元をたどると一週間ほど前の話。
燃えこれ学園メンバー・當銘菜々のTwitter上で以下の画像が流れてきた。
良くある「誕生日」での組み合わせ遊びである。
そこで當銘菜々は皆はどうだったと聞いてきた。
3月16日生まれの自分は『かっこいい不良』だった。
それだけで良かったのだが、燃えこれ学園の推しメン・蒼音舞の誕生日、6月3日だと『不思議なシンデレラ』となるのだ。
『かっこいい不良』が推す『不思議なシンデレラ』
……なんだこれ?
そこで大石はついこうコメントしてしまった。
……だった。
この一言でちょっとばかし物書き(?)としての血が騒いだ自分は、数日で短編小説一本書き上げました(笑)
……という事で、當銘菜々の無茶ぶりから一本話を書いたので、笑いながら読んでやってください(笑)
推敲とか短時間でやったので、かなり雑です(笑)
なお物語に登場する人物や建物の名称はフィクションです。
実在の人物などとは一切関係はありません(笑)
それを踏まえて、読んでください。
↓以下、本編。
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『かっこいい不良と不思議なシンデレラ』
「またお前か!?大石!」
今日も板橋海星高校の職員室から、生活指導の教員の怒声が校内に響き渡る。
都内でも指折りの不良が集まる同校において、それは日常茶飯事だった。
叱責を受けているのは、三年生の大石。
板橋海星高校の番長を張っている。
「これで今月何度目だ?
また他校の生徒と揉めてからに……」
「すんません」
激怒する生活指導の怒声を聞き流すように、大石は反省の色を見せず口だけで謝った。
大石の悪びれない態度に、教師も頭を抱える。
「今回は暴力沙汰にならなかったから、指導だけに留める事になったが、次は停学処分も覚悟しろ。
分かったら、さっさと教室に戻れ!」
「すんませんでした」
大石はそれだけ言うと、職員室から足早に立ち去った。
だがその足で教室に戻らず、下駄箱の方に向かっていた。
そのまま授業をサボるつもりだった。
「朝から気分悪いぜ」
大石は頭にきていた。
確かに前日、他校の生徒と揉めたのは事実だ。
だがそれは他校の生徒が、同じ高校の生徒を脅迫して金銭を取ろうとする……いわゆるカツアゲの場面に遭遇したからだ。
番長である大石は自校の生徒を助けるため、間に入っただけだった。
「あいつら俺の名前聞いて、びびって逃げたくせに……」
実際に一言、二言会話を続けるうちに、他校の生徒は大石である事に気づき尻尾を巻いて逃げた。
自分から手も出してなければ、相手も手は出さなかった。
だが昨日のうちに告げ口だけされたようで、一方的に自分だけが悪い事にされていたようだ。
大石はそれが面白くなかった。
だがこのように一方的に自分が悪者にされるのは、今に始まった事じゃない。
しかし大石はそれを言い返そうとは思わなかった。
いわばそれが不良のレッテルだと自分に言い聞かせ、自分からは何も言い返すようなマネはしなかった。
生活指導の説教も右から左へ聞き流す事で、なるべく早くその場を収める事に徹したのだった。
そうは言っても、一方的に自分が悪者扱いにされるのは気分が悪い。
大石は教室に戻って授業を受ける気分になれず、そのままサボりを決め込む事を決めた。
しかし街中を歩くと、学ランを着こんでいる姿だと却って目立つ。
これがキッカケで学校に通報されると面倒だった。
家に帰っても良かったが、恐らくこの時間に帰っても母親に口うるさく言われるのは目に見えた。
だからと行って遠出をする程のお金を持ち合わせていなかった。
「しょうがねぇ……あそこへ行くか」
大石はそうつぶやき、校門の外へ出た。
高校から一キロほど離れた場所にある川沿いの土手。
大石の姿はそこにあった。
この川沿いを好んで歩くような者は散歩をしている老人や、ジョギングをしている主婦層くらいなものだった。
時間は午前十時すぎ。
この時間帯、川沿いを歩くような者は皆無に等しかった。
大石はこの場所が好きだった。
天気のいい日は、ただ空を眺めながら寝そべるのが好きだった。
ここにいる時だけは誰にも邪魔されず、一人になれる。
うるさい教師からも、自分を常日頃つけ狙う不良からも、そして何より自分を取り巻く嫌な環境を一瞬でも忘れる事が出来る。
彼にとって、とっても大切な場所だった。
春先の爽やかな風が吹き込む季節。
大石は一人、芝生の上に横たわりボケーっとただ空を眺めていた。
空を眺めて流れる雲を見る……それだけで嫌な事が忘れられるようだった。
やがて雲を眺めているうち、大石はまぶたが重くなるのを感じた。
そして大石はいつの間にか目を閉じた……。
『……~~♪』
……何か聞こえてくる。
『……~~……~~♪』
……風の音?
『……らん、ららら~ら~……♪』
……これは……。
『……ららら~ら~ら~~~♪』
……歌声だ……誰かが歌っている……。
『ら~ららら~ら~ら~、ららら、ら~ら~ら~♪』
……徐々に近づいてくる……。
『らんらら、らんらら~、ら~ら~る~♪』
……だがそれにしても……。
「うるさーい!」
大石は思わず声を上げ起き上がった。
「きゃぁ!」
すぐ隣で声がした。
声の主は……腰を抜かして、芝生の上で尻もちをついている全身を薄い紫のドレスに身を包んだ少女だった。
少女は驚いた顔をして、大石を見つめていた。
「ご、ごめんなさい!
歌に夢中で気付きませんでした。
それに……寝ていたところを起こしてしまったみたいで……」
少女は慌てて、大石に対して謝った。
しかし大石はそれ以上に少女の姿を見て不思議に思った。
その理由は少女が着ている服装にあった。
薄い紫のドレスに、頭には銀色のティアラ、首からは真珠のようなネックレス、腕には絹製の長手袋、そして足はまるで……シンデレラのような透明な靴でコーディネイトされていた。
大石は女性ものの服の知識は無かったが、少なくとも今、目の前にいる少女の服装はどう考えても、この川沿いの土手にはそぐわないものである事だけは間違いなかった。
「……いや、すまない。
俺の方こそ、イライラしていたみたいだ」
大石は素直に謝った。
「いいえ。私こそ……天気が良かったからつい気分が良くなって、大好きな歌を歌ってしまったもので……」
尻もちをついたまま、その少女は微笑んだ。
少女の髪の毛は肩くらいの長さで、軽くウェーブがかかっていた。
にっこりとほほ笑んだその顔は少々丸みを帯びていて、頬がそれこそ真っ白なモチみたいに柔らかそうだった。
「立てるか?」
大石は体を起こした。少女に手を差し出した。
尻もちをついたままの少女は、少し戸惑ったような仕草見せた後で……。
「はい」
……と言いながら、右手を伸ばした。
だが少女が立とうとしたその刹那、バランスを崩してしまいそうになった。
「きゃっ!」
「うおっ!」
少女は大石に体を預ける形になり、二人の体は密着した。
不意に少女の胸の部分が、大石の体に触れた。
(……ああああああ……!)
大石は声にならない声をあげた。
番長として喧嘩は負け知らず、周囲からの人望も厚い彼であったが、女性に対してだけは全くと言っていいほど免疫が無かった。
思春期を迎えて以降、母親以外の女性と触れ合う事の無かった彼にとって、ほんの少し胸が触れた程度でも、それは天地を揺るがすほどの大事件だったのだ。
(……お、女の子の胸って、こんなに柔らかい……。
い、いけない!胸ばっかり見ていたら……)
気が付くと胸ばかりに目が行っていたので、目線を上にあげると、少女の真っ直ぐできれいな瞳が真っ直ぐ彼を見つめていた。
そしてその距離はとても近く、少し顔を前に出せば、唇と唇が触れ合うほどの距離だった。
(……う……うぉぉぉぉぉ!か、かわいい!!)
先程までは意識していなかったが、少女は大石の好みのタイプだった。
自分の目の前に突然現れた、不思議な少女が、突然、何かのラッキーが積み重なり、今、密着している。
既に思考回路はショートしている大石は、この後、どうしようという思考が浮かぶはずもなく、ただただ棒立ちとなったのだ。
「……あ!ごめんなさい!
助けてくれて、ありがとう」
少女もどこか照れ臭そうに、大石から体を離して礼を伝えた。
「……あ、あはは……大丈夫。大丈夫だから……」
大石は先程まで感じた、胸のぬくもりを確かめながら、ただぎこちない笑顔を浮かべていた……。
『ら~ららら~ら~ら~、ららら、ら~ら~ら~♪る~るるる~♪』
大石と少女の出会いから小一時間経とうとしていただろうか。
少女は一人ご機嫌そうに歌い続けていた。
時に楽しそうに、時に嬉しそうに、時に踊りを交えて彼女は歌い続けていた。
一人で歌って、踊って、何が楽しんだろう?
その光景を疑問に思いつつも、大石はただ少女が歌っている姿を見つめていた。
少女が一曲歌い終えるのを待って、大石は声をかけた。
「なぁ」
「あら?いかがなさいました?」
「さっきから一人で歌って、踊っているけど……何が楽しいんだ?」
少女は少し間を開けて答えた。
「舞踏会の練習ですわ」
「ぶ、舞踏会?」
少女の返事に大石は戸惑いを見せた。
「ええ。私をいつか招かれるであろう、舞踏会に向けて……こうして歌いながら、踊って、来たるべき日に向かって、今日も一日練習しているのですわ」
大石はその答えにどう返せばいいか分からなかった。
しかし自分から聞いた以上、無責任に放置する訳にはいかなかった。
「その……舞踏会には、いつ招かれるんだい?」
「そうね……明日かも知れないし、明後日かも知れない。
もしかしたら一週間後かも知れないし、一か月後、一年後……もっと先かも知れない」
「そ……そうなんだ」
不思議な事を言う娘だ。
大石はそう思った。
舞踏会なんて、おとぎ話の世界の話であって、現代の日本において開かれるとはとても思えない。
それにこのご時世において、そんな舞踏会を開くような金持ちでもいるだろうか。
そんな事を思っていた。
「私もよろしいかしら?」
今度は少女の方から、大石に質問をぶつけた。
「な、なんだ?」
「そのあなたの着ている服……ちょっと変わっていると思うの。
これはどのようなファッションかしら?」
少女は大石の服装を気にした。
大石は学ランを着ていたが、ボタンはかけていないため前ははだけて、下に着ていたガラもののTシャツが露出していた。
更に袖をまくっている上、あちこち喧嘩のために出来たつぎはぎが目立っていた。
学ランだと説明すれば事足りたかも知れないが、今でも不思議な言動を繰り返す少女の事だから学ランの知識もない可能性があった。
「あぁ……いや俺なりの服の着こなしだよ。
この方が楽だし、いざとなったらこの方が動きやすいしな」
大石がそう答えると「まぁ」と少女は驚きの声をあげた。
「動きやすいって……あなた、何かなさっているの?
体を動かすような事とか?スポーツとか?格闘技とか?」
「ま……まぁ……そんなところかな」
(まさかここで喧嘩しやすいように……とか言えないな)
大石はそのように答えて誤魔化したが、少女は興味の眼差しを大石に向けていた。
「でも羨ましいな……体を思いっきり動かす事が出来る人って。
私は運動があまり得意じゃないから……ダンスだって下手くそで、誰も練習に付き合ってくれないし……」
少女はふと寂しそうな目をした。
すると何故か大石は、少女をこのまま放っておいてはいけないという気持ちになった。
「な……なぁ!」
大石が突然、大きな声を出した。
「なに?」
少女は驚いたように返事をする。
「お、俺もダンスは踊れないけど、その練習に付き合えるなら……手伝っても……」
大石がそのように申し出ると、少女は一歩、二歩、大石の前に出て、そしてその両手を握った。
「嬉しい……」
「え……?」
「あの……私とダンスを踊ってくださるの……ね?」
少女は頬を紅潮させて、大石に言った。
そして大石もまた少女に手を握られて、顔を赤らめていた。
「え……えぇ!?
俺はダンスの練習に付き合うって……」
「つまり……私と一緒にダンスを踊ってくれる……のですよね?」
大石はこの時、初めて彼女の言っている事を理解した。
舞踏会のダンスの練習。
つまり相手役を務める事。
少女はそのように解釈した事が分かった。
「で、でもいきなりダンスだなんて……俺も踊れない……」
「そんな事いいの。
一緒に私とダンスを踊ってくれる、殿方がいるだけで……」
少女の目は瞬くよう星のように輝いていた。
大石はその目を見て、彼女の期待に応えないといけない……強く思った。
「……それで、俺はどうすればいいんだ?」
意を決して大石は少女に聞いた。
「私の左手をとって……」
「こ、こうか?」
「そして左の腕を私の腰に回して……」
「……こ、こう?」
「次にこのようにステップを踏んで……」
少女は一つずつ丁寧にダンスの手順を教えた。
大石は慣れない動きで、少女をエスコートするので精一杯だった。
少女と体は密着しているが、先程のように浮かれる余裕はなかった。
だが少しずつするうちに二人の呼吸が整い始めて、ぎこちないダンスはやがて徐々であるがスムーズになっていった。
何も無い川原の土手でダンスを踊る、学ラン姿の不良とドレス姿の少女。
とても滑稽で不釣り合いな情景が、そこにあった。
だがこの情景を見る者は他になく、いつの間にか二人たちだけの時間をただ時を刻むのであった……。
「お嬢様ー!」
二人だけの時間を引き裂くように、土手の上から声が響いた。
その声の先には黒い長袖の服に、白いエプロン姿のメイドがそこに立っていた。
彼女の後ろには、高級そうな黒い車が一台停車していた。
「あら!いけない!
お迎えの時間だわ!」
少女はそう言うと、大石から体を離した。
「え?そ、そうか……」
大石は我に返り、現実に引き戻された。
ふとスマホで時間を確認した。
時計はいつの間にか、昼の十二時前を指していた。
「ごめんなさい。
お昼の十二時になったら、私、帰らないといけないの。
今日は楽しかったわ。ありがとう」
少女はドレスのスカートの裾を持ち上げて、大石に礼を言った。
「い……いや、俺の方こそ……」
大石は頭をかきながら返事した。
「お嬢様ー!そろそろお帰りにならないとー!」
「わかったわ、のあ!
今、そちらに向かうわ!」
少女は自分を呼び出すメイドに向かって、大きな声で返事をした。
「それではこれにて……」
「あの!」
少女がお別れの挨拶をしようとしたところで、大石は呼び止めた。
だが何を言おうか、考えていなかったので続く言葉が出てこなかった。
最初は不思議そうに大石を見つめた少女だったが、すぐに笑顔になった。
「また明日、ここに来ますわ」
「え……?」
少女は大石に話しかけた。
「私、毎日、ここに朝の十時頃にいますわ。
だから明日も……それがダメなら明後日でも、いつでもいいから、また……来てくださる?
そして私のダンスの相手をして……いただけないでしょうか?」
少女は大石に微笑みかけた。
「あ、あぁ」
大石は返事した。
「ごきげんよう。そう言えばあなたのお名前は……」
「大石……」
大石は苗字だけ答えた。
下の名前を言うのに、まだどこか恥ずかしさと抵抗が残っていた。
「ごきげんよう、大石様」
「それじゃ……えっと……」
「私の名前は舞。
……舞とお呼びください」
「それじゃ……また明日、舞」
大石がそう言うと、少女……舞は大石に微笑んだ後で礼をして、そのまま車に乗り込んでどこかへ行ってしまった。
「舞か……。
昼の十二時に魔法が解ける『不思議なシンデレラ』ってところか……」
車が走り去った方向をただ見つめていたが、やがて自身の腹の虫が鳴る事で、大石は時間の経過を実感するのであった。
これが……ちょっと『かっこいい(?)不良』の大石と『不思議なシンデレラ』舞。
二人の初めての出会いだった。