大杉漣さんは「心筋梗塞」を発症したのかもしれません | 総合診療医:誰もがわかりやすく医療を理解する事ができるブログ

総合診療医:誰もがわかりやすく医療を理解する事ができるブログ

「否定の極論」記事に疲れたあなたへ贈る:「食事」「睡眠」「運動」・・これら「健康の三本柱」をねじ曲げずにポジティブに考えるブログです。

合掌、2018年2月21日、大杉漣さん死去、享年66歳でした。

  

  

専門的には「心不全」とは病態であって病気ではありません。心不全・・・心臓の機能が落ちる病態を起こす原因の病気があるのです。

心不全の原因として、他の病気も鑑別すべきなのですが、あくまで今回は「心筋梗塞」として話を進めてまいります。

  

   

#心臓の解剖

心臓は胸の左側に位置すると思っておられる方がいらっしゃるかもしれません。

正しくは、真ん中よりやや左側に位置します。

ですからBLSでの心臓マッサージの講習では、両側の乳輪を結んで胸骨と交差する部分をマッサージするように教えられるのです。

  

▲心臓の位置

  

  

どんな臓器にも酸素や栄養などを運び込む血管が存在します。

  

心臓の場合は3本の太い動脈が存在します。これを「冠状動脈(かんじょうどうみゃく)」と言います。

具体的には、左冠状動脈からの2本の動脈(前下行枝、回旋枝)と右冠状動脈です。

  

▲冠状動脈の位置

  

  

#心筋梗塞と狭心症の違い

下の画像のように、動脈硬化や血栓などにより、冠状動脈が狭窄(狭くなった)した状態が「狭心症」、完全に閉塞した状態が「心筋梗塞」です。

  

  

#心筋梗塞の症状

上の画像のように、心筋梗塞では冠状動脈が完全に閉塞します。すると、血流が途絶えた末梢部分の心筋が壊死(えし)します。

この結果、心筋梗塞や狭心症を発症した多くの人が、「胸痛」という訴えを起こします。人によっては「背部痛」を訴える場合もあります。ただし「背部痛」の場合、どちらかと言えば、解離性大動脈瘤を考えます。

  

教科書的には、狭心症の場合は胸痛の時間は長くても15分まで、それ以上続けば心筋梗塞を考えます。いきなり心筋梗塞になるのではなく、それ以前から狭心症のように冠状動脈が狭窄していて、時々胸部の不快感などの症状を起こしていたという「前兆」を訴える人も多くいます。

尚、心筋梗塞の約6割の患者さんが、前兆がなくいきなり心筋梗塞を発症するとされています。

  

  

さて大杉さんのように、心筋梗塞で「腹痛」、より正確に言えば「心窩部痛」、つまりみぞおちの痛みを訴える人もいます。

  

これは「放散痛」あるいは「関連痛」と言って、病気の原因となる臓器とは違う部位に生じる痛みの事です(専門的には放散痛と関連痛は少々異なりますが)。

心筋梗塞の放散痛は、他にも下の画像のような症状を訴える人もいます。

▲心筋梗塞の症状(放散痛を含む)

  

  

#心筋梗塞の治療

上述のような、今までに経験した事のない強い痛みが出現した場合、迷わず救急車を要請する必要があります。救急隊は症状から、狭心症や心筋梗塞を考えて、緊急治療ができる医療機関に搬送してくれます。

  

心筋梗塞と診断された場合、ただちに「心臓カテーテル検査」の適応となります。血管造影により冠状動脈を映し出し、閉塞あるいは狭窄した部分を拡張させる治療が行なわれます。

この治療開始が早ければ早いほど、壊死する心筋を最小限に食い止める事ができ、その後の日常生活への影響(ADL)も減らす事ができます。

  

  

#心筋梗塞・狭心症を発症しやすい時間

気温の大幅な変化により、血圧も変動します。血圧の大幅な変動は、心筋梗塞・狭心症(ついでに脳卒中)の発症の要因になります。気温の変化が激しくなる午前中(特に9時頃)は要注意です。

  

▲サーカディアンリズム(AM9時頃、心筋梗塞・脳梗塞を発症しやすい)

  

  

#心筋梗塞の原因

心筋梗塞や狭心症は動脈硬化血栓が原因です。

従ってこれらの原因となる持病を持っている場合は、薬によるコントロールが必要です。ある程度病状が進行している患者さんでは、薬で「病気を治す」のではなく、「合併症の防止」の目的に必要なのです。

  

  

上の画像に当てはまる項目が多ければ、できるだけ減らす努力が必要になります。

繰り返しますが、持病をお持ちの方は、薬によるコントロールが大切です。

  

ここまでは、大杉漣さんの件に関連して、専門的な話を書いてきました。

ですが、一般人にとって大切なのはここからです。

  

▲カーラーの救命曲線

  

  

心筋梗塞では不整脈を起こして、直ちに心停止に至る場合があります。

すると上の左のグラフのように、1分間に7~10%の割合で死亡率が増えていきます。ただちに救急車を要請するだけでなく、現場でも一般人が初期対応をする必要があります。

  

具体的には「BLS」「AED」です。

次の動画は6分ほどですが、必ずご覧ください。見ると見ないとでは大違いです。

  

  

BLS講習を受けた経験のある方も、時間が経つと忘れてしまいます。

半年に1回でも、動画を繰り返し見るべきです。

  

  

救急医である私自身も、病院外でAEDを使用した経験がありません。

  

  

逆にあなた自身が、救われるかもしれません。

どんな人も一般常識として、BLS+AEDの知識を身につける事を切に願います。また、よく利用している駅やデパートなどでは、AEDがどこにあるかチェックしておきましょう。

  

そして心筋梗塞に限らず「前兆」・・・もし、いつもと違う症状が起きるようなら、それは何らかの病気が隠れているかもしれません。

健康管理に完璧なものなどありません。日頃から身体の声を聞き、おかしいなと思ったら病院を受診しましょう。

  

3月9日は「脈の日」、9月9日は「救急の日」です。

半年に1回はBLS+AEDの動画を見てくださいね。

  

にほんブログ村 健康ブログ 病気予防へ 読者登録してね
にほんブログ村