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                                  2024年5月15日                                          VOL.490


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  第490号・目次
 【 書 評 】 庄子情宣『よみがえる戦略的志向』(佐藤 優著 朝日新書)
 【私の一言】 幸前成隆『人を知る』

     

【書 評】
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 ◇                 『よみがえる戦略的志向 』
 ◇                (佐藤 優著 朝日新書)              
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                                     庄子 情宣


  ロシアによるウクライナへの侵攻は複合的な危機を生み出している。勃発から2年が
たったが終戦の気配は乏しい。この危機の原因はどこあるのか、どうすればこの状況から抜け出すことができるか。著者によれば、国際政治は「価値の体系」「利益の体系」「力の体系」のどれか一つの体系が肥大化すれば、機能不全に陥ってしまうという。
これを踏まえ、著者は、現下の危機を抜け出すためには三要素のバランスのとれた動的体系としての戦略的思考が必要となると指摘している。本書は、22年10月に上梓されたものであるが、内容的には今日でも、戦争の要因や解決の方策、さらには日本の今後の方策等を考えるに当たり参考になる点が多いと思われる。

 国際政治において、「価値の体系」「利益の体系」「力の体系」のバランスの重要性を指摘したのは故高坂京大教授であるが、このどれか一つの体系が肥大化すれば、国際政治は機能不全に陥ってしまう。第二次世界大戦当時、日本では「大東亜共栄圏」や「八紘一宇」という「価値の体系」が肥大化していた。それが「利益の体系」と「力の体系」を押さえ込み、無謀な日米開戦を招いた。その結果、敗戦の憂き目にあった歴史がある。アメリカは、ソ連の崩壊後の30年間「冷戦の勝利者」と自らを捉え、戦略的思考を停止していた。これが今回のロシア侵攻という外交的危機をもたらし、世界的な経済的危機を深刻化させている背景である。

 現在アメリカを含む西側諸国は、民主主義や自由を重要な価値とするが、ロシアはそれを共有できない権威主義・独裁といった価値の国とし、ロシアが強くなれば脅威の側面が出てくると考え、ウクライナを支援している。しかし、グローバル化した世界では価値観が異なっても利益や力で複雑に絡み合うことも少なくない。このため、経済制裁等でロシアを孤立させることが難しい状況にあり、逆に西側が残りの世界から孤立しているという面もある。結果として、侵攻は長期化し国際政治は大きく揺れ動いている。
つまり、この背景には価値体系の肥大化があり、この状況を打破するには、戦略的思考をよみがえらせて、米ロ間の戦略的安定のための対話が重要となる。

 また、日米同盟は日本外交の基本ではある。しかしそのことは、米国の外交戦略を無条件に支持するという事ではなく、ロシアとの関係についても、主権国家として「価値の体系」「利益の体系」「力の体系」の総合的政策判断をする必要がある。しかし、日本の現実は、有識者や論壇人の多くは、ウクライナが侵攻してきたロシアに対して勝利するとい《《必勝の信念》に基づいて情報を発信しており、「価値の体系」の肥大化による影響が大きいといえる。このままでは戦前と同じ歩みを辿る可能性があり、我々は改めて、ウクライナ侵攻の歴史的背景や現状についても西側報道のみでなくロシア側の報道にも注視し、総合的判断の糧にする必要がある。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

                    『 人を知る 』

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                                 幸前 成隆 

 「人を知る者は、智なり(老子・第三十三章)」。
仕事をする上で一番重要なのは、人を知ること。人をどう正確に評価するか。昔からの課題である。

 孔子は、人を知るには、「言を聴きて、行いを観る(論語・公冶長)」、
行いを観るには、「その以す所を視、その由る所を観、その安んずる所を察すれば、
いずくんぞ痩さんや(同・為政)」と言われる。 

 人を登用するには、「審らかに、その行いを訪うべし(貞観政要)」。
李克は、宰相登用の基準として、「居ではその親しむ所を視、富みてはその与うる所を視、達してはその挙ぐる所を視、窮してはその為さざる所を視、貧してはその取らざるを視る」の五つを挙げる(十八史略)。
 
 呂氏春秋は、人を論ずる観点として、
「通なればその礼するところを観、貴なればその進むところを観、富めばその養うところを観、聴かばその行うところを観、止ればその好むところを観、習えばその言うところを観、窮すればその受けざるところを観、賤なればその為さざるところを観る」の八観と、
「喜ばしてその守を験し、楽しませてその僻を験し、怒らせてその節を験し、懼れさせてその持するものを験し、哀しませてその人を験し、苦しませてその志を験す」の六験を挙げる。

 なお、人に接するには、「言を察して、色を観(論語・顔淵)」、人の正邪を観るには、眸子を観る(孟子・離婁章句上)」のがよい。


   編集後記
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       最近、高齢化社会の影響か老害が目立つような気がします。現に高齢経営者の経営す
      る企業は業績は芳しくないと言う調査結果もあるようです。
     「老害」とは「老齢による弊害」のことで、企業や政界で、年齢や経験を盾に実権を握
      り続ける老人や、周囲の人の意見を聞かず迷惑をかける高齢者のことを指します。その
      特色は、わがまま、気遣いに気づかない、直ぐ怒る、上から目線、若者に批判的、IT
     に否定的、陰口が多い等だそうです。

   マッカサー元帥が離日の時の言葉「老兵は消え去るのみ」が思い出されます。

今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)

 

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 第491号・予告
 【 書 評 】 桜田 薫『日本歴史を点検する』   
           (司馬遼太郎著、海音寺潮五郎著(講談社文庫)
 【私の一言】 広中崇夫『少子化(出生率の低下)の根底にあるもの』
     
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