以前、北京の人民大会堂で大晩餐会が催されたときのことである。
給仕人が次々と新しい料理の皿を持ってきては、
まだ食べ終わっていない前の皿を、取り上げるように持っていってしまう。
食べかけの皿を両手でしっかりと押さえていないと、
アレヨアレヨという間に、目の前の皿が変わってしまうのである。
最初は、給仕人はすべて国家公務員だから、皿をどんどん出して、
早く仕事を終えたいのではないかと考えていた。
ところが、やおら隣の中国人にたしなめられた。
出てくる料理は貴方(あなた)だけのものではない、従業員全部のものである。
貴方が最初に箸をつけた皿を、そのあと従業員みなでいただくのだ、
両手で皿を渡すまいと抑えているのは、利己的行為である
そのとき、呆然となった。確かに 「皆で食べ合う」 は、ユーラシア共通の慣行である。
ヨーロッパのレストランでも、会食者同士で、料理の一部を互いにやり取りしている。
しかし中国は下げた皿についてまで 「食べ合う」 をやるのかと、目の覚める思いであった。
食事を礼儀として食べ残し、目下の者があとでいただいたのは、
ヨーロッパでも日本でも、前近代の話である。
「年寄りは なぜ早起きか」
木村尚三郎(きむら しょうざぶろう 1930~2006)
株式会社 潮出版社 2012年7月発行・より
8月21日 中央公園(埼玉・朝霞)にて撮影
![太陽ー10-8](https://stat.ameba.jp/user_images/20161007/07/hitosasiyubidesu/3d/8b/j/o0567042613766645281.jpg?caw=800)