※この舞台は12/2~12/6まで行われた舞台で既に公演は終了しています。
このレポートではお馴染みの「ジャングルベル・シアター」
今年の夏のギャラリー公演を経て、今年も本公演となりました。
例年ならもう少し早い時期のイメージがありましたが、今年は12月となりました。
しかし……今回、いつもの本公演と違う点が一点……。
二週間に渡るロングラン公演。
しかも二公演連続。
ジャングルベル・シアターにとっても21年目にして初の挑戦らしいです。
確かに昨年「おとぎ夜話・特別編」で別の物語を交互に公演するという事はしていましたが……二週間のロングランは初めてとの事。
果たしてそのロングラン公演、どうなったのか……。
まずは二公演連続のうち、一本目となったのがこの作品……「DOGのBLUES」
恐らくジャングルベル・シアター……いや脚本家・浅野泰徳史上、最も成功した作品の一つと言って過言では無いでしょう。
初演は2007年春ですが、以後、タイトルを変えて何度も上演されたタイトルです。
それが2016年冬……約10年ぶりに本家本元、ジャングルベル・シアターの手によって再演される事となりました。
ある意味、凱旋帰国!
ジャングルベル・シアターでは無いところで愛された物語が、再びジャングルベル・シアターの元に戻ってどうなるか……という。
恐らく脚本を手がけた浅野氏にとっても、旅に出て成長した我が子を再び迎えて、世に送り出そう……そんな心境だったのではないか……勝手に憶測しています(笑)
そんな訳で今回の舞台が行われたのは、中野momo。
何度かお伺いした事のある劇場ですが、数年ぶり。
しかもジャングルベル・シアターで入るのは初だと思います。
(もっともジャングルベル・シアター自体が、中野momoで舞台をするのは久々だったと思いますが)
客席と舞台の近さが魅力的なこの会場で、これからどんな物語が繰り広げられるのか……。
劇団員・西村太一氏の前説を挟んで、いよいよ物語の幕は上がります……。
公演終了後につきネタバレ有りのあらすじをば……。
……今より少し昔の話……。
ある港町が舞台に飼い犬グループと野良犬グループの二つの派閥に分かれていた。
そんな港町の喧騒をよそに一頭……ボクサー犬のブルース(二宮康・以下敬称略)はある広場を住処とし、ひっそりと暮らしていた……。
ある晩、ブルースは縄張り争いに巻き込まれたメスのプードルの仔犬・メンフィス(稲垣希)を助ける。
野良犬のリーダー格・ジャッキー(福津健創)をいとも簡単にあしらい、飼い犬グループのボス・裕次郎(篠崎大輝)にも一目置かれる存在となる。
これをキッカケにジャッキーは港町を追い出され、そしてメンフィスはブルースに淡い恋心を抱くようになる……。
……それから二年の月日が流れ、仔犬から成犬になったメンフィスはボスに次ぐNo.2の座にいた。
ブルースは相変わらず、空き地を住処に、たまに食べ物を探す日々を送っている。
飼い犬たちを中心に平和な日々がこのまま続くと思われたが……ある日、ジャッキーが自分たちの群れを作り港町に戻ってきた。
対抗する飼い犬グループと、ジャッキー率いる野良犬グループ。
迷惑がるブルースを尻目に、ブルースの住処である広場でいざ決戦が行われようとした……その時!
一頭のメス犬が一瞬にしてオスたちの心を奪っていった。
いがみ合っていたオスたちは一時休戦。
突然、港町に訪れた春の嵐と、思ったより早く訪れた終焉……。
そして再び訪れる抗争、愛憎渦巻く人間……もとい犬模様。
ブルースは何故、そこに居続けるのか……。
メンフィスの恋の行方はどうなってしまうのか……。
これは少し懐かしい景色の中で繰り広げられる、犬たちの群像劇である……。
本当に前半のさわりしか触れてないですねぇ(笑)
でも全部を全部言っても、ネタバレでDVD売り上げの障害にしかならないので(汗)
……と、この物語に登場するキャラクターは、全て犬。
人間なんて一人も出てこない。
数年前に公演された「天満月のネコ」が、最近のジャンベル作品の中では一番似た体裁を持っていただろうか。
(この作品では猫以外の動物も少々出たり、少しだけ人間が絡んでいるけどシルエットで出てくる程度)
ただ人間が犬を演じる姿が滑稽に思える方も中には多いと思うのですが、それが不思議なもので途中からステージの上の彼らが犬に見えてくるものなんです。
言ってしまえば、この舞台は犬が人間の姿を借りている(いやその逆?)……と思える次第です。
物語は犬たちの物語ですが、でもそこに妙な人間くささや、犬ならでは厳しい現実をうまくミックスさせています。
ただこの塩梅が非常に重要で、どちらかに偏りすぎると、きっと面白くないものに仕上がっていたと思います
例えば印象的だったのが、この物語のキーマンになってくるドーベルマン親子とブルースの過去。
ドーベルマンの母「C-05」(松宮かんな)は、奇形で生まれてきた最後の娘・ノゾミ(都築知沙)と共にある施設から逃げ出したという設定。
逃げたはいいけど、安全な寝床や食料に困っていたところ、野良犬グループの誘いを受け、港町制圧の障害となるブルースと戦うよう依頼します。
こうしてブルースとドーベルマン親子は対面を果たしますが、ブルースは「C-05」の耳のタグで気付きます。
「あの施設にお前も居たのか……」と。
実はブルースもドーベルマン親子もかつて、劣悪な環境の繁殖施設におり、本来なら殺処分になる寸前のところで逃げ出したという経緯があったのです。
お互い、地獄のような環境を知る者同士、ドーベルマンの母「C-05」はブルースと敵対する立場にありながらも、こういうのです。
「お前とは戦いたくない」……と。
この一連の設定は、犬の置かれている厳しい現実と、ヒューマンドラマが交錯した結果、生み出されたものだと思っています。
ここであまり犬の繁殖施設の厳しい現実を描きすぎると、途端に面白くなくなっていたと思います。
逆に過度にヒューマンドラマが過ぎると、犬の話っぽく無くなってしまう危険性は孕んでいました。
もっとも過去に人間以外の登場人物(?)を、活き活きと描いてきた脚本・浅野泰徳氏です。
そのへんの塩梅はさすがに匙加減がうまかったと思います。
他にも同様の所感を持ったシーンは幾つかありますが、ここでは敢えて触れないでおきましょう。
こうして港町を舞台にした、犬たちの群像劇を1時間40分の上演時間で見事に描きました。
観劇後のどこかセンチメンタルな気持ちが心地よく、また犬たちの逞しい姿から元気をもらえる舞台でした。
さてここからは二回公演を観た経緯もあり、各出演者について語っていきたいと思います。
出演者の皆様はよろしくお願い致します(笑)
※パンフレットの出演者名義の順番とはかなり前後しますが、その点はご了承ください。
・ブルース……二宮康(DOMO)
港町の広場を住処にしているボクサー犬。現在は野良犬だが、どのグループにも属していない。かつて繁殖施設から逃げ出し、広場にかつてあった喫茶店で飼われている犬だった……。
ジャングルベル・シアターには今回初出演。経歴を調べたところ、某特撮番組にも出演されていたようで……。
舞台の上からでも分かる、その非常に大柄な体格はまさにボクサー犬のイメージにピッタリ。終始、どこか「一匹狼(?)」の雰囲気を漂わせる無骨な印象もカッコイイ。
時折見せる感情の起伏が非常にアクセントになっておりました。ラストの遠吠えのシーンは物語の幕を閉じる意味でも震えるワンシーンでした。
・メンフィス……稲垣希
プードル犬のメス。仔犬の時に助けてもらったブルースに淡い恋心を抱く。飼い犬だが耳が奇形のため、他のきょうだいと違って放し飼いをされている。
昨年秋の「悟らずの空2015」(火杏媛)以来の出演。初演でも同じ役を演じていたとあって、非常にハマリ役だったと思います。
劇中の初登場時がまだ仔犬だったのに、その後、成犬になってからの演技など微妙な変化の使い分けが非常にうまかったと思います。
劇中では色々有り過ぎて、かわいそうな役回りだったけど、それでも健気にブルースを想う姿は胸を打ったし、そんなメンフィスがかわいくて仕方なかった。
・裕次郎……篠崎大輝(ジャングルベル・シアター)
エアデールテリアの雑種。飼い犬グループの長で港町界隈を収めるボスだが、老犬の域に入っている。名前の由来は飼い主が「石原」さんから。
すっかりこの劇団ではお馴染みとなった篠崎氏。今回は老獪なボス犬を見事に演じ切っている。
老犬という事もあり、初登場時の威厳ある姿からはなりを潜めていくが、時にブルースの話し相手になったり、他の犬の心情を察する優しい一面も持ち合わせているように見えた。
そういえばこの劇団では作中での死亡率が高い篠崎氏。今回はお亡くなりになりませんでしたな(笑・もっとも今回、劇中で誰も死なないような話でしたが)
・フクスケ……西村太一(ジャングルベル・シアター)
柴犬(の雑種?)。飼い犬グループでは最年少。本名は飼い主がファンである影響で「ビートルズ」(→そこから複数形=フクスケと呼ばれる)劇中でモモコと恋仲に。
ベテラン劇団員の西村氏。いつもならその運動神経を遺憾なく発揮するタイプの役が多いが、今回はどこかお坊ちゃん気質溢れる役に。
終始、ほんわかした役回りで場の雰囲気を和ませてくれるのですが、終盤、裕次郎を裏切ろうと仕掛けるところなど気概を見せる面も良かった。
今回は前説も含めて、お勤めご苦労様でした。次回はもう少し暴れ回る西村氏を拝見したいです。(役次第でしょうが)
・ペロ……大中小
ビーグル犬の雑種。飼い犬。誰にでも腹を見せて服従する姿から「腹だしペロ」と呼ばれる。劇中でキャンディーに最も夢中になった一頭。
ジャングルベル・シアターには初出演。別の劇団で一度拝見した事がある方でしたが、ご本人に聞いたところ、客演や外部への出演自体が初なのだとか……。
非常に若々しくてハツラツとした演技が印象的。お調子者で登場するたび、会場を沸かせてくれるムードメーカー的な一面が印象的でした。
終盤のキャンディーの前で見せた男気も個人的には好き。ちなみに本人の名前は「おおなか しょう」と読むのが正しい模様。
・キャンディー……天野耶依
ビションフリーゼのメス。ブルースの住処の隣に引っ越してきた金持ちの飼い犬。ブルースを除くオス犬を虜にするが、劇中で捨て犬に……。
ジャングルベル・シアターには初出演。まずとにかく一言だけで言うなら「かわいい」(爆)めっちゃくちゃかわいい(爆)
ご本人が鼻筋通った美人さんで、それだけで華がある。これだけかわいいならオス犬たちが虜になるのもとても良く分かる……。
劇中でも飼い犬時代のかわいらしさと、捨てられてからのすさみ具合の差がいいアクセントになっていました。
・アンソニー……千葉太陽
ビションフリーゼのオス。キャンディーのお婿さんとしてペットショップから買われたが、劇中でキャンディー同様捨て犬になってしまう。
この方もジャングルベル・シアターには初出演。港町のオス犬たちの青春を一瞬で終わらせた張本人(犬?)だが、真骨頂は捨て犬になってから。
一時はキャンディーに見捨てられるが、ブルースの言葉で発起し、キャンディーのために人間に蹴られながらも、餌を探す姿に男を見た。
なおところどころ、有名アニメキャラのパロディなどで笑いも提供してくれたキャラ。出演時間の割りに美味しいところは持っていた感がします。
・ミニー……長尾歩(劇団AUN・マウスプロモーション)
プードル犬のメス。メンフィスの母親。飼い犬にかわいがってもらう事を身上にするあまり、メンフィスを蔑ろにしている節がある。
昨年秋の「悟らずの空2015」(提玉)以来の出演。この劇団ではすっかりお馴染みの出演者の一人で、非常に落ち着いた役回りが多い印象。
……でしたが、今回は珍しく、そのイメージと若干異なる印象を抱く事に。正直、前半はただのワガママな犬で実は劇中でも好きになれない役回りでした。
後半でようやく改心し母犬らしい面を見せて、いつもの彼女らしい印象を受けました。そういう意味ではこれまでの彼女とは違う一面が観れたよう思います。
・ジャッキー……福津健創(ジャングルベル・シアター)
ポインターの雑種。裕次郎に一度は港町を追い出されるも、二年後に一味を率いて舞い戻った野良犬グループのボス。
恐らく劇中で一番、役の印象が変わったのが福津氏演じるジャッキーでは無いかと。最初はただのやさぐれた若造が、群れを組み子分を作るうちに変わったように思います。
特にターニングポイントとなる、ノゾミとの交流以降はボスというよりは、人のいい兄貴分の一面が垣間見えます。
それでも随所に見せる鬼気迫る見せ場と、非常になりきれない人情味(?)溢れるキャラクター、そして髪の毛ネタ(笑)は福津氏の得意とするところでしょう。
・ロック……金澤洋之(劇団熱血天使)
野良犬だがダルメシアンの純血種。小さい頃、ジャッキーに拾われて育てられ、以後、ジャッキーの右腕としてその知能で彼を支えてきたが……。
ジャングルベル・シアターには初出演。恐らく今回の劇中を通して、最も犬らしくない犬を演じたのが彼では無いかと。
言葉巧みに犬たちを操り、最後はジャッキーに取って代わろうとする、フィクサー的な役回りを好演。結果的にやられ役になってしまったけど、非常に観てて面白かったです。
ほぼ全編に渡り冷静さを保っている役回りでしたが、劇中の「関白宣言」と終盤の尻尾を振っている姿は印象的でした。
・モモコ……谷口明日菜
柴犬の雑種。ジャッキーの一味で鼻がすごいいい。劇中でフクスケと恋に堕ち、やがて彼との間に子供を身ごもる。
ジャングルベル・シアターには初出演。言ってしまえば、今回の「裏ヒロイン」的な立ち位置。
中盤からは主にフクスケとのロマンスが中心となり、メンフィスをブルースから遠ざけるための役回りなど小回りが非常に効いた印象が強いです。
個人的なハイライトはキャンディーに対して「あっち行け!」と怒ったシーンと「ひと夏の経験」を歌ってフクスケの前に現れたシーン。あれは良かった。
・ロッソ……氏平充信(劇団NEXTf)
中国で食用犬として扱われている赤犬。ロックの子飼いにあたるが、劇中ではジャッキーの指示に従う事が多い。
ジャングルベル・シアターには初出演。劇中では「おいしそう」と呼ばれたり、恐らく登場キャラクターの中では一番ぞんざいな扱いに……。
主に力王とのコンビでブルースとの戦いで活躍。中盤から終盤にかけては、ブルースとの戦闘で多くの見せ場を作る。
ブルースにやられる寸前「ちょっと待って」→「やっぱ殴って」と言って退場するすシーンは、実は結構好きなシーンの一つ。ちなみにロッソはイタリア語で「赤」の意味。
・力王……青木隼
土佐犬とポメラニアンの雑種。ロックの子飼いにあたり、ロッソ同様劇中ではジャッキーの指示に従う事が多い。
ジャングルベル・シアターには昨年春「おとぎ夜話・特別編」以来の出演。今回、多くの皆様が劇中で犬に見える中、この方だけは例外(笑)
キャラクターの元ネタが、プロレスラーの故・橋本真也。劇中の台詞「時は来た!」→直後、ブルースに殴られる→「それだけだ!」と言いながら去るシーンはまさにオマージュ(笑)
時々、プロレスネタを脚本に盛り込むジャンベルですが、その真骨頂(?)橋本……もとい力王を見事演じ切りました。
・C-05……松宮かんな(ジャングルベル・シアター)
ドーベルマン。娘のノゾミと共に繁殖施設から逃げたしたところを、ジャッキーたちの用心棒としてスカウトされる。ちなみに「C-05」は耳のタグの表記で、実は名前が無い。
ジャングルベル・シアターが誇る看板女優、松宮かんな様。今回の凄いシリアスでカッコイイ役を演じておりました。
それなのに随所にお茶目な一面を覗かせるなど、ただ硬派なだけでなく、硬軟入り混ぜた演技の数々はお見事。
孤高の戦士にして、娘を守る母親として、最高に素敵な母親を演じました。個人的には終盤でノゾミに「私の自慢の娘だ」と言って抱きしめるシーンに感動。
・ノゾミ……都築知沙(ジャングルベル・シアター)
ドーベルマンでC-05にとって最後の娘。右前足に奇形がある。母がジャッキー一味に雇われてからは、ジャッキーになつく。
今やすっかりジャンベルが誇る、少年少女ポジションを確立した都築嬢。今回もその本領発揮とばかりに、かわいらしい健気な仔犬を演じます。
最初は母に過保護に守られている節があったが、終盤、ジャッキーを救うためにロックに噛みつき、ジャッキー逆転のキッカケを作るというシーンは胸が熱くなった。
劇中においてはジャッキー一味のムードメーカーであり、最後はジャッキーの心すら動かしてしまったノゾミ。都築嬢の好演が非常に光りました。
……こうして各出演者振り返って見ました。
この舞台に関しては客演の方は、ジャンベル初出演の割合が非常に高く、どちらかというと新鮮な気持ちで拝見出来ました。
自分自身、この舞台が完全初見だったのも手伝ったとは思いますが、非常に浅野氏らしい優しい世界観の舞台だったと思います。
また実家でかつてラブラドール・レトリバーを飼っていた事もあるので、犬好きな方にはたまらない世界観だったと思います。
余談ですが今回登場するキャラの中で、一番親近感を覚えたのは裕次郎。
石原さんだから「裕次郎」ですが、うちも大石さんだから「くらのすけ」と名付けたものですから(笑)
……さてそんなジャングルベル・シアターの犬たちの物語。
普段ならこのまま終わって、また次の新たな物語を待ち遠しく思うのですが、この公演のすぐ後にもう一つ、また新たな物語が控えています。
物語の終盤……ブルースは遠目にですが、自分に初めてぬくもりを教えてくれたかつての主人の姿を見つけます……。
「歩くん……」
……ブルース曰く「本を読むのがとても大好きだった」このかつての主人である少年が次の物語の主人公になります……。
ジャングルベル・シアター公演「リヒテンゲールからの招待状」の観劇レポートは……。
後日!(笑)
・ジャングルベル・シアター公式サイト↓
http://www.junglebell.com/