(14)

翌朝は雪だった。

早めに会場へ向かうと、昨日相談に来た麓千代子が来ていた。

「今日も相談に?」

と聞くと「いえ、今日は先生に差し上げたいものがあって」と言って手提げ鞄から小さな包みを取り出した。

「一体それなんなの」と聞くと、

「お気に召すかどうか分かりませんが」

と言ってその包みを差し出してきた。

開けてみると小綺麗な弁当箱におにぎりが3個入っていた。

「ありがとう、美味しそうだね、お昼に頂くよ」

それから、この地方で雪が降るのは珍しいとか、よもやま話をして帰っていった。

昼時にそのおにぎりを食べてみると、タラコ、しゃけ、唐揚げといった定番の具材が一杯に入っていてどれも美味しかった。

 

それから翌日も、翌々日も毎日午前中に千代子はおにぎりを持って通って来た。

そして最終日の前日もいつものように朝一番でやって来たが、どこか思い詰めたような表情だった。

「いや、すまないね毎日。何かお返しでも考えないと」

「いいんです、毎日こうやっておにぎり持って先生のお顔を見られるというのが楽しみだし、生き甲斐になりますから。だけど、もう明日が最後ですね。

次はいつになりそうですか?」

「そうだね、自分で決められる事ではなく、決めるのは本部だから。いつか来られるかどうかも分からない。そう思うと私も寂しいよ」。

「本当に生き返ったような日々でした。明日が最後でもう先生に会えなくなると思うと、これからどう生きていったらいいか」

そう言うと、何か思い詰めたような寂しげな表情で千代子は帰っていった。

 

そして、相談者こそ毎日数名来たが本部が望む御祈願は獲得出来ないまま最終日を迎えた。

最終日は昼までということで、まあ今回は完敗だ、このまま東京へ帰ればどれほどの叱責が待っていることやら、と気が滅入りつつ、気がつけば昼近くになっていた。

 

しかし今日が最後だと言うのに千代子は顔を見せなかった。

どうしたのだろう体調でも悪いのかと、ホテルの売店に弁当を買いに行き戻ってみると、千代子の母親が入り口に佇んでいた。

「やぁ、お久しぶりです。今日は千代子さんは?毎日お世話になってたんですが体の調子でも悪いんですか?」

そう言いながら母親の様子を伺うと、顔色は青ざめ目は放心状態、マフラーを握りしめた手は小刻みに震えている。何かただならぬ雰囲気だ。

 

「千代子は今朝亡くなりました。首を吊っての自死でした。簡単なメモが残されていて、この8日間は本当に楽しかったがやはりもう生きていけない、と。以前にも自殺未遂があったので気をつけてはいたのですが」と今にも崩れ落ちんばかり、それだけ語り終えるとそのまま小走りに去っていった。

私はもう茫然自失となり、買って来た弁当も満足に喉を通らず、そそくさと帰り支度をして帰京した。(続)