「夫婦のルール」
三浦朱門(みうら しゅもん)・曽野綾子(その あやこ)
(本書は、2014年に小社より刊行の単行本『夫婦のルール』
を低本に加筆しました)
株式会社講談社 2016年9月発行・より
<三浦> 私は二十二歳で日本大学藝術学部の講師になったんですが、最初に非常勤講師室に呼ばれたんですね。
そこに待っていたのが栗原一登(くりはらかずと)という人で、
女優の栗原小巻(こまき)さんのお父さん。
非常勤講師の牢名主(ろうなぬし)だったんです。
そこで、こんなふうに言われた。「いいか。菓子屋の小僧ってのは、店の菓子には手を出さないもんだ。ここにはたくさんの女子学生がいるけど、絶対に手を出してはいかん」 と(笑)。
「菓子がどうしても食いたくなったらどうしますか」 と私が聞いたら、
「そういうときは、よその菓子屋から万引きしてこい」。
でも栗原さんは、実は菓子屋の小僧で菓子に手を出してしまった人なんですね。
劇団に入って、女優と一緒になってしまった。
それで生まれたのが、栗原小巻さんなんですよ。
彼は言っていました。
菓子屋の小僧が菓子に手を出したことが、間違いのもとだった。
飯も食えないのに子供が生まれて、困った困った困り切った、というので、
小巻という名前をつけたんだそうで(笑)。
<曽野> そういう表現が、面白いのよね。洒落(しゃれ)た人生の表現の仕方が昔はあったわね。
<三浦> おかげで私は、店の菓子には手を出さないで済んだんですよ(笑)。しっかり教訓を聞かされて。
5月7日 光が丘 四季の香ローズガーデン(東京・練馬)にて撮影