俳句は世界でもっとも短い詩であるが、特色はそれだけにとどまらない。
年をとってからできる。むしろ年をとってからがおもしろい。
一般に詩というのは青春の文藝である。
若いときはだれでも多少は詩人的でありうるし、さらにこどもはすべて”詩人”である。
ところが、年をとると、詩は生まれなくなる。
ヨーロッパやアメリカでも老年で第一線の詩人として活躍している人はほとんどいない。
これが詩というものの性格であるらしい。
中年になれば、もと詩人になる。
俳句はそうではない。五十、六十になってできなくなるようなことはない。
円熟していっそうすぐれた作品を生む。
俳句は熟年の文芸としても世界に比を見ない。
そのせいであろう。俳人は概して長命である。
七十歳、八十歳になってもなお、実作している俳人がいくらでもいる。
俳句が老化現象の防止のためにあるのでないことは言うまでもないが、そういう効果もあるのは認めても悪くない。
「日本語は泣いている 愛蔵版 ことばの作法」
外山滋比古(とやま しげひこ 1923~)
株式会社PHP研究所2015年4月発行・より
朝霞中央公園のシャリンバイの花(埼玉・朝霞)5月2日撮影
![シャリンバイ](https://stat.ameba.jp/user_images/20160618/06/hitosasiyubidesu/37/fd/j/o0567042613675495455.jpg?caw=800)