〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

                                                        2020年1月1日

                                                              VOL.385

 

                      評 論 の 宝 箱

                    https://hisuisha.jimdo.com

                     https://ameblo.jp/hisui303/ 

 

                    見方が変われば生き方変わる。

                   読者の、筆者の活性化を目指す、

                    書評、映画・演芸評をお届けします。

                           

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

第385号 

  ・【書評】    西川紀彦  『落陽』

                   (朝井まかて著 祥伝社文庫)

  ・【私の一言】 岡本弘昭  『令和は高齢者の時代』 

 

             

・書 評

┌────────────────────────────────┐

◇                        『 落陽 』

◇               (朝井まかて著 祥伝社文庫)

 └────────────────────────────────┘

                                            西川 紀彦

 

  明治天皇の崩御に関して、東京の明治神宮造営にまつわる物語を、「東都タイ

ムズ」という三流新聞社の記者を主人公に小説化したものである。日野男爵夫人

と令嬢の艶情報から始まりゴシップ記事売り物の記者が最初に登場して読者をひ

きつける書き出しは見事だ。しかし内容の中心は、この主人公が“神宮に明治天

皇の記念碑を立てる”という情報をいち早くつかんで、森林専門の学者にあたっ

て記事にしていく過程が描かれている。

 

  もともと明治天皇は、自分の墓は京都の伏見桃山御陵にすることを決めていた

ので、東京にせめて記念碑的なものを作りたいと西園寺公, 阪谷東京市長、渋沢

栄一等顕官が運動を起こした。明治神宮の地は、彦根藩下屋敷で維新後は天皇

の御料地となっていたが、以後代々木練兵場、またいずれは万博予定地としても

想定されていたという。明治天皇は17歳まで京都で育ったので、武士の都東京へ

住むのは嫌であった。山の風の匂いのある京都に帰りたいが、帰ると戻りたくなく

なると、東京に来てからは行幸を除き一度も京都には足を踏み入れなかったので、

せめて自分の墓だけは桃山御陵にしてほしいということだった。

 

 どんな記念碑にしたらよいか、専門家の意見では、鬱蒼とした神秘性の漂う森

の中に神宮を作りたいが、かの地は伊勢神宮や日光東照宮のような針葉樹林(杉、

ヒノキなど)には適さない土壌であるという指摘から、針葉樹が適するように人工

林を作ってそこに全国から10万本の針葉樹林を募集する計画を立てた。そのた

め鉄道の引き込み線をわざわざ作り膨大な土砂のかさ上げと樹木の運搬が行わ

れたという。青山練兵場で大喪の儀が終わった明治45年9月から9年後の大正

9年(1920年)に鎮座祭が行われた。

 

 明治天皇が17歳で維新を迎えて武士の都東京に行かざるを得ない心境と、その

後、維新の立役者である西郷。大久保、伊藤がいない明治の時代を、近代国家と

して歩む日本の天皇として、儀式、行幸はじめ新しい天皇の在り方を苦悩のうちに

禁欲的に模索していった模様が側面に語られている。

 

 なお巻末の門井慶喜氏の解説では,表題の「落陽」は近代国家として坂道を上り

詰めたのちの昏迷と、中国の古代首都として栄えた“洛陽”の意味合いを現したの

だろうかといっている。

小説としては後半の部分、新聞社の倒産から始まる章は付け足しのような感じが

した。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

                

                 『 令和は、高齢者の時代 』

───────────────────────────────────

                                           岡本 弘昭

 

 日本は、人口減少と、年少人口(15歳未満)の減少と、高齢者人口(65歳以上)

増加、という人口構造の変化が生じている。

 

 この人口構造は、戦前からの「富士山型」から「釣鐘型」を経て、「つぼ型」に変わ

りつつある。しかも、団塊世代が高齢者層に参入を始めた2012(平成24)年以降、

高齢者人口は増加を続け、2024(令和6)年には全人口比30%をこえる頭でっかち

での社会となる。この社会は、経済成長の鈍化、財政の悪化等をもたらすと予想さ

れ、戦後の社会システムの大幅な転換がない場合には、日本社会は崩壊のおそ

れもあるとみられる。

 

 シルバーデモクラシーという言葉がある。これは高齢者が直接的に政治に働き

かけ、数の力で現行のシステムを維持・伸長する、または政治に直接的には働き

かけないが、高齢者の数の力を政治側が忖度し既得権の維持・伸長を図るなどで、

高齢者の都合の良い施策が取られることを意味する。つまり、このシルバーデモ

クラシーが力を発揮すれば社会システムの円滑な転換は行われにくく、日本は前

記のような大きな問題が生ずる。

現実の日本では既にシルバーデモクラシーが力を持ち、社会福祉費用の配分な

どでも高齢者向けのウエイトが高く財政難の要因にもなっている。

 

 この傾向を避けるためには、まずは日本社会全体が日本の現状、つまり人口の

減少の状況とそれは国を亡ぼす恐れがあることを、また、国力は人材の育成によ

り決まるという基本事項を十分に認識する必要がある。同時に、政治家は、常に

日本の将来を十分にみすえた長期的視野を持った言動が不可欠である。また、高

齢者は、長期的視点での言動はもとより、老人固有の厚かましさをなくし、次世代

を尊重し育てるという人間の本来の意義を十分に意識し謙虚に生きる必要がある。

現段階では既に出来ることからやる必要に迫られており、少なくとも自己責任で健

康の保持につとめ財政負担の軽減に貢献し、一方で人材の育成に対する投資の

拡大を支援すべきであろう。

 

 シルバーデモクラシ―が横行した場合、いつかは世代間抗争は破裂する可能性

が高い。このような場合、多数決を基とする民主主義は崩壊に至るような事態も

起こりかねないと考えられる。

 

 高齢者人口数は2042年をピーク減少に転ずると推計されているが、人口は減少

するため高齢者人口割合は相対的に上昇し続ける。従って、令和という時代は、

高齢者中心の社会であり、高齢者のその有り様が日本の未来を左右すると考え

られる。そういう意味で、令和は高齢者の時代であるといえよう。

 

 

編集後記

 ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴

 明けましてお目出とうございます。

 本年もよろしくご指導・ご支援をお願い申し上げます。

 

 笑門来福という言葉があります。幸福の原点は健康ですから、笑いと健康とは

密接に関係すると思われます。よく笑った人の方が健康に長生きしたという研究

もあるようです。

現代は不透明な時代といわれていますが、出来るだけ笑いを多くして過ごしたい

と考えております。また、笑いも声を上げて笑うことが健康には一番だそうです。

 

皆さまも声を上げてよく笑い、この一年をお過ごしください。

 

今号も貴重なご寄稿有難うございました。(HO

なお、ひすい社ホームページは下記となります。よろしくお取り計らい下さい。

https://hisuisha.jimdo.com

 

∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴

第386号 予告

・【書評】     前川 彬 『ジャパン・ストーリー』

                 (  ジェラルド・L・カーティス著 村井 章子訳 日経BP) 

 ・【私の一言】 川井利久 『日本の未来』