「世界にはきみ以外には誰も歩むことのできない唯一の道がある。その道はどこに行き着くのか、と問うてはならない、ひたすら進め。」(ニーチェ)

 

 

 

 

 

 

「ALWAYS続・三丁目の夕日」(東宝、山﨑貴監督、2007年公開)という映画をアマゾンプライムで見ました。

 

「ALWAYS三丁目の夕日」、「ALWAYS三丁目の夕日’64」との3部作で、全てアマゾンプライムで見ましたが、いち鑑賞者の印象としては、前作はセンチメンタルに流れ、次作は何やら印象薄く、間に挟まったこの作品が完成度も高く一番面白かったですね。

 

作品の舞台は、前作では建設中だった東京タワーが完成後の昭和34年(1959年)春。

VFX技術を駆使するなど当時の風景、世相が実によく描かれています。

 

この「三丁目の夕日」という映画、公開当時大変ヒットして話題になっていたのは知っていても、食わず嫌いというか、どうせ昭和ブームに乗った回顧趣味のつまらない映画だろうとバカにしていたんです。

 

下町が舞台というので、「フーテンの寅」のようなまがい物の下町描写じゃないのか、とか。

 

ところが今回実際に見てみればとんでもない、素晴らしい、大した秀作と感じました。

とにかく子役を含め役者陣が思わず唸ってしまうほどの熱演。

 

そして、作品の構造もいわば二重化されてるんですね。

 

一方では戦争の傷跡からようやく脱しつつあるような大人達の世界。

やがて到来する高度成長へ向かって突き進みつつある大人達。

 

他方ではその大人達に育てられている子供達の固有の世界。

推察するに子供達は小学6年生あたりと思われ、まさに私と同世代、団塊世代の小学生時代の生活心理が描かれていて、この二重の世界の交錯が作品に奥行きを与えています。

 

とにかくまず一つには、鈴木オート社長を演ずる堤真一を初めとした、子役を含めての役者陣の演技が好印象。

 

 

もう一点は当時の世相、というより、より正確には当時の経済的エートスともいうべき社会的雰囲気が的確に描かれているのにも感嘆。

 

皆が皆前向きの前傾姿勢で暮らしている。

 

現実は辛かろうとめげずに頑張ればやがて世界は開ける、といった心理。

この前向きのエートス、勤勉の倫理こそ昭和後期の日本社会の隆盛を準備したものではないかと。

社会的分断が目につく現在では遠く失われたエートスと言えるでしょう。

 

やれインバウンドだ、観光立国だと、社会の根源たる労働、生産を軽視し、技術開発を忘れ円安の為替差益で企業利益を伸ばし、茹でガエル状態になりつつある現代日本を逆照射する貴重な映像作品とみました。