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                         2019年5月1日
                            VOL.369
           評 論 の 宝 箱
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          http://blogs.yahoo.co.jp/hisuibook

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第369号
                                     
・ 書 評     矢野清一  『世界を変えた日本と台湾の絆』
                (黄文雄著 徳間書店)
                                  
・【私の一言】   川井利久  『日本の教育』
                         


・書評
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◇   
          『世界を変えた日本と台湾の絆』
◇            (黄文雄著 徳間書店)

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矢野 清一

 私は今から60年以上前に大学を卒業後、総合商社に就職した。入社後2年余り
で未だ経験の浅い新入社員と余り変わらない時に、会社から台湾駐在を命ぜられ、
小さなボストン・バッグ一つを手にして、生まれて初めての飛行機(DC6B型
と言うプロペラ機)に乗って、生まれて初めて海外赴任する事になり、台北の松
山空港に降り立った。
商社に就職したのは、当時は未だ我が国が外貨不足の状態にあり海外へ行く事に
は色々と制約があった中で、海外に行けると言う憧れの為であり、若い時に憧れ
の海外に行かせて貰えたことは有難かった。ただ、この初回の海外駐在から始ま
って、第2の職場に移るまで、商社在職期間35年の内、約25年間もの海外駐在生
活をする事になるとは考えてもいなかった。又、長い海外駐在の中でも、台湾で
の仕事は、支店勤務と自らが企画立案設立した合弁事業会社2社への出向(一時
期は支店勤務との兼務)とを合わせて、都合3回で15年間もの長きにわたってお
り、台湾と言うと一入思い入れが深い土地である。

 取引先や財界で知遇を得た方も多く、(一部の方は既に鬼籍に入っておられる
が)又、苦楽を共にした現地の同僚達とも未だに親しくして戴いている。現在で
も当時の駐在員仲間達と年に一・二度昔を懐かしむ会の「台北会」なるものに顔
を出している。台湾駐在時代を思い出すと、楽しい思い出、懐かしい思い出ばか
りで、余り嫌な思いをしたことはないように思われる。
当時、台湾は、国共内戦に負けた蒋介石総統率いる国民党政権が、中国大陸から
渡ってきて、台北に国民党政府(中華民国)を樹立していて、筆者が台湾に赴任す
る何年か前には、第2次世界大戦終了以前から台湾に在住していた住民との間に、
所謂<2・28事件>と言う騒乱事件があり、戒厳令が布かれていて、大陸から
渡ってきた人たちとの間には大きな違和感があったように思われる。この両者は
所謂「本省人」(大戦以前からの住民)と「外省人」(大戦後大陸の他の省から
の渡来者)と言う呼び方で呼ばれていた事を未だに記憶している。
前置きが長くなったが、台北会の駐在員仲間の一人から紹介されたのが、本欄で
取り上げたこの一冊である。
 
 著者・黄文雄氏は、1938年台湾生まれの「本省人」で、1964年に来日し、早稲
田大学商学部を卒業、その後、明治大学大学院で修士課程を修了されていて、台
湾のみならず、日本の事情にも精通され、所謂「知日派」更には「親日派」であ
り、偏見がなく、台湾の歴史に関して、日本統治時代からの様々な出来事につい
ても、<良い事は良い>と客観的に評価されており、その視点については大いに
賛同したい。又、そこに描かれている往時の日本側為政者や担当者など、当時の
先人の見識には敬服させられる所大である。

 本書の中には、今、この文を書いているこの時に。NHKの朝ドラで「まんぷく」
と言うタイトルで放映されている日清食品(株)の創業者である台湾の嘉義出身の
安藤百福氏(台湾名・呉百福)を始め、台湾出身で台湾は勿論、日本や世界で活
躍されている財界人の紹介があり、今日の台湾経済の発展に繋がる、日本の統治
時代に台湾の発展の為にその基礎を築いてきた日本人の幾多の先人達の下記のよ
うな事例が描かれている。
(1) ダム建設や灌漑施設・鉄道道路などのインフラ
(2) 食糧自給の為の農業改革
(3) 住民の教育普及
(4) 現地風土病駆逐や医療対策
(5) 清廉潔白な日本人公務員(警官や教師など)等々

これらの全てが先人の献身的な尽力・貢献によってなされたものであり、その全
てが現在でも台湾の人びとには感謝されている。
筆者は、この事は日本人として誇らしく思う次第であり、このような経緯が存在
したからこそ、台湾の人々の対日感情が未だに非常に良好であり、その親日感情
の基礎になっていると思われ、この状態は、今後とも永遠に続いて行って欲しい
ものと切望している。

更なる詳細については、是非、この本を一読されることをお勧めしたい。   

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

              『日本の教育』

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                              川井 利久

 日本の教育制度6-3-3-4制について、その年数などについては国際比較
などで概ねそんなところだろうが、内容については大きな問題があると思う。

最初の6-3については社会人の基本常識を植えつけることでいいと思う。
問題は後の3-4である。国際社会で諸外国との接触が頻繁となり、思想や方法
論が論じられる機会が多くなるに従って、各国の人のものの考え方や価値観が鮮
明になり、その人や国の教育やその深さに差別化を感じさせられることが多い。

 塩野七生が自分の息子をイタリアの高校に通わせて、その教育内容に日本との
違いを訴えている。イタリアでは高校では日本の大学の教養課程レベルの教育内
容で、大学での専門性を高めるための 基礎教育が基本だそうである。日本では
中学と高校の教育目的がはっきりせず、大学の1~2年間の教養課程と称するもの
は大学の専門教育の大切な時間を食い荒らすムダと言いたい。
そしてその教育内容の大半が記憶主体である。年号や公式の詰め込みで,やわら
かい頭脳に思考を妨げる記憶を詰め込み、ロボット人間を大量に生産する。その
結果が単純労働反復型の農耕社会を形成する。

 21世紀は過去のそうした社会の継続を拒絶している。最近になって漸く中学入
試にも記憶力よりも思考問題に重きをおくように改革され始めたようだが遅きに
失している。
パソコンやSNSの発明や普及にはアメリカに遅れをとった。生活用の電気製品の
大量生産は中進国の仕事となった。21世紀の日本の進むべき道はやはり独創性の
ある新規事業ではないだろうか。 
それにはまず教育の改革が急務である。6-3-3-4制度の内容を見直して、創造
性のある頭脳を開発すべく、教育制度にも大量生産型だけでなく、独創力開発型
のきめの細かいスタイルをも織り込んで未来の明るい日本の教育を創りたいもの
である。

 
《編集後記》
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本日から、元号は「令和」です。この典拠は、『万葉集』の巻五、梅花(うめの
はな)の歌三十二首の序文だそうです。首相は「日本の四季折々の文化と自然を、
これからの世代にも引き継いでいきたい」という思いで、万葉集から引用し、初
めて和の典籍からとった元号であるといわれたようです。
ただ、この序文は「漢の時代の中国人、張衡の帰田賦の「仲春令月、時和気清』
など、万葉集以前の中国古典を踏まえているようだ」という話もあります。万葉
の時代も、漢籍の影響は強いようで、逆に深く長い文化のつながりを感じさせる
元号ともいえる気がします。

 万葉集「梅花の歌」
初春の令月にして、気淑(よ)く風和ぎ、
梅は鏡前の粉(こ)を披(ひら)き、蘭は珮後(はいご)の香を薫(かをら)す。

今号も貴重なご寄稿有難うございました。(HO)

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第370号予告
                                     
・ 書 評   稲田 優 『日本の生き筋 ~家族大切主義が日本を救う~』 
                (北野幸伯著 育鵬社)
                                     
・【私の一言】 岡本弘昭 『人生100歳時代だそうですが』
                               
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