※この舞台は6/25~6/29まで行われた舞台で既に公演は終了しています。
世間ではサッカーW杯が大盛り上がり……残念ながら、日本は敗退しましたがいかがお過ごしでしたでしょうか。
ちょうどサッカー日本代表が残念ながら敗退したタイミングで、ある劇団の公演が初演を迎えました。
今年の4月から観劇をしていなかった私にとって久々の観劇となったのは……ジャングルベル・シアター半年振りの本公演。
もう私の観劇レポートシリーズではお馴染みの劇団です。
今更、ジャンベルの説明はしなくても……という事で、ジャングルベル・シアターを知らない方はGo○gle先生を頼りにしていただけると助かります(笑)
今回の公演タイトルは「ヒュウガノココロ」
実はジャングルベル・シアターが2003年に初演を行った演目で、このたびなんと11年ぶりの再演となりました。
ただ再演と言っても11年ぶり。余程の劇団のオールドファンで無い限り、殆どの方が初見になるでしょう。
また再演といいつつも「リライト版」と表現しており、初演とはそれなりに脚本も書き直している模様。
全くの新作と思って観ていい作品でしょう。
しかしこの「ヒュウガノココロ」という作品、多くの劇団員にとって節目となった作品。
2003年の初演がジャンベル初出演だった劇団員もいるのですが……今回の再演にとっても大きな節目を迎える事となった方もいました。
(その点については後述します)
会場は地下深くに鎮座する事で有名な(笑)大塚・萬劇場。
会場に辿りつくまでの階段の踊り場には、小学生の頃、お馴染みだった壁新聞の数々が貼られていました。
これらの壁新聞、今回の出演者の手により書かれていましたが、確かにこんな新聞書いていたよな……なんて思いつつ、見ておりました。
そんなお楽しみを経て、すっかりお馴染みの劇場に到着。
こうして席について開演の時間を待ちます……。
一部の回では15分前企画と称して、ジャンベル主宰・浅野氏による身近な民族学のレクチャーがあったりしつつ、いよいよ舞台の幕は上がります。
以後、公演終了につきネタバレ有のあらすじを……。
テレビドラマも好調なヒーロー「宇宙記者レッドマン」を演じる俳優・日向大介(青木清四郎・以下敬称略)は、翌日に控えたサイン会のためにある地方に来ていた。
しかし以前からレッドマンの設定が気に入らず、前からレッドマン辞めたいと思っていた日向はマネージャーの清水(程嶋しづマ)にサイン会には行きたくないと駄々をごねて困らせていた。
そこへ突然現れた、日向の恋人で歌手の夏樹百合(野上あつみ)の説得で思いとどまる。
そんな一連のやり取りしていたその場所は、かつて日向が3ヶ月ほど通っていた小学校の校門前だった。
懐かしさのあまり勝手に門を開けて中に入る日向。
そこへ現れたかつての日向を知る用務員の園田(本多照長)と懐かしい話に花が咲いたところで、日向の思い出が詰まった中庭で酒盛りを始める。
酒盛りの最中、清水が植物に詳しい事で百合の興味を引いたが、それが面白くない日向はある植物を引き抜いて、清水に突き出す。
しかしその植物こそ、既に絶滅したとされているヒュウガホシクサだった。
まだ引き抜かれてないヒュウガホシクサを見つけた清水が大学に電話連絡するというドタバタでいつの間にか酒盛りは中断。
清水、園田がその場を立ち去り、日向に別れ話を持ち出した百合もその場を立ち、日向は中庭に一人残される。
そこで日向はあるおもちゃを見つける。
それは日向が転校する日に置いていった「ヒュウガレシーバー」と名づけた、ブレスレッド状のトランシーバーだった。
もう電池も錆びて動かないと思っていたが、一瞬動いたような気がした……。
やがて眠くなった日向は一時の眠りにつく……。
しかし目が覚めたそこは……植物が人のように動き回る、あの小学校の中庭だった……。
果たして不思議な世界に巻き込まれた日向たちは、元の世界に戻れるのか!?
そしてそこで出会った植物や動物たちと触れ合った日向たちに訪れる心境の変化とは……!?
小学校の中庭を舞台にした不思議な不思議な物語。
待っている結末は如何に……。
あらすじは本当に導入の前半も前半。序盤の部分のみに触れています。
もう少しネタバレしますと、その巻き込まれた中庭の世界はマリ・ソル(松宮かんな)というひまわりの支配者(?)がいて、周りの植物の養分を吸い取っては生き永らえています。
次は自分たちが狙われると悟ったヒュウガホシクサ達はかつて自分たちを救った、伝説のヒーロー・ヒュウガマンに助けを求め続けていた。
そこに現れたのが、20年前に小学校でヒーローごっこをしていた当時のヒュウガマンこと、日向大介……という話である。
植物や動物たちが人間と同じようにしゃべり、動き回るというファンタジーな世界に、戦隊物のヒーローが巻き込まれた構図……。
一見すると決して交わる事の無い世界の融合にも思えますが、これが噛み合うのがジャンベルテイスト。
浅野氏の書く世界というのは、本当にこういうのがうまいと思う。
肝心のストーリーについては、本線はオーソドックスなヒーロー物の構図を中心に置きつつも、ジャンベルが得意とするヒューマンドラマがそこには展開される。
小学校の中庭の植物たちの争いに巻き込まれる形になった日向たち人間が抱える弱さや悩み、欠点を植物、動物たちと触れ合う事で解決したり、もしくは人間的に成長する過程を程よく織り交ぜている。
今回の登場人物は非常に良く出来ていて、高齢の園田以外の人間(日向、清水、百合)は何かしら抱えている。
一方、植物や動物たちは、状況的な困難に晒されたりしても、ありのままの姿で生き、そして本能に従い行動している。人間と植物、動物たちの言動の対比を観ていても面白い。
だから誰かしら、思い入れのある登場人物が出来たり、またその台詞に何か突き刺さるものはあるはず。
これだけ観ると説教くさい物語……に思うかもしれませんが、全くそんな事はなく、全編通して笑えます。
良くある前半から中盤まで大爆笑、後半にかけてクライマックスでお涙頂戴……なんて事はなく、後半でもちょいちょい笑いが入ります。
だけどこのちょいちょい笑えるのが重要で、恐らく全く笑える要素無しの舞台だと、本当に堅苦しくなってしまっていた可能性もあります。
逆にそういう少し笑えるからこそ、感動するシーンでのアクセントに繋がっていると思います。
後述しますが物語的には中盤のあるシーンが、明らかなターニングポイント。
とにかくそのターニングポイント以降、物語は劇的な変化を迎えます。
ただその変化を丁寧に表現しているのが、浅野氏の力量では無いかと感じる訳です。
物語本編についての感想が中心になっていますが、それ以外も優秀でした。
まず印象的だったのは衣装。
人間達以外の植物、動物たちの衣装ですが、どれも特徴的かつかわいいです。
劇中、ひまわりや朝顔、トウモロコシなど様々な植物が出てきますが、どれも分かりやすい。
逆にヒュウガホシクサや、オオイヌノフグリと言った小さな草花は特徴をピンポイントで捉えるように工夫されているので、実物を知らなくてもイメージが容易でした。
あと動物たちはそのまんま(笑)
基本着ぐるみ系が多かったですが、シマミミズの衣装は秀逸。
演じた長尾歩嬢の右手が頭部になり、そこから全身を彼女の体を巻きつかせ、尻尾が左手の方に流れる構造になっていました。
劇中でもパペットをしゃべらせるような要領で、頭部(右手)を動かして演じていました。
今回は特に衣装が頑張ったと思う訳です。
また舞台上のセットについても、校門の柱の使い方だったり、背後の雑草のセットだったり、印象的なものは多かったです。
演出面も完全な暗転は、劇中では一回あったくらいで、集中力が殆ど途切れる事なく観劇が出来ました。
上演時間は1時間50分。
非常によくまとまっており、2時間近い長さを感じさせない作りでした。
通常、何度か拝見していると残念だった点が幾つか思い浮かんだりするんですが……。
今回に関してはあまり無いですね。
強いてあげれば、2003年に初演で演じられた舞台なので、今の浅野氏の脚本では考えられないような残酷な描写があった程度でしょうか。
でもその最近のジャンベル作品と、本作品のその微妙な差異ですら新鮮に映るのですから、見方を変えれば趣が深いという事になります。
さてここからは……出演者をじっくり掘り下げて挙げて、語らせていただきたいと思います(笑)
怖くないですよ。くどいですが(笑)
・日向大介……青木清四郎(カプセル兵団)
※ジャングルベル・シアターには2013年春公演「天満月のネコ」以来3度目の出演。
俳優。「宇宙記者レッドマン」で主役を張っているが設定が不満で降りたがっている。3ヶ月だけ通った小学校で毎日「ヒュウガマン」と名乗ってヒーローごっこをしていた。
本作の主人公。中盤までは外面ばかりカッコつけたいがために、大よそ主人公らしくない(もしくはヒーローを目指した人間とは思えない)言動が目立ったが、中盤のヒュウガホシクサ達の最期をキッカケに一変する。
前半と後半で最もギャップがあるキャラクター故、好き嫌いは分かれるところだが、それをひっくるめて青木氏の好演、熱演が光った。
ポージングやアクションの数々は流石の一言。物語を通じて人間的に一回り成長した姿を見せるが、その姿はまさにヒーローそのもの。感動を与えてくれた。
・清水恵一……程嶋しづマ(ケッケ・コーポレーション)
※ジャングルベル・シアターには2013年冬公演「八福の神」に続き5度目の出演。
日向のマネージャー。いつもすぐに頭を下げて謝るため、他人に馬鹿にされている。大学時代は植物の研究を専攻。アイドル好きが興じてマネージャーになった。あだ名は「ミミズ」
物語前半は良くも悪くもいじられ役。自分の仕事にも自信を持てないでいたが、中盤でシマミミズのコゴミとの出会いを経て、大きく変わっていく。
前半ではコミカルなキャラクターだったが、中盤以降、自分の使命に目覚めてからは、迷いが吹っ切れたように邁進する姿は見ていて胸がスッとする。
ある意味、日向以上にテンションや、立ち位置が目まぐるしく変わる難しい役柄でしたが、程嶋氏が見事に演じきりました。もう一人の主人公と言って過言ではない活躍でした。
・夏樹百合……野上あつみ(ジャングルベル・シアター)
歌手。「レッドマン」のエンディング主題歌を担当していたが、第2期からは下ろされてしまう。日向の恋人でもあるが、別れを切り出すなど関係は微妙。本名は「ホシノ ヒトミ」
何もかもがうまく行ってないために自信を大きく失っていたが、ムージー、コゴミ、しづる、そして清水らの言葉を受けて、物語の最後では立ち直ろうとする姿を見せる。
ジャンベルで長くヒロインを演じ続けた野上あつみ嬢だが、最も今の彼女にマッチしている役だったように思える。とにかく色んな意味でハマった。
ありのままの彼女の、ありのままのヒロイン。まさに野上あつみ嬢における理想形のヒロインだった。今回を機に休団するのが非常に惜しい……。
・園田幸三……本多照長(ジャングルベル・シアター)
学校の用務員。日向が小学生だった20年前から用務員を続けている。「ヒュウガマン」の遊び相手でもあった。なお「レッドマン」の裏番組「笑点」は生で観て、尚且つ録画する程好き。
要所、要所で出てきては、物語の上で重要なシーンの道標を示す、いわば物語を動かす役。ひまわりのマリ・ソルについて真っ先に気づいたのも彼で、重要な情報を与える役目も担っている。
出番は中盤から後半にかけて少なくなるものの、物語のキーマンとしての存在感を発揮。少ない出番でインパクトを与える本多氏ならではの良さが出ている。
今回、彼のこの配役は恐らく本多氏の特性を劇団側が理解しているからで、そういう意味ではこの劇中では唯一無二の存在感を出していた。
・白露……青木隼(E♭)
※ジャングルベル・シアターには2013年春公演「天満月のネコ」以来2度目の出演。
ヒュウガホシクサの長老。20年前に先祖たちを救った(とされる)ヒュウガマンの伝説を語り継ぐ存在。木の枝で出来た杖をつくのが特徴。
実は本作品の中でも出番はかなり少ないはずなのだが、要所、要所で笑いを掻っ攫うため、出番の少なさの割りに印象が強い。
ヒュウガマンと初めて出会った時の語り口調や、劇中の「マリ・ソルが転んだ」での震えて耐えている様子など、確実にツボを抑えた。
中盤、ヒュウガマンに自分の夢を語って去るシーンは見物。このシーンが劇中での白露のラストシーンだが、好々爺を短い時間でしっかり演じきったと思います。
・しずく……おこ(ジャングルベル・シアター)
※塚本善枝から改名。改名後、初舞台となる。
ヒュウガホシクサの少女。ヒュウガマンの存在を信じて疑わない純真無垢な性格。物語の冒頭でしづると共にヒュウガマンに助けを呼びかけている。
白露としづるとセットで出る事が多いが、前半でマリ・ソルに平手打ちをしたり、中盤ではマリ・ソルを倒す計画を身振り手振り交えて説明するなど見所は多い。
物語の後半、しづるよりも先に息絶えてしまうため、ラストシーンの印象が薄いが、それ以外はしづると同じくらいの存在感を発揮していた。
ジャンベルの中では少女役など低年齢層の役を演じさせると、彼女の右に出る者はいない。そういう意味ではスペシャリストとしての面目は果たしたと思う。
・しづる……鈴木絵里加
※今回がジャングルベル・シアター初出演。
ヒュウガホシクサの少年。しずくと同じくヒュウガマンの存在を信じて疑わない。物語の冒頭でしずくと共にヒュウガマンに助けを呼びかけている。
ヒュウガホシクサの中では一番のキーマンになったキャラ。前半こそ白露、しずくとワンセットだったが、中盤以降は他の二人とは違う形で存在感を発揮。
特にしづるの最期のシーンはこの劇中でも屈指のハイライト。日向、百合にとって大きなターニングポイントとなった息絶えるまでの一連のシーンは涙無しに語れない。
ジャンベル初出演ながら、世界観を理解して鈴木嬢がこの役に臨んだのが分かります。終演の挨拶後、ヒュウガレシーバーを大切に拾い上げるという大事な役目も見事にこなしました。
・ムージー……伊喜真理(ハグハグ共和国)
※ジャングルベル・シアターには2013年春公演「天満月のネコ」以来2度目の出演。
オオイヌノフグリ(別名:ホシノヒトミ)の少女。本来春に咲く花だが、夏に咲いている。本名が「ホシノ ヒトミ」の百合に対して一方的にライバル宣言をするなど我が強い。
とにかく彼女は真っ向から百合に対して対抗意識を剥き出しにしている。殆ど「対百合専用」のために作られた役と言って過言ではない(実際、11年前の初演ではムージーは存在しない)
今の自分に対して自信が持てない百合に対して、ありのままの自分を誇りを持って生きているムージーの姿は対照的。しかし百合に対する一言、一言が百合に変化を起こすキッカケを与える。
そんなムージーの力強く、可憐な姿を演じきった伊喜嬢の演技に魅入られた。数ヶ月前の少年役も印象的だったが、こういう役も出来る伊喜嬢の演技の幅が素晴らしい。
・風之介……篠崎大輝(ジャングルベル・シアター)
※2013年冬公演「八福の神」に出演後、ジャングルベル・シアター入団。本公演が劇団員としての初舞台となる。
セイヨウタンポポの綿毛。青ネギのやくみの棘に絡まって、台風が来るのを待っている。目指すは日本最北の地。
やくみに絡まっているという理由から、殆どの出番でやくみとセット。綿毛なのでやくみから離れるとどっか飛んでいってしまうというキャラ。
前半はほぼ言動も体も軽いお笑いキャラだけど、中盤から後半、重要なシーンにちょいちょい絡む。そして終盤の嵐の中で旅立ち、やくみとの別れは物語本編とは直接関係は無いのに涙を誘う。
演じた篠崎氏の爽やかな表情はまさに適役。ジャンベル劇団員としてのデビュー戦は上々のものだったと思います。
・やくみ……松下勇(劇団えのぐ)
※ジャングルベル・シアターには2013年冬公演「八福の神」に続き3度目の出演。
青ネギ。風之介の友人で、当初は風之介と一緒に最北の地を目指そうとしていた。時々、海まで行って友人のカニどんに会いに行く。
本公演随一のネタキャラ(笑)名前も去る事ながら、前回公演「八福の神」を観ている方なら、このやくみが第一話に登場した「ネギどん」である事はすぐに気づくだろう(笑)
その期待に違わず、後半、(結構シリアスな戦闘シーンにも関わらず)チコリーノに蹴りを入れて「うーん、ネギくさ!」というギャグも入っている(笑)
しかし風之介との別れのシーンでは涙を誘う……。ネタキャラをネタのまま終わらせなかった松下氏の熱演に拍手を送りたい。
・コゴミ……長尾歩(劇団AUN)
※ジャングルベル・シアターには2013年春公演「天満月のネコ」以来3度目の出演。
シマミミズ。物語序盤で日向に踏まれたが、その後、偶然通りかかった清水に助けを求めて難を逃れる。
劇中では一番出来ている登場人物(?)場に慣れるのも早かったり、物事を冷静に語ったり。主に「ミミズ」呼ばわりされている清水と絡むシーンが多かったが、百合にも助言している。
清水に自分の使命を思い出すキッカケを与えた重要なキーマン。去り際に清水にキスするシーンでは(清水的に非常に複雑でしたが)かわいらしさを見せてくれました。
演じた長尾嬢は以前から非常に落ち着いた演技をする方ですが、今回はそんな中にもお茶目さや、かわいらしさもあり、非常に素敵なミミズを演じていました。
・ジュン……小森谷朋基
※今回がジャングルベル・シアター初出演。
アマガエル。こさめの夫。冬眠のために、マリ・ソルが枯れた後の穴を狙う。そのためにマリ・ソルに取り入りあるアイテムを取りに行くのだが……。
劇中で一番かわいそうな登場人物(?)その1。愛する妻・こさめを人質に取られたて、しかも気の弱さからマリ・ソルを倒せるチャンスを失って、こさめまで失う事に……。
最期は朝顔姉妹と相討ちという形で、こさめの仇は取ったのが、せめてもの救い。劇中で一番浮かばれない役でした。でもどこか彼に自分を重ねる人もいたのではないかと思う訳です。
そんないい人(?)過ぎたカエルを小森谷氏が好演。別の役を拝見したい役者の一人です。
・こさめ……眞鍋昌美(A-LIGHT)
※今回がジャングルベル・シアター初出演。
アマガエル。ジュンの妻。まだ若いらしく、言葉遣いがヤンキー。自称:元レディース。マリ・ソルが枯れた後の穴を狙うため、ある作戦を練るのだが……。
劇中で一番かわいそうな登場人物(?)その2。確実をマリ・ソルを仕留めるために、裏切りを持ちかけたはずのハムスターコンビ(トト・ビビ)に逆に裏切られ、最期は朝顔姉妹の手にかかる。
彼女の死が後のジュンの壮絶な最期に繋がり、そして彼女の死から物語の空気が変わった。物語の空気を一変させた中盤のキーマンである。
そんな元レディースを演じた眞鍋嬢。演技は上手かったけど、全出演者の中でも出番は短めだったので、やはりもっと別の機会に拝見したい方です。
・チコリーノ……浅野泰徳(ジャングルベル・シアター)
※作・演出も手がける。ジャングルベル・シアター主宰。
マリ・ソルの手下のトウモロコシ。たろうとよしこを直属の部下として戦うのだが、度重なる失敗でマリ・ソルからは失望される。
立ち位置的には敵の幹部クラスのはずなのですが、部下のたろう、よしこを含めた、いわば漫才トリオのノリなので、劇的に怖さは無い(笑)
むしろダメな部下を持った故の中間管理職にも似た寂しさが彼全体からは漂っており、最後のオチも自業自得なのだが、とっても残念な(だけど笑える)結果になった。
もっとも演じている浅野氏は自分の作品なので、凄いノビノビと楽しそうに演じていたのが印象的でした(毎回、彼は好き放題演じている印象があります・笑)
・たろう……岡教寛(テアトル・アカデミー)
※ジャングルベル・シアターには2013年春公演「天満月のネコ」以来2度目の出演。
チコリーノの部下のうさぎ。園田によると「学校の飼育係一の嫌われ者」。よしことは仲良し。チコリーノにいつも怒られている。
とにかくよしことセットでやたらテンションの高い悪役(?)。大ボケの数々で会場を爆笑の渦に包み続けた。敵役としての迫力は……まぁ……(汗)
最後はチコリーノに逆ギレして襲いかかるけれど、それまでは割りと健気にチコリーノに従っていたので、憎めない敵役だった。
演じた岡氏の大柄な体格を活かしたアクションの数々が印象的でした。ちょっとオーバーに見えるアクションの数々が爽快です。
・よしこ……升田智美(ジャングルベル・シアター)
チコリーノの部下のにわとり。園田によると「学校の飼育係一の嫌われ者」。たろうとは仲良し。チコリーノにいつも反抗している。
たろうとセットでお笑い要員なのは同じだけど、彼女の場合はたろうと違って、素直じゃない。また怒られているたろうをかばっているので、種族を超えた愛情がある……のかもしれない(笑)
最後はたろう同様、チコリーノに襲い掛かるけど、たろうが逆上したのに対して、彼女の場合はこれまでたろうに制止されていた分、チコリーノに対する鬱憤が一気に発散されたようにも見える。
演じた升田嬢については、本当に演技の幅がこれでまた増えたと思う。岡氏とのコンビも面白かったので、また拝見したい。
・小紫……大塚大作(ジャングルベル・シアター)
マリ・ソルの手下の朝顔姉妹。その姉。植木鉢とセットで移動する。彼女の蔦から先に妹の青紫がいる。必殺技は蔦を使った攻撃の数々。
とにかくオネエキャラ全開(笑)これでもかという気色悪さ……もとい不気味さを出していました。序盤では大爆笑していたオネエキャラですが、後半になると違和感無いから不思議。
また台詞の数々もそうだけど、表情のどれを取っても、オネエ感満載。最期はジュンの捨て身の攻撃で相討ちになるけど、最期の去り際の断末魔の笑い声すら圧巻だった。
これまでどちらかというと男くさい役のイメージが強い大塚氏だっただけに、今回は色んな意味で新たな発見がありました。
・青紫……竹内俊樹(ジャングルベル・シアター)
マリ・ソルの手下の朝顔姉妹。その妹。小紫から伸びている蔦の先におり、そこから養分をもらって生きている。
やっぱりオネエキャラ全開(笑)感想については、小紫と変わらないけど、序盤で蔦を踏まれて死にかけたりした分、受難度はやや青紫が高め。
劇中では小紫に「青紫」「青ちゃん」と呼ばれていた分、「オネエ様」と呼ばれた小紫よりは劇中での知名度はやや高めか。もっともセットで「朝顔姉妹」で覚える人が殆どだけど(笑)
やはりこちらも男性役のイメージが強い竹内氏が熱演していたため、こちらも新たな発見だったような気がします。それにしてもこのコンビ、強烈だなぁ……(笑)
・トト……三井俊明
※ジャングルベル・シアターには2011年冬公演「悟らずの空」以来3度目の出演。
マリ・ソルの手下のハムスター。普段は理科室に飼われている。マリ・ソルに対して強い忠誠心を持っている。
劇中では同じハムスターのビビとのコンビ。基本的にかわいい衣装なのだが、時々、ハムスターとは思えない凄みのある表情を見せたりする。
そしてやはりというか今回もあったプロレスネタ(笑)演じた三井氏が出演すると毎回必ずと言っていい程、プロレスネタがあるが今回も序盤で披露(笑)日向に対し圧倒的力量差を見せ付けた(笑)
コミカルな一面も、たまに見せる強面な一面もいいけれど、毎回、三井氏といえばプロレスネタを期待している自分がいる(笑)
・ビビ……都築知沙
※今回がジャングルベル・シアター初出演。
マリ・ソルの手下のハムスター。普段は理科室に飼われている。トトと同じくマリ・ソルに対して強い忠誠心を持っている。
トトがオスなら、ビビはメスと推測される。トトとは違い、演じた都築嬢の体格の小ささもあって、こちらはかわいらしいハムスターを終始演じていたように思えます。
……とは言え、トト同様、シリアスな一面もあり、抑えた演技も光りました。最終盤でトトと共にマリ・ソルを助けを求めるシーンなど印象的なシーンもところどころありました。
演じた都築嬢はジャンベル初出演でしたが、初出演とは思えないくらい馴染んでいたように思います。
・マリ・ソル……松宮かんな(ジャングルベル・シアター)
小学校の中庭を支配するひまわり。周りの植物の養分を吸い取って生きながらえようとしているが、その真意は……。
とにかく登場時からラスボス感満載!圧倒的な迫力で中庭のみならず、舞台の上を席捲していたように思います。
見所はどこ……と言われたら全部と答えるしかないくらい、本当に見せ場しかない!立ち振る舞い、台詞の数々、表情、どれを取っても完璧!そして最終盤で明らかになる、生き永らえようとしていた理由もいい!
圧倒的存在感のラスボスだけど、どこか愛らしい。それを余すこと無く演じた松宮さん……やはりジャンベルの看板はあなたです!
……とまぁ上記のような感じですかね。
浅野氏の脚本は毎回、どの登場人物にも愛情を感じるし、また誰一人として無駄なキャラクターがありません。
その塩梅が非常に上手いのはいつもの事です。
ただ今回の舞台。特に想いが強いと感じた登場人物が二人います。
野上あつみ嬢の演じた夏樹百合、そして伊喜真理嬢の演じたムージーです。
まず初演、二日目を観ている過程で、あつみ嬢演じる百合に対して、多くの登場人物が声をかけて、時には立ち直るキッカケを与えている……この点に注目しました。
コゴミは百合に背伸びをしないでいい事を説き、しづるは百合の歌を気に入り最期の時はその歌を聴いて安らかに眠ります。
清水はあくまでファンとしての立場で、百合を応援し、また百合に(一方的に)握手してもらい、マリ・ソルに立ち向かっていきます。
主人公の日向(ヒュウガマン)が、ヒュウガホシクサ達の死と、清水の叱責で目を覚ます過程と比べたら、どれだけの優しさに包まれ、分かりやすく諭されているのか一目瞭然です。
その百合に対するメッセージの極めつけがムージーの存在です。
百合に一方的に対抗する役目でしたが、その劇中の台詞の数々は、「しおれている」と評した百合に対して、あたかも自分の身をもって、その進むべき道を示していました。
前述した通り、このムージー、初演にはいない登場人物です。でもムージー、何故、ここまで百合にこだわるのか……。
そこで浮かび上がるのが、野上あつみ嬢の事情です。
残念ながら今回の公演で休団が決まっている野上あつみ嬢。
今回、百合に向けられた台詞一つ一つを彼女の立場に置き換えて聞いてみると、どの台詞も違和感が無いのです。
極端な話、百合ではなくて、あつみ嬢に向けているメッセージを皆が言っていると思うと妙に合点がいくのです。
しづるが百合が歌を気に入った経緯だって、歌を舞台に置き換えればそう思えるし、また清水の百合への台詞もファンの想いの代弁にも聴こえなくありません。
そしてムージーは彼女の存在、そのものが脚本の浅野氏が百合を演じたあつみ嬢へ向けてのメッセージを込めていたのではないか……。
三日目以降、勝手に百合のところを「あつみ嬢」に置き換えて観ていましたが、違和感がありません。
三日目以降、勝手に百合のところを「あつみ嬢」に置き換えて観ていましたが、違和感がありません。
上記の内容はあくまで自分の勝手な推測です。
そこまで実際、浅野氏も深く考えてないかもしれません。
だけどどうしても今回の夏樹百合……野上あつみ嬢そのままにしか思えないのです。
でもそう見えるという事は、我々客層にとっていかに野上あつみ嬢がジャングルベル・シアターにとっていかにお馴染みの存在だったか……。
……そんな事考えてしまいました。
またこの作品がジャンベルデビューだった劇団員も数多く、本多氏、おこ嬢もこの公演の初演がジャンベルデビューでした。
他にもこの公演に出演していた劇団員も残っており、果たして彼らの中で初演から、この再演までの11年間……何を思いながら演じたのでしょうか……。
そのへんの心理も非常に気になるところです。
純粋に物語としても非常に良作だった今回。
だけど人が演じる以上、どうしてもどこかに登場人物以上に演じている出演者に対する感情が沸き起こる事も感じた今回でした。
こうして五日間に渡って公演された「ヒュウガノココロ」
今後もジャングルベル・シアターの皆様にはどうか頑張って欲しいと願います。
そして野上あつみ嬢、お疲れ様でした!
・ジャングルベル・シアター・公式サイト↓
http://www.junglebell.com//