著者は幕末から明治近代化にかけて活躍した人の物語を多く手がけています。これもその一つ。
タイトルからすぐに「前島密」の名が浮かんできます。
ですがちっとも「郵便」の話は出てきません。
まずは母一人子一人の貧しい生活。
医師の家の養子になった母の弟のところへ跡取りとなるべく遣わされると、主人公は向上心いっぱいで勉強に励みます。
漢方医よりも蘭方医になろうと長崎を目指しますが、道半ばで船乗りになろうと決意します。
好奇心も行動力もありますが、なんだか飽きっぽい主人公。
黒船に心奪われ、船にまつわることをするうちに勝海舟に出逢ったり、この時期の激動の様が伝わってくるのですが、この時点で物語は半分ほどまで進んでいますが、郵便に関することは出てきません。
なんとなく文系に思える郵便事業と医師や船乗りと言った理系の学問。
文系理系と分けるのは現代の悪い癖かもしれませんが、この国が動く時にあれもこれもと欲張りな若者がいたことが、頼もしくもある作品です。
メールやメッセージアプリに推されがちですがそれでも旅先の絵はがきは、手書きでなくちゃと思うのです。