特徴は、それが人間社会の経済活動では決して存在したことがないということだ。

 

 

ローマ帝国が誕生して以来、人間社会の経済活動では、

全く同じ状況が20年続いていくような予測を信じてしまった。

 

 

その原因は、ゴールドマン・サックスという金融企業にある。

 

 

読者の中には、2000年代初めにゴールドマン・サックス社が 「BRICS」 というアイディアを売りはじめたことを記憶している方がいるかもしれない。

 

 

これは、ブラジル・ロシア・インド・中国で構成されていた新興国をまとめて呼んだ名称だ。

 

たしかに当時のブラジル経済は成長過程にあり、ロシアは天然資源や先物取引商品の生産を拡大しており、インドはマンモハン・シン首相が経済改革を断行し、長年停滞していた社会主義を離れてめざましい成長をはじめていた。

 

一方、このような国のまとめ方では黒人国家が入っていないので人種差別だという批判を受けて、ゴールドマン・サックス社は後にこれに南アフリカを加えてさいごに大文字の 「S」 をつけて 「BRICS」 としたのだ。

 

 

その当時は南アフリカもネルソン・マンデラ大統領の下で成長が続いており、白人は国外に逃げていたが、投資そのものは潤沢に行われて経済は活発であった。

 

 

このような状況にあったので、中国はそれに釣られて将来予測を見誤ったわけだが、ここで重要なのは、ゴールドマン・サックス社が、この将来予測に深く関わっていたことと、彼らが単なる、一つの営利企業であり、その実績は、単なるセールスマンの集団だったことだ。

 

 

彼らはこれらの国々への投資案件を積極的に売り込んでいたにすぎない。

 

 

彼らの宣伝をまともに受けてしまった中国のリーダーたちは、

2008年から2018年までの10年間に10%から12%の経済成長が続くはずだと勘違いしてしまった。

 

 

同時にアメリカ経済も10%ずつ毎年縮小していくと見誤ってしまった。

 

 

「アメリカが下がって中国は上がる」 という、投資を売り込むための予測に飛びついたのだ。

 

彼らは 「線的(リニア)な予測」 を行ったのであり、「事態がこのまま進めば、中国はアメリカをすぐに追い越せる」 と勘違いしたのである。

 

 

 

 

私は2010年1月に北京を訪れたが、当時、実に多くの政府高官たちが、こうした線的(リニア)な予測を口にしていた。

 

 

外交部の副部長であった美しいモンゴル人女性である傅瑩女史もそうで、彼女は私も参加した中国人民解放軍軍事科学院でのスピーチで、一つのフレーズを何度も強調していた。

 

”China up,US down” と。

 
 
 
 
ゴールドマン・サックス社だけではなく、モルガン・スタンレー社も含んだ 「セールスマン」 たちの予測に完全に騙されて、中国は 「第二の間違い」 を犯した。
 
 
これはまるで男性が女性に対して甘言をつかって言い寄るようなものであり、この時の女性の立場にあったのが中国だ。
 
 
しかも単なる女性ではなく、ことさらナイーブな女性だったのが中国だ。
 
 
とても綺麗だが農村から新宿に出てきたばかりのウブな女性が中国で、都会の遊び人のイケメンの男性がゴールドマン・サックス社、という構図だ。
 
 
これを受けて北京周辺の知的階級から盛り上がってきた議論は、「(当時の中国の国家主席であった)胡錦濤(こきんとう)は弱い、われわれの政策は弱い。これからわれわれは物事を決定する立場に移るべきだ」 というものであった。
 
 
要するに、北京周辺の人間たちは、胡錦濤は中国のパワーを十分に行使していないという見方をするようになったのである。
 
 
そしてこれをきっかけとして、中国は、突然、古文書や資料などにあたって、領土や領海の面で強硬な主張をはじめることになった。
 
 
 
 
 
昨年11月27日  平林寺(埼玉県・新座)にて撮影