歌舞伎の支配者・松竹 | 人差し指のブログ

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本を読んで面白かったところを紹介します

 

 

 

船曳建夫さんの 「ロンゲスト・グッドバイ」 といふ近頃出色の歌舞伎論(『歌舞伎     研究と批評』 歌舞伎学会、2010年9月)は、歌舞伎役者の家の継承の話からはじまる。

 

(略)

 

この東大教授はさらにつづけて、名跡の襲名には、もちろん他の役者たちの認定が必要だけれど、しかし襲名の決定権を持つのは歌舞伎界の支配者である松竹だと言ふ。

 

 

 

どうやらその通りらしい。「デウス・エクス・マキナのように、全ては、その意思によって、突然、世界に調和がもたらされる」

 

 

たしかに襲名の口上を聞いてゐると、かならず、「松竹会長の御推薦を得て」 とか 「おすすめを受けて」 とか挨拶がはいる。

 

 

 

観客としては、めでたい儀式のなかにとつぜん業界政治がはいりこむやうでいささか白けるが、しかしこれが現実なのだらう。

 

 

 

船曳さんも言ふ通り、「昭和・平成の歌舞伎とは、すなわち松竹の歌舞伎でありその興亡史であった」 もしも松竹の巧妙にして老獪な運営がなければ、この藝能はとうに亡んでゐたかもしれない。

 

 

松竹以外の企業にはとてもできない仕事だったらう。

 

歌舞伎はさういう特殊な演劇である。

 

 

たとえば演目や配役といふ重大事にしたって、わがままな大名題の意向でいろいろともつれたあげく、松竹の奥役が何とかまとめたり、まとめそこねたりして決るものらしい。

 

 

 

「無地のネクタイ」

丸谷才一(まるや さいいち 1925~2012)

株式会社岩波書店 2013年2月発行・より

 

 

花はだいぶ散っていました、光が丘公園(東京・練馬)、4月12日撮影