「おかしい……。
最近、周りの呼びかけが聞こえず、
トントンと肩を叩かれることが増えてきた。
耳の奥がザワザワする。
どうしたんだろう……」
その男に、
難聴という症状が現れてきていたのです。
音楽家なのに耳が聞こえなくなっていく……。
想像を絶するつらさだったと思います。
31歳のとき、古くからの友人に、手紙でこの悩みをこう打ち明けています。
「3年ほど前から、耳の病気に罹り、
医者にも見せたがほとんど良くならない。
私は音楽家だから、
決してこのことは人には知られてはダメだ。
最近は人の話し声も音楽も、
すっかり聞こえなくなってきている。
だから、人前に出ないようにして、
ひとり惨めな生活を送っているのだ。
こんな自分がとても悔しいので、
できればこの運命に立ち向かおうと思う。
ただ、どうかこのことは誰にも言わないでほしい」
絶望に、さらに絶望が押し寄せます。
彼の音楽の弟子としてひとりの少女がやってきます。
ジュリエッタという14歳年下の女の子。
貴族のお嬢さんです。
ある日、その男は、
ジュリエッタを思うだけで、胸がしめつけられるように感じる自分に気づきます。
そして、「月光ソナタ」という曲を彼女にプレゼントして告白をします。
しかし、当時、庶民と貴族がつき合うのは認められない時代。
この恋は結ばれることはありませんでした。
その男は、難聴と失恋の2つの哀しみに襲われます。
人生に絶望したその男はふたりの弟に遺書を書きます。
「お前たちは、私のことを気難しい人間だと思っているだろうが、
それは大きな誤解だ。
私がこの6年間、ずっと耳の病に悩まされていたことを知らないからだ。
人と話すときに『耳が聞こえないので、もっと大きな声で話してください』とは決して言えない。
音楽家なのに音が聞こえない苦しみが、お前たちにわかるか?
病気を知られるのが怖いので、
いまは用事があるときだけ人に会うようにしている(中略)。
絶望し、死のうと考えた。
しかし、作曲を続けたいという思いだけがそれを止めた。
人々よ、もしこれを読んだら、
きっと私に対する見方がどれほど間違っていたか知るだろう。
そしてつらい運命を背負っている人たち、
こんなにも不幸な人間が音楽家として、努力し続けたことを知り勇気をもってくれ」
その男は死ぬつもりで遺書を書き出したにもかかわらず、
途中から、それは、不思議と希望のメッセージに変わっていきました。
実は、この男の快進撃は、この絶望から始まっています。
その後10年間にわたってその男は代表作を続々と発表し、
「傑作の森」と呼ばれる時期に入ります。
そうなのです。
その男の代表作のほとんどは、
耳が聞こえなくなってからの作品なのです。
その男は言いました。
「勇気を出せ。
たとえ肉体に、いかなる欠点があろうとも、
わが魂は、これに打ち勝たねばならない」
ベートーベン、最後の交響曲。
これは、彼の人生の後半の生き方そのものです。
この交響曲には「苦しみを超えて歓喜に至れ」というメッセージが込められています。
この『交響曲』の初演では、
ベートーベン自らが指揮棒を振った。
その初演、演奏後のこと。
ベートーベンは、客席を向くことができなかったといいます。
「自分の思っている音楽ではなかったのではないか」
ムリもない。
だって、もはや耳が聞こえないのだから。
いつまでも客席を向こうとしないベートーベンに
アルト歌手がそっと寄りそって、彼を振り向かせた。
すると、そこには……
拍手のスタンディングオベーション!
立ち上がり、喜びに満ちあふれた観客の姿が見えた。
たとえ耳が聞こえなくなっても、
それでも音楽に人生のすべてを賭けた。
その力が人々の歓喜を生み出したのです。
ベートーベンのピアノの鍵盤には歯でかじった跡があります。
歯で噛みついて骨で音を感じようとしていたのです。
歓喜。
それはいつだって苦しみの先にあります。
ベートーベンの最後の交響曲。
https://www.youtube.com/watch?v=4fK9BlAgbP4
できれば、イヤホンで聴いてほしいな。
君の2018年がこの歓喜のエネルギーで満たされますように^^
Happy new Year 2018!
「人間の最も優れたところは
苦しみを乗り越えて
喜びをつかめることです」byベートーベン
今年もよろしくね^^
ひすいこたろうでした。
Universe Thank you
▲▲▲アリガ島▲▲▲
出典
『絶望は神さまからの贈りもの』ひすいこたろう+柴田エリー
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新刊もよろしくね『見る見る幸せが見えてくる授業』
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