2016年5月、ウォーキングなどの身体活動を増やす事によって、13種類の癌リスクが低下するという報告がされました。
⇒ 『Increased physical activity associated with lower risk of 13 types of cancer』
#対象
米国や欧州で行われた12件の観察研究をもとに、144万人の19~98歳(平均59歳)の男女を対象に、生活習慣と癌の発症について11年間にわたり調査がされました。
期間中に18万6,932件の癌が確認されました。
#解析結果
ウォーキングなどの活発な運動を週に5日以上行っている人では、ほとんど運動しない人に比べ、癌の発症リスクが20%低下することが明らかになりました。
#ウォーキングで減らせる癌
なぜウォーキングなどの運動習慣が、癌の発症リスクを低下させるのでしょうか?
ウォーキングを毎日続けると、筋肉などで血糖を下げるホルモンであるインスリンの効きが良くなります。そのため体内でインスリンの過剰な分泌を防ぐ事ができます。
一方で、肥満や運動不足の人は、インスリンが過剰に分泌されやすい。これが2型糖尿病や、高血圧や動脈硬化などが進行しやすくなります。
特に2型糖尿病では、細胞から分泌される「サイトカイン」と呼ばれるタンパク質が慢性炎症を引き起こし、癌細胞がさらに増殖しやすくなります。
また、次の論文を紹介します。
⇒ 『Physical activity and male colorectal cancer survival.』
こちらは上の中の結腸癌(大腸癌)で、「癌予防」ではなく既に結腸癌を発症した668人の男性(転移なし)を20年間観察した研究です。
20年間で258人が死亡し、うち88人は大腸癌が原因でした。「1週間の運動量」を見ると、運動量が多いほど死亡率が低く、最も運動量が多かったグループは、全く運動しなかった人たちに比べて大腸癌による死亡リスクが49%も下がっていました。
今回のテーマは「癌予防」ですが、「再発予防」にもある程度の効果があるのです。
さてウォーキングなどの運動習慣の有無で、体内で上述した事が起きるので、癌予防だけでなく、他にも予防効果があります。
下の写真は、この分野では日本でもトップクラスの首都大学東京の研究室のホームページからの出典です。
運動すれば筋肉が作られます。
最近の研究では筋肉には身体を動かすためだけではなく、病気と戦う役割もある事が推測されています。
胆管癌で亡くなられた女優の川島なお美(享年54)さん、大腸癌で亡くなった俳優の今井雅之(享年54)さんは、亡くなられる少し前に公の場所に出てきました。
その時のやせ方は、誰しもが驚いたと思います。
あの状態を医学的には「カヘキシア(癌性悪液質)」と言います。
末期癌で食欲が落ちてやせただけではありません。高齢者が肺炎などが原因で、食事をほとんど摂れなくなっても、あのようなやせ方にはなりません。
あのようになるのは、理由があります。
首都大学東京・大学院の藤井宣晴教授によると、
⇒ 「癌細胞を移植し、人工的にカヘキシアにしたマウスに筋肉増強剤を投与してみた実験」
・筋肉増強剤を打たなかった癌マウスは筋肉が減少し、全部が衰弱死した。
・ところが、筋肉増強剤を打ったマウスは癌細胞が増殖しても筋肉量と体重が維持され、10%しか死ななかった。
↓
これは、癌に罹ったとき、筋肉が生命維持のために何らかの役割を果たしていることを意味している、との事です。
もちろんこれは動物実験の話であって、人間でただちに臨床応用できるわけではありません。
ちなみにネット上や書籍でも、度々「●●で癌が消えた!!」などの文面を見る事があります。これらの多くは動物実験上の話であるか、仮に人間で癌が消えたとしても非常にまれの話です。
癌の「三大治療」は、何年にも渡って多数の臨床結果からエビデンスが認められた治療方法であって、これらを超える治療法は存在しておりません。エビデンスがあるからこそ、初めて保険適応となっております。
運動と癌の関係はまだ不明なことも多く研究途上にあるようです。
ただし、次第に分かってきたのは、筋肉から身体を守る有益なホルモンが出ている事です。
それが「マイオカイン」です。
「マイオカイン」
→ 「マイオ(筋肉)」、「カイン(作動因子)」の事です。
「マイオカイン」には様々な種類があります。
例えば、「SPARC」というマイオカインは、大腸癌を抑制する効能があることが分かっています。筋肉で作られたSPARCは、大腸癌細胞を見つけるとアポトーシス(自殺)を働きかけるのです。
他にも筋肉から分泌される「マイオカイン」は次々と発見されています。
専門用語ばかりですので、ここは読み流してください。
・「IL-6」:肥満や糖尿病を抑える
・「FGF-21」:肝硬変につながる脂肪肝を改善する
・「アディポネクチン」:糖尿病や動脈硬化、うつ病やストレスにも効能のある
・「アイリシン」:認知機能の改善につながる
・「IGF-1:」アルツハイマー病の原因物質を減らす
繰り返しますが、これらの「マイオカイン」が発見されても、すぐに臨床応用できるわけではありません。
動物実験の研究レベルのままで、我々が生きている間に保険適応にはならないかもしれません。
では我々はどうすればいいのでしょうか?
もう答えは明らかですね。
習慣的な運動をする、運動嫌いな人や激しい運動が禁じられている人は、運動替わりになる事を習慣的に行なう事です!!
また筋力を高める事で、認知症の予防にもなる研究結果もあります。
運動する事はとても大切ですよ。
⇒ 『筋力の高さ、認知機能に比例か』
最後にもう一言・・・
(画像はネットより拝借)
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