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2026年8月1日
VOL.536
評 論 の 宝 箱
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書評、映画・演芸評をお届けします。
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第536号・目次
【 書 評 】 三谷 徹 『ポピュリズムとは何か』
(ヤン・ヴェルナー・ミュラー著 板橋拓己訳 岩波書店)
【 私の一言 】 吉田竜一 『「豊かさ」を考える 』
【 書 評 】
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『ポピュリズムとは何か』
(ヤン・ヴェルナー・ミュラー著 板橋 拓己 訳 岩波書店 )
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三谷 徹
実は私はちょうど1年前に水島治郎氏による同じ表題「ポピュリズムとは何か」
について書評の投稿をさせていただいた。その際の著者のポピュリズム定義は
「国民に直接訴えかける政治スタイル」と「人民の立場から既成政治やエリート
を批判する政治運動」であった。
それはそれで誤った解釈ではないが、今回紹介する同名の本書はより歴史を遡
り、南米やトルコ・東欧の諸国にも言及してその特異な在り様を探り出そうとし
ている。当然ながら日本の昨近の政党には何の言及もない。
著者はドイツ生まれの政治学者であり、オックスフォードで学位を得た後、現
在はプリンストンで研究を続けている。本書はD・トランプが大統領選挙を制した
直後の2017年に執筆されているので、まずはトランプの主張に言及する。いわく、
無垢な人民と腐敗したエリートを対置し、自分たちだけが神聖な人民でその象徴
としての自分が作った政府は人民の政府であるとする。唯一神聖な人民は自己の
支持者だけであり、他の国民は例え無産の労働者であっても放っておけばよい存
在だとする排他主義を兼備する。ミュラーによればポピュリズムの定義は反エリー
トだけでは十分ではなく、排他主義が重要とする。また、これは単に右派だけを
示すものではなく、前記の特徴を有するならば左派においても適用されるべきと
している。このような文脈の中でトランプのみならずサンダースもベネズエラの
チャベス、トルコのエルドアン、ギリシャのシリザなどもこの範疇のものとする。
繰り返しになるが、この考え方を特徴づけるのが第一に反エリート主義、第二
に大衆恩顧主義そして第三に唯一の人民代表を称するアイデンティティ・ポリテ
ィックスである。人民の代表と称すること自体、幻想なのだが、幻想の主体がこ
のような主張をすることは、反対意見の正当性を認めることも政府の無謬性を撤
回することもありうる多様性を前提にした民主主義には大きな脅威となる。
具体的にはまずは抗議政党として反政治を掲げて出現し、勝者になっても犠牲
者のように振舞う。人民を二極化して例えマジョリティになってもマイノリティ
のごとく危機感、苦難を主張し続ける。批判対象は左右を問わず、これまでの支
配政党だけでなく自らに賛同しない市民、司法当局、メディアなどを悪人と位置
付け、時には憲法までも変えて差別的法治主義を掲げる。完全に民主主義と断絶
したとまでは言えないが、非リベラル民主主義でもない。例えば東欧のオルバー
ンやカチンスキ―はこの分類になろう。
20世紀を振り返ると二つの大戦を経て世の中は全体主義と多元主義の間を揺れ
動きつつ進んできた。第二次世界大戦後はドイツのナチズム、イタリアのファシ
ズム、日本の軍国主義更にはソ連のスターリニズムへの強烈な警戒感と嫌悪感に
よりミュラーの主張によれば法の支配、抑制と均衡、言論・集会の自由、メディ
アの多様性、マイノリティ保護、マジョリティの可謬性認識などを特性とする民
主主義が社会の主流をなしてきた。これに対して腐敗したエリートたちに先導さ
れた現在の体制は、道徳的で無垢な存在である自分たちだけが本来の民意から隔
たっていると認識しており、自分たちだけが正当な代表であるべきだとする反多
元主義が米国その他の国々で政権統治能力を有するに至っている。
確かに現在の西側諸国の戦後民主主義はグローバル化の中で進んだ階層分化、
不平等化に対して一部の国々を除いて対処しきれていない。とは言え、ポピュリ
ズムが反多元性、排他主義をベースにしているとすると容易に全体主義に転換し
ていくのではないかと危惧される。何かの拍子に社会がある事象や社会的存在に
不満、不信を持てば容易に全体主義の復活につながる可能性は否定できない。
ヒットラーは革命や反乱で政権を握ったわけではない。極端な排他主義を掲げ堂
々と選挙で権限を握ったのだということを忘れてはなるまい。
このような悪循環を阻止する手段としてミュラーは富裕者・エリート階層を除
外せず、社会の余計者も政治過程に参加させるアプローチが有効としている。言
葉としては理解できてもどのような制度、仕組みが考えられるのか、思いが至ら
ないのだが・・・
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
『「豊かさ」を考える 』
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吉田 竜一
日本社会は、戦後から高度成長期を通じて「豊かさ=経済成長と国力の回復」
という路線の下で、統計や政策も「GDP」「所得」など数値化しやすい物質的指
標を「豊かさ」とほぼ同一視していた。同時にこれらを背景に、国民の間ではあ
る程度共通の「豊かさ」のモデルが存在していた。例えば、安定した大企業に勤
めている、結婚して家を買い、子どもがいる、老後のためにしっかりと貯蓄して
おく等、経済的余裕による安定が内容である。
しかし現在は、高度成長でモノは充足した一方、公害や長時間労働など「豊か
さ」の陰も噴き出しつつあり、GDPが増えても幸せとは限らず、「何が豊かな人
生なのか分からない」と感じる人が増えつつある。
改めて「豊かさ」の内容が問われる時代になってきているともいえる。
現代のわが国は、価値観の多様化に加えて人口減少から縮小社会という社会構
造の大転換時代に突入している。
つまり、現代日本は、社会の“サイズダウン”を前提に持続可能な社会をつくる展
開が最大の課題となっている。これは、過剰な拡大を前提としない経済、「量」
ではなく「質」を重視しつつ、資源、環境の持続可能性を踏まえ、あらゆる面で、
本当に大切なものを明確にし、それに沿った選択を行い社会全体がバランスよく
縮小しつつ「安心して暮らせる」社会を目指すことが求められるということである。
「豊かさ」は、「何が足りないと感じられているか」と「その社会で尊ばれてい
る価値」によって変わるとみられる。縮小社会では、サイズダウンの中で国民が
不足を感じないように、あらゆるモノがバランスよく縮小することが重要である。
このため政府は縮小社会への道のりを明確にし、価値観の転換の重要性を訴える
必要がある。同時に国民は、従来の「経済的余裕」を中心に置く「豊かさ」の生
活意識から「時間的余裕」「精神的余裕」に意識を高め、「生活の質」に重点を
おく社会活動の中で各自が新しい「豊かさ」作り上げることになろう。
現在の高市政権の下での自民党のモットーは、「豊かで強い国づくり」とある。
その基礎は「強い経済」にあり、これは戦後日本の「豊かさ」の延長線上にある
とみられる。また、政治の責任は「経済を再び力強く成長させ、国民一人ひとり
の所得を引き上げ、豊かな社会をつくること」を内容としているとみられる。
しかし、「豊かさ」の概念は時代とともに変化するものであり、縮小社会に突入
している我が国においては、この自民党のモットーは必ずしも現代に適合すると
は言い難いのではないか。
つまり、高市政権は、縮小社会に適応する質を重視する価値観への転換を行政面
で率先垂範することと同時に、時代にあった新しい「豊かさ」の在り方を国民と
ともに考えるべき時期であろう。
編集後記
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厚労省によると、2025年の日本人の平均寿命は男性81.35年、女性87.33年と
なりました。男女とも前年を上回り平均寿命の延びが再び拡大した形です。ただ、
内容的には健康寿命の延伸と生活の質の向上がより重要な課題となっていると指
摘されています。
健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」
ですが、2022年の日本人の健康寿命は男性で72.57歳、女性で75.45歳で、男性は
8~9年程度、女性は11~12年程度、心身の健康に問題を抱え、医療費や介護費
が発生しやすい期間と考えられています。この期間について、例えば介護で見る
と、継続的に発生する費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)の平
均額は、1ヵ月あたり9.0万円、介護期間の平均は55.0ヵ月だそうです。
単純計算すると、必要な介護費用の目安は542万円(公益財団法人生命保険文
化センターの「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」)となり、
経済的負担は極めて大きい問題といえます。
これらを考えれば、平均寿命が延びることは喜ばしいことか難しい問題です。
本号のご支援ご協力有難うございました。(HO)
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第537号・予告
【 書 評 】 岡本弘昭 『現代戦争論』(小泉 悠著 文芸新書)
【 私の一言 】 吉田竜一 『脳 疲労』
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■ ご寄稿に興味のある方は発行人まで是非ご連絡ください。
■ 配信元:『評論の宝箱』発行人 岡本弘昭
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Mail;hisui@d1.dion.ne.jp
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