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2021年10 月1日
VOL.427
評 論 の 宝 箱
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第427号目次
・【書 評】 西川紀彦 『感染症の世界史』
(石 弘之著 角川文庫)
・【私の一言】 庄子情宣 『人口減を考える』
・書 評
┌───────────────────────┐
◇ 『感染症の世界史 』
◇ (石 弘之著 角川文庫)
└───────────────────────┘
西川 紀彦
昨年初からの新型コロナウイルスの世界的猛威が続いている。かつてこれほど長く全世界に感染症を経験したことはなかったのではないか。しかし、歴史を振り返ると今回に似た感染症は数多くあり、人類はその都度苦しみ生き抜いてきた。改めて世界的な感染症の歴史とその要因を理解したくなって最適なこの本を読んだ。著者は1940年生まれ、東大卒、朝日新聞社をへて国
際機関の環境問題関係に従事してきた専門家である。
国際機関のデータベースによれば、20世紀の1900年から2005年の間、一定の条件下にある自然災害を、気象災害(洪水、干ばつ、暴風雨)、地質災害(地震、土砂崩れ)、生物災害(病気、病虫害)の三つに分類して発生件数をみると、それぞれ76倍、6倍、84倍と生物災害が最も多いという。
生物災害は、細菌、菌類、寄生虫等の病原体が生物に付着し、それが動物発生経由で人間に移すもので、元の病原体の発生原因は長い時間をかけた自然条件の中で生まれたものと考えられる。
人間に移す原因の多くは家畜、野生動物を経由してもたらされるとされる。微生物→動物→人間という永遠の関連性が文明の発展、すなわち農業の開始→定住化→集落→人と家畜の接触密・自然環境の破壊(水質汚染等)→感染症発生という経路をたどる。工業の発展で急激な都市化が進むと、上下水道、ごみ処理等の機能が追いつかず、水質汚染や廃棄物から鳥経由で人間に病原菌をもたらす。
また人間間の往来が感染を拡大させる。新大陸発見でスペイン人がヨーロッパの感染症を大陸にもたらし、アスティカ帝国が崩壊したことや、アフリカとの貿易で奴隷が新大陸に梅毒感染症をもたらしたことや、軍隊等の集団がスペイン風邪を蔓延させたことなど枚挙にいとまがない。
感染症の巣窟として中国とアフリカが指摘される。中国は特に南部には農村の軒下で、アヒル、ガチョウ、豚、鶏を多く飼っており、コウモリ等の鳥インフルエンザの原因となっている。また人口爆発で大気汚染、水質汚濁の原因を造っている。アフリカは熱帯地方に多いダム等灌漑施設による静水域が蚊等の害虫を発生させている。
今回の新型コロナ感染で分かったことは
1、発生源は、中国当局は否定しているが中国武漢地域らしいこ
と
2、グローバル化で中国人が世界各地にビジネスや観光で進出 していることで、蔓延が広がっていること
3、病原菌は絶えず変異して、一定の抗体が人間界にできるまでは感染が続くこと、すなわち1年や2年で収まるようなものではないこと
歴史は次のことを教えてくれる。
人間は20万年前に誕生、一方、微生物は40億年前に発生した。しかも世代交代は人間30年に対し微生物は20分で変異するという。これは人間が抗生物質をやっと造っても微生物は違う耐性に変異してしまい、人間は永遠に勝てないことを示していることを自覚する必要があるということだ。歴史的に過去大流行した感染症は以下の通りであるが、今回の新型コロナ感染症はその規
模からみて(2021年8月1日現在で見て、死者421万人、感染者数1億9787万人)、歴史上最大の感染症といえるのではないか。
紀元前 マラリア~アフリカ、霊長類、
13世紀 ハンセン病~東アフリカ、霊長類(チンパンジー他)
14世紀 ペスト~中国雲南省、ネズミ
16世紀 梅毒~スペイン、イチゴ腫
17~18世紀 天然痘~ラクダ、アフリカ、中東
19世紀 コレラ、結核~カルカッタ、細菌(下水)
20~21世紀 エイズ~ウガンダ、霊長類
エボラ出血熱~西アフリカ、コウモリ
インフルエンザ~中国、コウモリ
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
『人口減を考える』
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庄子 情宣
日本の総人口は1億2,622万7,000人(2020年国勢調査)である。これは 5年前と比べると、86万8,000人減少したこととなる。ご高承の通り、日本は現在長期の人口減少過程にあり、2026年には1億2,000万人を下回り、2048年には9,913万人、さらに2060年には8,674万人になると推計されている。(内閣府)
この原因は合計特殊出生率の低下にあり、2020年は前年から0.02ポイント下がった1.34であった。(人口動態統計)
また、新型コロナウイルス禍の影響も重なり2021年には一段と低下する可能性があるといわれている(日経2021/6/4)。
仮に合計特殊出生率が1.32で推移すれば、500年後には人口は縄文期並の15万人になるともいわれている。
人口減は、人口爆発の副産物だった環境問題や資源枯渇の危機を和らげる可能性はある等のメリットもある。
しかし一方、クライン教授の国力方程式
( 国力=((基本指標:人口+領土)+経済力+軍事力)×(戦略目的+国家意思)に見られる通り、人口減少は経済力の低下により生産力低下をもたらし、さらに軍事力の低下を招く。その結果、人口減は国力の低下にもつながる。
つまり、人口減は日本のあり方を作用する重要な国家の基本問題である。
人口減への対応として、短期的には、保育所や教育環境、親の労働環境等、
子育てに必要な要素が不足する事等の少子化圧力を除去する必要があることは当然である。しかし、基本的背景には経済発展や女性の教育と社会進出などの社会構造の変化が大きく影響している。これらの社会現象は逆流することは考えにくく、長期的にはこれらを所与として人口減に歯止めをかける諸策が必要である。
このためには従来の発想を捨て、人口減でも持続成長を行いそれなりの国力を維持することを目標とする長期ビジョンを一刻も早く策定する必要がある。具体的には、例えば人と人が共生し、また人と自然が共生する事を前提とし、少数の人口でも実現しうる技術立国を目指ざすなどである。このためには教育制度を見直し、一流の技術国にふさわしい人材育成を行うことが喫緊の課題であり、また、人口対策もかね人材確保の一助となる移民政策をとるなど抜本政策の策定等を含めた日本のあるべき姿を描くことである。
新内閣の発足も近い。新内閣には、人口減をも踏まえた日本国の未来についての明確な長期ビジョンを提示してもらいたいと願っている。
編集後記
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高齢化の進展で医療費の膨張が続いています。特に後期高齢者の一人当たり医療費は92万6千円であり、他の年代に比し極めて高く全体の4割を占めて、財政の圧迫要因となっています。日経新聞が47都道府県別の後期高齢者の医療費を死因別の死亡数等から分析したところ、脳卒中を減らし大往生となる老衰を増やす対策をすることが、医療費節減のため重要な鍵となると思われるという事です。このためには高齢者の働く環境を整えるなどの対策も必要ですが、経験者によると「じっと家にいない」ことが健康長寿の秘訣だそうで、自身の意識の持ち方も重要なようです。
コロナで自粛中心の生活になってきましたが緊急事態宣言も解除されました。許される範囲で活発に活動し、改めて、健康長寿を目指したいものです。
今号もご寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)
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第428号予告
・【書 評】 桜田 薫 『最後の将軍―徳川慶喜』
(司馬遼太郎 文春文庫)
・【私の一言】 吉田竜一 『人間中心のAI 社会原則』
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