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                         2019年7月1日

                             VOL.373

                  評 論 の 宝 箱

 

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第373号

・ 書 評    矢野清一 『台湾と日本のはざまを生きて』 

                  (羅福全著・陳柔縉編著 藤原書店)

・【私の一言】  庄子情宣 『日本の若者と金魚鉢の法則』

 

 

・ 書 評

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           『台湾と日本のはざまを生きて』

◇          (羅福全著・陳柔縉編著 藤原書店)

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                             矢野 清一

 

 筆者は、半世紀以上も前に、未だ殆ど新入社員と言っても良い若い現役時代

に、貿易関係の仕事に携わっていた時に、生まれて初めて海外に赴任した土地

が台湾であった。それが契機となり、現役時代には約25年間にわたって海外生

活を送る事になった。更に、こと台湾に関しては、生まれて初めての海外生活

の場であり、且つ又通算3回にわたり合計約15年間もの長きにわたっての駐在

地となり、その間、日本企業の台北支店勤務のみならず、二つの合弁会社の設

立・経営に携わり、一入思い入れのある第二の故郷のような土地である。前に

も、台湾出身の著者の本をこの欄で採りあげた事があるが、今回のこの一冊も、

台湾駐在時代の駐在員仲間から紹介されて買い求めたもので、著者が、筆者と

全く同年の1935年生まれであり、この著書の中には、駐在時代に大変お世話に

なった方々や知人の方々の名前が散見され、非常に懐かしく、往時を思い浮か

べながら一気に読み終える事ができた。

 

 本書の著者は、羅福全となっているが、実際には、編著となっている陳柔縉

が著者から聞き取りをして纏めあげたものと思われる。ただ、本質的には、百

パーセント著者の意志が反映されていると理解しており、その内容は、著者本

人が長い年月の苦難を乗り越えてきた浮き沈みの多い人生を語る、大きなドラ

マの様な自伝であると言えよう。尚、この本の序文は、著者の長年の友人であ

る、拓殖大学前総長の渡邊利夫氏が書いている。

 

 この本は前述の通り著者の自伝であるので、目次の時系列の順に沿って、筆

者の体験も思い浮かべながら、以下にその内容をなぞってみる事にしたい。

 

 1)著者は、所謂「本省人」で、太平洋戦争時代以前から台湾・嘉義市に住

む、裕福な名家の生まれで、戦争中の小学校時代から日本に留学に来ており、

終戦後台湾に引き上げて、台湾大学を卒業後、早稲田大学に学び経済学修士号

を取り、その後、米国ペンシルバニア大学に留学し博士号を取得している。非

常に秀逸な経済学者である。その間、日本や米国の学会で広範囲な人士と交わ

り、経済学の研鑽に努めつつ、日本や米国の学会は勿論のこと、政界や財界、

更には芸能界に到るまでの各界に幅広い人脈を築き上げ、日本人以上に日本の

事を精通している所謂「知日派」である。

 著者が日本に留学に来ていたその時期に、筆者は逆に台湾に駐在していて、

現地が厳しい戒厳令下にある事を実感していたのを未だに記憶している。国共

内戦に敗れた結果、大陸から台湾に渡ってきた国民党政権のもとでの厳しい理

不尽な施政が布かれ、それに反発した本省人が立ち上がり、かなりの数の死傷

者を出した、1947年の所謂「228事件」以来、10年以上も続いている戒厳令

のもとで国民党政権の厳しい締め付けが続いていた。当時は、日本人駐在員と

雖も、特に筆者のような若者は(危険な思想に染まっている可能性が高いと言

う事で)それこそマン・ツー・マン方式で日頃の行動が監視されているので、

日常の言動に注意するようにと、上司から言われていた時代である。

著者も、改革を目指す学生運動に携わり、当時の国民党政権のブラック・リス

トにのせられ、日本に留学後、二十有余年もの長い年月に亘って故国に帰国で

きず、日本と米国で過ごすことを余儀なくされていた。

筆者は、台湾駐在時代の一時期、筆者より数才年上の本省人の方で、「228

事件」の当事者で、長く監獄に収監されていて、間一髪で処刑を免れ、その後

釈放された方と一緒に仕事をしていたので、著者の置かれていた環境がよく分

かり、他人事とは思えない気持ちで読ませてもらった。

 

 2)このような逆境にあっても、著者は前向きに活躍し、その間、台湾のパ

ス・ポートの延長も出来なくなった為に、国連のパス・ポートを取得して、国

連の幹部要員として働き、アジアを中心に世界各地を飛び回り、日本語に堪能

であることから1973年には名古屋に本部を置く国連地域開発センター(UNCRD

の国際比較主任となり、更に1990年には、東京にある国連大学の高等学術審議

官として、日本国内のみならず世界中を駆け巡って活躍している。

 

 3)最後には、台湾の新しく生まれ変わった政権のもと、晴れて故郷に戻る

ことが出来て、2000年には、新しい時代の日台関係の基礎を築く亜東関係協会

の駐日代表として東京に戻ってきて、李登輝前総統の来日を実現させるなど、

著者の持つ人脈をフルに活用して、日台間の交流を益々深める役割を果たして

きた。その後台北に帰って2004年から2007年までの間は亜東関係協会の会長も

務めている。

 

 国際関係が非常に流動的な局面になりつつある現在、著者のような知日派の

優秀・有力な人士がいると言う事は我が国にとっても非常に有難い事であり、

この種の絆は今後とも益々大切にしていかなければならないと筆者は考えている。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

           『日本の若者と金魚鉢の法則』

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                              庄子 情宣

 

 日本、米国、英国、仏国,独国、スエ―デン、韓国の7ケ国の満1329歳の若

者を対象とした意識調査(我が国と諸外国の若者の意識に関する調査/平成26

6月内閣府版)があります。これは、自己認識、家庭、学校、友人関係、職場、

結婚・育児の6つの項について調査し比較・分析したものですが、日本の若者の

自己認識等は次のようなものです。

 

1)自己肯定感:諸外国と比べて、自己を肯定的に捉えている者の割合が低い。

2)意欲   :諸外国と比べて、うまくいくかわからないことに対し意欲的

        に取り組むという意識が低く、つまらない、やる気が出ない

        と感じる若者が多い。

3〉心の状態 :諸外国と比べて、悲しい、憂鬱だと感じている者の割合が高い。

4)社会規範 :諸外国の若者と同程度かそれ以上に、規範意識を持っている。

5)社会形成・社会参加:社会問題への関与や自身の社会参加について、日本

        の若者の意識は諸外国と比べて相対的に低い。

6)自らの将来に対するイメージ:諸外国と比べて、自分の将来に明るい希望

        を持っていない。

 

つまり、日本の若者は相対的に将来に対する希望が少なく、意欲も薄いという

結果と思われます。

 ところで、金魚は金魚鉢の大きさによって体型が変わると言われています。

つまり、小さな金魚鉢では、小さな金魚のままであり、大きな金魚鉢では、大

きな金魚へと成長するそうです。これを「金魚鉢の法則」と呼ぶそうですが、

人の成長も金魚と同様に環境に大きく左右されると考えられます。

 

 前記のような日本の若者の特色が生じた日本の環境の一つに日本の教育制度

があると思われます。特に、「ゆとり教育」は、学力低下、忍耐力不足、知識

量の不足、みんなが一番(絶対評価)、競争心低下、協調性低下等をもたらし

たといわれています。

さらにその背景には、戦後GHQによりもたらされた現在の日本の教育を含めた風

土があると思われます。

 

 若者の在り方が国の行く末を左右します。我々は一刻も早く、家庭教育をはじ

めとする教育の在り方を全面的に考え直おし、各国に劣らぬ人材を輩出すること

が喫緊の課題であり、社会はそういう人材を育てる環境を作る義務があるといえ

ましょう。

 

 

《編集後記》

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   金融庁の「老後資金2,000万円」報告書が色々な議論の対象になっています。

一方、厚労省の平成28年国民生活基礎調査によると、貯蓄額が2,000万円以上保

有している世帯割合は、全世代平均では15.0%だそうです。世代別には若い世代

ほど少なく、貯蓄を取り崩し始める直前の60歳代世帯でも22%だそうです。

従って、平均的に言えば「老後資金2000万円」というハードルは現実的には極

めて高いということです。

ただ、もともと年金は保険であり、福祉ではありません。老後の暮らし方につい

ては、それぞれ個人が若いうちから自助努力を含めて十分に考えておく必要があ

るというのがこの報告書の本質でしょうか。

 

今号も貴重なご寄稿有難うございました。(HO

 

追伸

ひすい社ホームページが下記に変わりました。よろしくお取り計らい下さい。

   https://hisuisha.jimdo.com

 

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第374号予告

・ 書 評    吉田龍一 『ユダヤ5000年の知恵』 

                  (ラビ・M・トケイヤー著 講談社α文庫)

・【私の一言】  幸前成隆 『仕事に打ち込め』