勢力均衡のためのお輿入れ アニメ・ベルばら解説講座1 | 歴史考察とっきぃの 振り返れば未来

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こんにちは。
歴史家とっきぃです。

『ベルサイユのばら』(1972/集英社)は、池田理代子女史の代表作で、宝塚でも定番で有名です。
1789年には、東京ムービー新社(現TMS)制作でアニメ化され、日本テレビ系で全国放映されました。全40話です。

今回の講座では、このアニメ版「ベルサイユのばら」の背景や、人間関係の話を語ります。

18世紀のヨーロッパは、フランス、オーストリア、イギリス、プロイセン、ロシアの五大列強がヨーロッパの趨勢を決めていました。これをパワー・ポリティクス(勢力均衡)といいます。

1740年、神聖ローマ皇帝(オーストリアの)カール六世が死去し、娘のマリア・テレジアが家督を継ぎました。
皇帝位には、
テレジアの夫のフランツ・ステファンが就きました。この時代には珍しい恋愛結婚です。

しかし、この皇位継承には選帝侯の1人が納得しません。
というより、皇位継承に名を借りてオーストリアに因縁をふっかける輩がいたのです。
神聖ローマ皇帝の位なんて、18世紀には有名無実の地位ですから、どうでも良かったのです。
所領拡大を狙うプロイセンのフリードリヒ大王は、因縁をふっかけてオーストリア所領のシレジア地方を征服します。
資源が豊富ですから、以前から狙っていました。
オーストリア継承戦争の勃発です。

このフリードリヒ大王は文系で、音楽を愛するやさしい若者でしたが、親友の刑死をきっかけに、有能な政治家に成長しました。父王はガテン系の兵隊王フリードリヒ・ヴィルヘルムです。


フリードリヒ大王はマリア・テレジアつまりハプスブルク家の不倶戴天の敵であるフランスと手を結びます。
フランスの宿敵、イギリスは敵の敵は味方で、オーストリアと組みます。ロシアはオーストリアの味方です。

この戦いでマリア・テレジアはかろうじてハプスブルク家の家督を継承できましたが、シレジア地方は手放さざるをえませんでした。ちなみに通称の女帝というのは誤りで、ハンガリー女王が彼女の公式の地位です。しかし、夫に代わり帝国の政務を仕切っていたのは彼女ですから、ここでは女帝で通します。

若いころのマリア・テレジア

マリア・テレジアは大王への復讐を誓います。
心強い味方がいかに大事かを痛感した彼女は、恥をしのんでフランス王と和睦します。実際にはフランスを動かしていたポンパドゥール夫人とです。そして背後を固めるためにロシアの女帝とも同盟を組みます。
後年、「女3人のペチコート同盟」と言われました。

かくして七年戦争が始まります。プロイセンが同盟した強国はイギリスだけです。島国イギリスのやることといったら、ほとんど物資補給です。
フリードリヒ大王は苦境に立たされます。首都ベルリンまで制圧され、自殺まで頭をよぎっていました。
ところが、ロシアの女帝が崩御して代替わりします。
新ロシア帝はフリードリヒびいきで、大王はギリギリで助かりました。マリア・テレジアは、またしても涙をのみます。

おばちゃん時代のマリア・テレジア

油断ならないフリードリヒ大王がすぐ北にいるのです。
何とかしてフランスとの同盟をつないでおきたい。
マリア・テレジア女帝はそう考えます。
フランス王家とドイツ(神聖ローマ)皇帝ハプスブルク家とは、イタリアをめぐって苛烈な争いをずっと続けています。
それが、テレジアの代で180度変わったので、これを「外交革命」と歴史家は呼びます。

この同盟の証が、女帝の末っ子マリー・アントワネットのフランスへの輿入れでした。

『ベルサイユのばら』の物語は、ここから始まります。

ちなみにアントワネットの原作での描写は、
ステファン・ツヴァイクの『マリー・アントワネット』(みすず書房)からとられています。
マーガレットコミックス第9巻「いたましき王妃の最期」は、
一字一句にいたるまで、
ツヴァイクの翻訳を写しています。
まあ、生き生きしているから、いいですが・・・。


1755年、オスカル・フランソワは、フランソワ・オーギュスタン・レニエ・ド・ジャルジェ将軍の六女として誕生します。
嫡男がいなかったため、彼女は男子として育てられます。
オスカル・フランソワが個人名です。
ここからは、とっきぃ考察ですが、後ろのフランソワは父の名からきていますと思います。「フランソワの子オスカル」ですね。

18世紀は、中世崩壊以来発展してきた絶対王政が完成して、逆にその矛盾が出てきた時代でした。
フランスは王国としてのまとまりができてから、久しいのです。かつては現場監督やって森林を切り拓いた貴族もすっかり宮廷で年金生活をやっているんです。
日本の徳川時代でいう「江戸詰め」です。ただし、日本の大名は経費を自前で遣り繰りしてました。

1769年、20年後に大革命が勃発するとは夢にも思わず、毎日舞踏会に明け暮れる貴族社会でした。
この年、14歳のオスカルは王家に輿入れするアントワネットの警護に就くために近衛隊に入隊します。
貴族ですから、すぐに近衛隊長になります。

第1話では、オンナのおもりなど嫌だとごねて、父将軍の叱責を受けます。いろいろ葛藤を重ねたあげく、
後に近衛連隊の右腕となるジェローデル大尉とタイマン勝負で勝ちます。逆に彼の信頼を得て、オスカルなりの決断をして、晴れて近衛隊長になりました。

オスカルを心から心配するアンドレもまた、すばらしい男です。ごねるオスカルを殴り合いでスッキリさせるあたり、美しい朝日の背景とともに、名シーンです。そして流れる馬飼野サウンド。「エースをねらえ!」や「戦闘メカザブングル」でもおなじみですね。

アニメ版「ベルばら」の前半は、長浜忠夫総監督の特徴である強いキャラクター描写が、いい意味で出ています。

第2話以降、
アントワネットがベルサイユにやってくると、さっそく主要な敵役が現れます。定番の市川治氏はオルレアン公です。
デュ・バリー夫人、ド・ゲメネ公爵と揃いもそろって魅力的な悪人たちです。そしてアントワネットを取り囲む3人の頼りないおばさまたち・・・。
オスカルしか、まともな味方はいないんです。
女剣士大活躍!が、前半のトーンです。


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