87歳の父が、86歳の脳神経外科医により脊髄の手術が行われました。 | 総合診療医:誰もがわかりやすく医療を理解する事ができるブログ

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岩手県盛岡市にいる父は現在87歳、この年にして脊髄の手術を行ないました。

しかも手術をしたのは、(失礼を承知で)昭和時代に開業した古臭いままの病院の院長で、86歳の脳神経外科医です。


  

健康に対して少々神経質の父は、これまで特に大きな病気がありませんでした。

最近になって血圧が140mmHg台という事で、効果が弱い降圧剤を飲み始めました。この年齢になって今更飲むべきかは、医師の間でも考え方が異なりますが、まあその程度の健康状態を保ってきたという事です。若い頃に喫煙をしていましたが、肺の病気も全くありません。


  

高校教師でしたが、退職後は畑仕事を趣味としていました。実家の庭は非常に広いのですが、高所の園芸作業以外、雑草取りなど全て自分で行なってきました。特に運動をしていたわけではないのですが、畑仕事が運動替わりになっていたようで、筋肉の衰えはありません。


  

  


ところが私も知らなかったのですが、以前より時々腰痛や下肢のしびれ、あるいは上肢のしびれがあったようです。

ある日、盛岡の脳神経外科の開業医を受診し、脊椎のMRI検査を行なったところ、『腰部脊柱管狭窄症』と診断、それも腰椎だけでなく頸椎部分の脊柱管にも狭窄を認め、何と手術をする事となりました。


  

私はびっくりしました。私の専門の救急領域でも、腰部脊柱管狭窄症に伴う腰痛症状で救急搬送される患者さんは沢山います。ですが、大半は安静のみで経過観察する事となります。そのような経験から、なぜこの年で手術!?と思いました。


  

手術をするという話は7月にあったのですが、手術自体は何と4か月待ちでした。この病院には岩手県内からだけでなく、関東からもわざわざ手術をしに来る患者さんもいるそうです。結局、キャンセルが出て手術は1か月後となりました。


  

  


手術当日の朝、私は盛岡に向かい、そのまま『はらた脳神経外科』という病院に向かいました。ここは私が小学生の時に座席が隣りになった事がある同級生のお父さんが院長で開業しています。

そんなに人気のある病院なのだから、どんなに立派な病院なのだろうと行ったところ・・・


  

上の写真のように、外面も中身も昭和時代に開業された時とほとんど変わらぬ古臭~~い病院でした。

今は開業医でも電子カルテやフィルムレスの時代ですが、昔のまま紙カルテ、そして病状の説明はフィルムを見ながら行なわれました。


  

更に書くと、洗面所は紙タオルではなく何と布タオルでした。院内感染の事を考えると、あり得ないですが、病院監査の時は大丈夫なのか?と思ってしまいました。

まあ、これをいいように解釈すると、その程度の事で院内感染する程、免疫力が低下しているわけではない患者さんが手術の対象という事にもなるのですが・・・。


  

  


ここで基本的な説明を致します。

  


脊椎・・・つまり背骨は横から見ると、緩いS字カーブ状になっています。椎体の部位によって名前が異なります(上の図1)。

・頸椎は7個・・・父は第3頸椎に狭窄あり

・胸椎は12個・・・父は第11・12胸椎に狭窄あり

・腰椎は5個・・・父は全ての腰椎に狭窄あり

  


椎体の変形や圧迫骨折などにより、椎体の後ろ側を通る脊柱管(上の図3)という神経の束を圧迫することがあります。

  


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人間の脳は強いストレスを感じると、身体のどこかに痛みや不調を感じる事があります。それは腰痛症状として起きる事もありますが、多くの場合、父のように原因となる身体的な要因を持っています。そこに心因的な要因が重なり合うのです。

  


腰部脊柱管狭窄症1つをとっても、軽症ならば痛みの原因がわかった事で安心され、それだけで慢性的な痛みが随分と楽になる場合もあります。ですが、父の場合はかなり狭窄症状が強い脊椎の変形がありました。

  


  


父がこんなにもたくさん狭窄があったのは、趣味の畑仕事で前かがみになる姿勢が多かったからです。おそらく10年以上かけて椎体が変形して狭窄を起こしたようです。上の写真は父の腰椎の部分のMRI画像、素人である私の妹が見ても、椎体が明らかに脊髄を圧迫しているのが分かるくらいでした。

  


それにしても『腰部脊柱管狭窄症』というと普通は整形外科医が手術をするはずなのに、なぜ脳外科医が手術なのか?

整形外科医による一般的な手術は治療効果がある場合とない場合がある事は、専門外の私でも知っていました。例えば、下のような手術画像になります

  


  


原田先生の手術は、顕微鏡を使った手術でした。通常、整形外科医は顕微鏡手術で行ないません。脳外科医は脳の手術で顕微鏡を使う事があります。1つ下の画像は椎体で上の部分が背中側です。

注目は、後ろにある「棘突起」と左右にある「横突起」の間にある「椎弓板」です。片側だけの椎弓板を切除して脊髄が通っている「椎孔」に進みます。椎弓板を切除すると「黄色靱帯(おうしょくじんたい)」というものがあります(2つ下の画像)。そして、体位変換により脊髄周囲の黄色靱帯を完全に切除します。

  


ちなみに脊柱管狭窄症のある人は、得てして骨粗しょう症も合併している事が多いのですが、父の場合は農作業を続けた結果、骨密度は何と同年齢の1.5倍もあり、骨自体が固く容易に切除できなかったようです。

  



  


そして通常は柔らかい「黄色靱帯」は慢性的な炎症により固くなっており、しかも量が2倍に増えていました。この黄色靱帯を顕微鏡下で丁寧に切除していきます。

すぐそばには神経の束、ここは一般の外科医でも神経を傷つけるのがこわくてなかなか手を出せないところです。

  


  


上の写真が摘出した黄色靱帯です。少量の出血があるので赤くなっています。この黄色靱帯を摘出すると圧迫されていた脊髄の束が見る見る膨らんで圧迫がとれました。

手術部位が多いため、今回は腰椎のみの手術だったのですが、それでも前後の麻酔時間も含め5時間かかりました。あと2回手術する必要があります。

  


このようないわゆる「低侵襲手術」はみのもんた氏の腰部脊柱管狭窄症の手術をした整形外科医もいますが、多くは脳外科医の分野なのです。

⇒ 『専門医が語る坐骨神経痛―手術して治すのではなく、治る患者さんを手術する

  


  


ちなみにこの手術、何と原田先生の方から手術見学を勧められました!!

普通はあり得ない話です。実の息子しかも医師である私に手術見学を勧めるだなんて、よほど腕に自信があるのだなと思いました。

  


原田先生はこれまで3000例もの顕微鏡手術をされてきました(みのもんたの手術をした整形外科医は2000例)。

通常の整形外科的な手術よりはるかに侵襲が少なく、早い患者で翌日からトイレ歩行、入院期間も短く済みます。実際、父も腰痛は改善、2か月経った現在、以前と変わりなく自立しています。

  


そもそもなぜ86歳にして現役なのか?、それは全国でも顕微鏡を使った手術を行なっている病院はごく限られているからです。だからわざわざ関東から盛岡まで来て、手術を受ける患者さんがいるのです。

86歳ですので、今更手術の件数を増やして名声を得たいなどのやましい考えなどあるわけがありません。手術が必要でかつ治療効果がある患者さんに、普通に手術を勧めているだけです。

  


  

  


上の画像は日本救急医学会からの提言ですが、健康であれば、いつまでも現役でいる事ができます。原田先生のこの素晴らしい技術、できれば若い脳外科医にも知ってほしいと思いました。ただし、若い人たちは形から入るので、まずは病院を建て替えてほしいとは思いましたが、後継ぎがいないようなので・・・。

  


あらためて思いました。

・年齢だけで人を決めつけてはならない。

・人を救うには、まず自分が健康でなければならない。

  


素晴らしい手術を見せて頂き、感慨深いものがありました。そして父の手術を見て、思った事が下に示した私の結論です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

  


  


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⇒ 『Dr. Hisacchi

 

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