「日下公人が読む 2014年~日本と世界はこうなる」
日下公人(くさか きみんど 1930~)
ワック株式会社 2013年12月発行・より
かつて、家電は日本の成長産業の一つであった。
だが、最近は日本の弱電メーカーは、シャープだけでなく、
パナソニック、ソニーも厳しい状況に陥っている。
韓国のサムスンに追いつかれ、追い抜かれた結果である。
それは当然なことで、追いつくほうが簡単だからである。
たとえばアメリカがどうして隆盛を誇ったかといえば、イギリスから技術などをすべて盗んだからである。
そのときのイギリスには 「こちらのほうが上だ」 という余裕と油断があった。
盗まれたと思ったときには手を打ったが、もう遅かった。
サムスンに対して日本人は本当に親切に教えてやった。
その当時、私は、「やめたほうがいいよ」 と発言していたが、高給と教え甲斐につられて、定年退職した人たちがどんどん韓国に教えに行った。
技術流出は昔から止まるものではないのである。
その昔、イギリス人の技術者はアメリカから大金をもって誘われると、新鋭機械の図面をすべて暗記し、無知無学の労働者になりすましてアメリカに渡った。
日本もゼロ戦をつくるときは、いくつかの技術をアメリカに頼ったが、代金を支払った技術もあるし払っていない技術もある。
中島飛行機の人が思い出を書いているが、荻窪工場へ指導にきたアメリカ人技師にいろいろ質問すると気の毒に思ってか、重要な図面を料亭のテーブルの上に広げたままトイレに立ち上がってしばらくは帰ってこなかったので有難く拝見して覚えた、とある。
日米開戦の日は近いと多くの人が思っていた1940年のことである。
これでは、「技術は必ず移転する」 と思わねばならない。
先進諸国は 「技術力の勝負をしている」 と文系の人は思っているが、本当は、「技術開発のスピード競争をしている」 のである。
退職した技術者が向こうへ教えに行くのを防ぐ方法はある。
「あなたの知識、技術は、十年間は外部に出してはいかない」と、
退職するときに契約すればいい。
日本企業は、これまでそれをしてこなかった。
いまごろになって、「契約書をとらなければならない」 などと騒いでいる。
そして、技術が流出して同様な製品ができるようになれば、低賃金で生産できるほうが勝つのは当然で、そんな相手と勝負したら、こちらも低賃金国
にならなければいけない。
リカードは、「輸出立国政策をとると、先進国のほうが賃金は下がる」 と言っている。
それで、一部の金持ちだけがさらに金持ちになる。
輸出立国政策は 「労働者には損になり、資本家には得になる」 もので、いまの韓国はその典型である。
ぼやぼやしていた会社がつぶれるのは仕方ないことである。
それよりも、シャープ、パナソニック、ソニーの社員は奮起してサムスンより、もっといいもの、新しいものをつくればいいのである。
生き残るには、絶えず新製品を出し続けてリード・タイムの間にある、創業者利益を得ていくしかない。
6月6日 光が丘公園(東京・練馬)にて撮影