内緒話をするにもいつどこで誰に見られるかわからない分、結界を張って注意しておかなければならないのが、街中の不便な所だ。
 俺がこの世界に来たことをそこらじゅうの精霊が知っていて見物に来たように、話の内容をいつ誰に話されるかわからないから、結界を張って、その中の精霊だけに口止めをしたほうが手間がかからない。
 あのおかしな人間が来てから武と二人で話す機会を作れなかったので、思ったより話さなければならない事が沢山出来てしまった。
 話が長くなったら買い物に行けなくなるかも知れないから、結界を張るついでにお使い要員を頼むことにした。
 しかし、結界石以外の魔石は今一つしか持っていないので、それをつかうしかない。
 おもむろに水筒から石を取り出し、魔石をベースに人の形にしていく。
 あまり子供過ぎても、もう時間も時間なのでまずいだろうと12才くらいにしておくことにしよう。
 青い髪は目立つ上、一目で人間でないとわかってしまうので、限りなく黒に近い色にする。
 最後に名前を考えなきゃいけないんだが、急に思いついて造ることにしたので、考えていなかった。
 水の精霊だから水に関係ある名前の方が望ましい。
 まあ多少安直だがいいか。
「君の名前はタキだよ。短い間だけどよろしくね。」
そう言うと同時に指定した通りの実体が出来上がる。
 顔は特に指定しなかったが、思ったよりかわいいタイプになったがまあいいか。
人の形に実体化させるのはこの世界では比較的大きな魔法だ。
 周りに気づかれないよう大きな魔法を使おうとすると、どうしても周りの精霊の動きでわかってしまうので、気づかれないくらい人のいない場所まで行くか、結界を張って見えないようにするかしかないと言ってもいい。
「こんにちは、透。何をしてほしいの?」
 実体化させる時点で、なにか用事があるのだとわかっているからこその言い方だ。
「こんな簡単なこといちいち頼むのも悪いんだけど…」
と言いながら食料の調達をお願いする。
あと、何かあったときの為に魔力だけの魔石を一つ渡しておく。
 いざという時にはこれで魔法を使えば体を固定している方の魔石が減るのが抑えられる。
 ちなみに他の剣レベル100を超えるような人たちは、それぞれ3つの領で騎士とかをしているらしい。
 そんな話をしながらも歩みは止めなかったこともあって、街の入口までもうすぐになった時、ニテはまた一匹でどこかに飛んでいった。
 ドラゴン連れて歩いていたら目立ってしょうがないということなのだそうだ。
「魔法で見えないようにすることも出来るけど、わかる人には魔法使ってることがわかるから、不用意に魔法を人前で使いすぎないほうがいいしね」
 詳しい原理はさっぱりわからないが、光の聖霊の力を借りて、屈折率を変えることで見えないように出来るらしい。
 町に入ると、首都なだけあって人の数も大違いだ。
 馬車も多く走っているし、前の町では見なかったような生き物を連れている人もいる。
 こんな中なら一人くらいドラゴンを連れていても大丈夫なように思えるのだか、そこはそうは行かないのだろうか?
 前の町とは比べものにならない程大きな町だが、透はここに来たことがあるのか、迷うことなく進んでいく。
「まずは宿の確保だな」
 そう言う透に
「それならこの先に、食事もうまくて値段も安いっていう用心棒御用達の店があるぞ」
 ガースがそう言って案内してくれた町の入口からほど近い店は、本当に御用達なのか、併設されている一階の飲食店を見た時点で、鎧を着ている人の割合が多い。
 入ったすぐ脇にある受付で二つ部屋を頼むと、すぐに入ることが可能だというので、まずは荷物を置くことにする。
「俺たちは荷物置いたら一度レベル屋へ行って、いい仕事が入ってるか見てくるつもりだが、お前たちはどうする?」
 当然この後の予定の決定権なんてない俺は、透の方を見る。
「食料の調達には行く予定ですけど、その前に一度部屋で休みたいですね」
 確かに、二日連続の歩き通しで、間の一晩は野宿だったので、疲れたといえば疲れている。
 用事が済んだら下の階で一緒に食事をとることにして、シンとガースとは一旦分かれることになった。
 ツインの部屋は基本的には普通のホテルとあまり変わらない。
 明かりが蝋燭と、魔石を使うランプしか置いていない所が違う位だろう。
この間泊まった所も多分そうだったんだろうが、気が付いたら朝だったし、そんな事を気にしている余裕自体なかった。
 休むと言っていた透だが、部屋に入った途端に魔石を取り出し、結界を張る。