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                                 2024年4月15日

                                          VOL.488
              評 論 の 宝 箱
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 第488号・目次
【 書 評 】 岡本弘昭『ダビデの星をみつめて』(寺島実朗著 NHK出版)
【私の一言】 幸前成隆『克己復礼』



【書 評】
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 ◇     『ダビデの星をみつめて 』
 ◇     
(寺島実朗著 NHK出版)              
 ───────────────────────────                              

                              岡本 弘昭


 著者は、半世紀以上世界を動き回った経験を通じ、より的確な世界認識のための
座標軸として、民族のネットワーク、つまり「つながり」の中で世界を考察するこ
との重要性に気がついた。との認識のもと、「中華民族の世界ネットワーク」、

「大英帝国の海外ネットワーク」を上梓してきた。本書は、その3部作の最終作と

して、2022年12月に発刊された。副題は体験的ユダヤ・ネットワーク論である。

 最近のロシアのウクライナ侵攻、イスラエル問題と言った世界的問題には、ユダヤ
の関わりは深く、ユダヤを理解することは世界を知るためには不可欠である。さらに、21世紀の資本主義は、ユダヤ的価値観の常態化の流れの中にあると著者はいう。一方、日本人の現状は全体に停滞感がありこれを打破するためには、ユダヤ的思考形式と価値観を意識しパラダイムの転換を図ることが求められているという。読みやすい本であり一読をおすすめする。

 なお、六角の星は「ダビデの星」といわれ、古代イスラエル王国の英雄ダビデ王を
表し、ユダヤ人の伝統であり結束のシンボルとして親しまれている。 白と青の色は
ユダヤ教の高僧ラビの肩掛けの色から。 また、青はパレスチナの空の青、白はイス
ラエル人の清い心を表しているという。

 ユダヤの人口が世界人口に占める割合は0.2%程度の少数民族である。約2,000年
前にはローマ帝国による離散という歴史を背負い、以降世界を流浪してきた民族であ
るが、世界におけるその存在感は大きい。歴史の歯車が大きく動き出す時には必ずと
言って良いほどユダヤが登場すると指摘されている。

 その背景は、民族としての歴史をラビの話により吸収し、民族の運命、課題を教育
により共有し独自のアイデンティティを確立させている事がある。また、教育には熱
心で、成人(男子13歳、女子12歳)になり次第、猛烈に勉強する。その内容は、世界
中に分散し生き延びるための知恵で、力強く生きるための価値観「高付加価値主義」
と「国際主義」の習得である。前者「高付加価値主義」は、離散の歴史から、親の資
産の上に生きる事や既得権益のもとに生きるよりも自分の創造的な才能と努力で生き
る事を大切にするというもので、付加価値を生み出す事を志向するものである。
具体的には、それぞれの生きる国や地区で円滑に生き延びるためには尊敬され大切に
される職業につかねばならない。このためには公的な資格を持った医師や弁護士など
のハイエンドの職業を目指すとするものであり、その結果、全世界の金融界、法曹界、先端技術開発分野で存在感を示すようになっている。

 後者「国際主義」は、国境を越えて移動し続けると言う宿命から、自分が生活する
国を相対化して見つめる視座を身につけ、国家を越えた秩序形成や国家の抱える課題
の解決を、国境を越えた視点からはかる視座を持つ事である。これは、既存の秩序や
パラダイムを超えた一次元高い視野から問題解決を図るアプローチであり、固定観念
を突き崩す事にもつながる。さらに、これらを通じ各界にいるユダヤ系人材の存在感
は重く情報を共有し互いに連携して有機的に動く暗黙の幅広いネットワークが存在し、これが情報のプラットホームとして影響力を持ち、少数派が多数派を突き動かし大きな流れを作ってきた。これがユダヤが歴史の流れの中で存在示す示す背景にある。

 イスラエルの指導者シモン・ペレスは、バックス・エコノミカ(経済力による平和)で「新しい戦場は大学であり、戦士は技術者、大砲に変わる武器は頭脳である」と指摘し、イスラエルではこの方針で前進している。この結果同国の経済力は大きく前進している。これに対して工業生産力中心の日本の経済力は昨今急速に遅れつつある。
これは、情報力(インテリジェンス)と知財力(先端技術力)それらを活かす戦略構
想力の違いによると思われる。
21世紀の社会はグローバル化であり、日本がその中で生き抜くためには、ユダヤ的価
値観とユダヤ・ネットワークを教材としてパラダイムの転換を図る必要がある。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

            『克己復礼』
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                      幸前 成隆


 「己に克ちて、礼に復るを、仁となす(論語・顔淵)」。
私欲に勝って、礼を履んで行うのが、仁だ。孔子が、顔淵に教えられた言葉である。

 顔淵が、孔子に、仁を問うた。孔子は、「己に克ちて、礼に復るを、仁となす」と、答えられた。
 仁は、天下の人の手本。「天下の表なり(礼記・表記)」。
 そして、「人の心なり(孟子・告子章句上)」。人の自然の心である。
 他方、礼は、行いを修めるもの。「外を修むる所以なり(礼記・文王世子)」。

  そして、守るべきもの。

「人の履む所なり。…人に礼なければ、生きず(荀子・大略篇)」。
 仁は私欲があると、やぶられる。だから、私欲に勝って、礼を守らなければならな     い。それが仁である。

 今北洪川は、己れを殺して仁を得る、仁を得れば矩を踰えず、と教える。
「孔門は、己に勝ちて仁を得、吾が這裡は、己れを殺して仁を得。およそ自己無明の偸心は、これに当ること弱ければ、暫く勝つも忽ち負く。今日己に克つも明日旧に復る。
 何の尽くる期の有らん。…己れを殺して仁を得る…に至りて、視聴言動、心の欲する所に従って、矩を踰えず。皆これ仁、皆これ礼。また、何の無明の来りて、これを擾す有 らんや(禅海一蘭・第廿七則)」。

 楚の霊王は、貧欲。九鼎を要求するほど増長して、人心を失い、ついに乾谿で追放されることとなった(史記・楚世紀)。
 孔子が、これを評して、霊王に克己復礼ができれば、この辱めを受けずにすんだのに、と嘆かれた(春秋左氏伝・昭公十二年)。


  編集後記
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  「国立がん研究センターは本年3月28日、中卒者は大卒者に比べ、平均寿命前後かそれ以
  下で亡くなる確率が約1.5倍になるとする推計結果を発表した。男性で死亡率の差が最も
  大きかったのは脳血管疾患で、肺がん、胃がんと続いた。女性では脳血管疾患、肺がん、
  虚血性心疾患の順だった。なお、女性の乳がんは学歴が高いほど死亡率が高かった。妊
  娠や出産歴が少ないと乳がんのリスクが高まると分かっており、研究チームは学歴の高
  い女性がこうした特徴を持つ傾向にあるとみている。なお、海外では、フランスでは男
  性で同2.2倍、フィンランドでは女性で同2.2倍などと報告されているのと比べて国内の
  格差は小さかった。研究チームは国内の衛生水準が高いことや、国民皆保険制度により
  医療サービスを受けやすいことなどが背景にあるとみている。学歴によって死亡リスク
  に関わる喫煙などの生活習慣やがん検診の受診状況が異なる傾向にあり、研究チームは
  こうした違いを念頭に置いて対策を改善すべきだとしている。」(日経3月28日の要旨)
  個人の所得や学歴によって健康状況に違いが出ることを健康格差と呼ぶそうですが、主
  要因は生活習慣によるように思われます。若い時期からの生活習慣の重要性を認識する
  事が重要といえましょう

  今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)
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  第489号・予告
 【 書 評 】 片山恒雄『哲学の教科書』(中島義道著 講談社)
 【私の一言】 吉田竜一『高齢社会の課題』
     
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