著者:村瀬明道尼

出版社:文芸春秋

概要:九歳で親元を離れて仏門に入る。
三十三歳で味わった禁断の恋。
不慮の事故で瀕死の重傷を追い、右半身不随となるも、残る左手で作る手料理で
「精進料理の明道尼」の名を得るまでに。
(表紙帯より引用)

感想:

買って良かったと思える本でした。
時間が経てば、きっとまた読み返したくなるでしょう。

仏教にも尼にも興味がない私が、村瀬明道尼を知ったきっかけは、とあるテレビ番組でした。
それも見たくて見たわけではなく、ただ何となくつけていたテレビ番組をたまたま見て、画面の中にいた彼女の人柄にひかれていったという感じです。

私は高野山の胡麻豆腐が大好きで、初めてそれを口にしたときは「これが豆腐?」と、驚きと感動を覚えました。
明道尼は毎日早朝から胡麻豆腐を手づくり、しかも事故で不随になった右半身は動かないので、左手のみで作っています。
その胡麻豆腐は「天下一」と称賛され、有名料亭の料理人が師匠と仰ぐほど。
ちょうど精進料理にも興味を持っていたときだったのですが、それ以上に明道尼の料理に対する心意気が素晴らしく、私はテレビに釘付けになりました。


人から愛されるお坊さんや尼さんの特徴として、宗教や性差を超越した人格の素晴らしさが挙げられると思います。
その宗教や思想よりも、その人自身が魅力に溢れ、人間性に惹かれていく人が多いのではないでしょうか。

明道尼は、言うなれば「不良尼」です。
ステーキも食べるし、チキンも食べるし、お酒も飲む。
しかも年齢は今82歳です。
そんな破天荒さを持ちながら、天下一の胡麻豆腐を作るのだから、呆気に取られてしまいます。
でも、料理一つを例に挙げても、明道尼の最大の魅力がここにあるのです。


物語は戦時中から始まるのですが、私のような平和ボケ世代にはイマイチ想像しきれない部分も確かにあります。
でも、知ることは大事なことです。
その壮絶さや悲惨さは、体験した人にしかわからないでしょうけれど…。
少なくとも、知ろうとする努力はするべきじゃないかと思うので。

野生児みたいな子供だった彼女は、本当に純粋でひたむきで正直でした。
ご自分では謙遜されていますが、やはり様々な面において優秀な人であったことに変わりはないと思います。
その証拠に、料理、書道、裁縫においてすべてプロ顔負けの才能をお持ちです。

そんな彼女がご法度とされている「恋愛」という罪を犯してしまうのですが、こんなにも純粋に誰かを思うことがなぜ罪なのか?と思わずにはいられませんでした。
でも、それが仏門に入るという意味なのです。
何を言っても、すべてが言い訳になってしまいます。
それくらい厳しい世界なのです。


そして彼女の人生最大にして、最悪の出来事。
交通事故で生死の境をさ迷った末に、右半身不随という後遺症が残ります。

半身不随、しかも右手が使えないという致命傷を負いながらも、彼女は負けません。
何十年もかけて取得した、料理・裁縫・書道、すべてがゼロに戻りました。
新たなスタートをきり、新たな発見や感動に出会い、人生の再スタートをはかるのでした。



この本には、思わず赤線を引きたくなるような、ノートに書き写していつまでも覚えておきたくなるような、そんな言葉がたくさんあります。

読んで良かった一冊でした。


村瀬 明道尼
ほんまもんでいきなはれ