冬隣り | hitonotoumadeのブログ

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60歳→65歳→ついに『75歳のブログ』

レコード大賞で、「瀬戸の花嫁」をひっくり返した「喝采」の

当時の売上枚数は、約80万枚だった。無敵だった”瀬戸”には

遠く及ばない。

この曲を、ちあきなおみ本人は歌いたくなかったのだ。

5歳から舞台に立ち、デビュー前は、全国のキャバレー回りを

しており、プロとしてお客様を引き寄せる術を心得ていた。 

 

その頃、兄のように慕っていた青年の死に遭遇して

いる。 そんな彼女にとって、「喝采」の歌詞は余りに残酷

だった。

 

レコ大の主催はTBSで、受賞対象は(歌手も含まれるが)

作品そのものだった。 一方、日本歌謡大賞は、TBS以外

の民放が、レコ大に対抗して立ち上げたもの。こちらの対象

は、歌手で自分たちの局への貢献度つまり主に出演回数だ。

また、その歌謡祭は11月発表なので、レコ大側は多少なり

とも、その結果を意識する。 この年は歌謡大賞との違いを

鮮明にし、そこをアピールする絶好の機会だった。

先行している”瀬戸"は、老若男女多くの大衆に指示されてい

る。 それを、後追いのような形で選ぶよりは、作品その

ものを評価した結果として、「喝采」は、ちあきなおみも、

極めて”持って来い”の素材だったのだ。

 

そして、最愛の連れ合いだった郷鍈二を亡くす。

例え”黒い縁どり”が届いても、舞台に立ち”恋の歌”を歌わな

ければならない。 幼いころから染み付いているプロとして

の、心構え、そして覚悟。

しかし、もう自分には出来ないこと。 一線から消えた。

ただ、歌そのものは、彼女の命だった。

 

「吾亦紅」の、すぎもとまさとが作った「冬隣り」という曲

が有る。 ちあきなおみに書いた曲だ。 出だしの6音が、

「喝采」と同じである。

 

あなたの真似をして お湯割りの焼酎のんでは むせています

強くもないのに止めろよと 叱りにおいでよ 来れるなら

地球の夜更けは淋しいよ そこから私が見えますか

この世に私を置いてった あなたを恨んで 呑んでます

 

冬隣りとは、冬がすぐそこに迫っている秋の終りの頃だ。

 

合田道人著 「昭和歌謡の謎」その他 参照