「決定版 三島由紀夫全集 40」
三島由紀夫(みしまゆきお 1925~1970)
株式会社新潮社 2004年7月発行・より
[三島文学の背景・三好行雄]
<三島> そういえば、ぼくは一部によほど年寄りと思われておりまして、中学生なんか、私のことをすごいおじいさんだと思っている。
教科書などにちょっと出ているせいもあるでしょうね。
私ども、教科書に出ている作家といったら、えらいおじいさんだと思っていましたから。
一度韓国の新聞記者が、私のところへ来て、十五分ばかり、何も話が進まない。
「お父様お元気ですか」
「父もおかげで元気です」、
そうしたら、
「お仕事は・・・」
「もう、父は隠居しておりますから」
「エッ、ご隠居していらっしゃる・・・。お仕事なさらないんですか」
「そうです」。
また五分くらいたって
「お父様お元気ですか」
「さっきいったでしょ、父は元気ですよ」
「お仕事は」
「それはもう隠居しております」。
また十五分くらいたってから
「お父様のペンネームを三島由紀夫とおっしゃるでしょ?」
というんです。
それでぼくはがっかりした。
「三島由紀夫はわたしですよ」
といったら飛び上がってました。(笑)
~三島文学の背景(初出)国文学 解釈と教材の研究・臨時増刊・昭和45年5月
5月18日 光が丘 四季の香ローズガーデン(東京・練馬)にて撮影