「山本夏彦とその時代② 意地悪は死なず
山本夏彦・山本七平
ワック株式会社2011年1月発行・より
<山本七平> そう。私が直接知ってる最後の奇人ってのは山田吉彦(本名)さんです、きだ・みのる氏。
あの人はねえ、うちの遠縁か何かなの(笑)。
私が小学生のころ、うちの近くに住んでたんです。
ものすごく背の高い人に見えてね。こっちが小さかったせいもあるかな。
きれいな奥さんで金持ちのお嬢さんなんです。
この人がね。そういう金持ちのお嬢さんと結婚して、奥さんの着物持ちもの全部質屋へ入れて、離婚したりなんかしてね。
奇人でした、あの人。
<山本夏彦> 戦前、椎名其二(しいなそのじ)たちとファーブルの『昆虫記』を訳していますね。
<七平> それから『気違い部落周遊紀行』。でも御本人もそれに近い一面があったんじゃないですか。
少なくとも若い時は・・・・。汚い恰好してね、いつもわら草履(ぞうり)なんか履(は)いて、着物を変なふうに来てね。
それで自分で買い物に行くんですな。
肉の入った竹の皮なんかを腰に差して、ふところ手して歩いてましてね。何もしないんですよ。
<夏彦> 三好京三(みよしきょうぞう)氏の『子育てごっこ』という小説は晩年のきだ・みのるのことを書いているんですけども、あれはきだ・みのるの一面でしょう。
確かにあのとおりだと思いますけど、ちょっと気の毒です。もう一面が出てないと思いますね。
<七平> 私は気が合ったんですね。
うちのおやじなんて真面目人間だからものすごく嫌いでね。
あれは不良青年で、しょうがない男なんだ。
無精ひげ生やして、なんにもしないんですからね。
あのころは魚屋とか八百屋ってみんな月末払いで配達してきますわね。
それを払わないで半年ぐらいためるといなくなっちゃうんですよ。
朝霞中央公園付近(埼玉・朝霞市)4月29日撮影
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