戦争をどうして阻止できなかったか
岩波現代文庫 家永三郎『太平洋戦争』17ページ

これは大学生の時に使用した教科書である。その教科書
そのものは残念ながら家にはない。この文庫版は数年前
に買って読んだものである。教科書は売ってしまった。
残念でならない。

冒頭の引用文は実はこの本の第一編のタイトルである。
タイトルをそのまま引用として引いたのには、この言葉
に家永三郎先生の情念にようなものを感じるからである。

本書では、そうした積極的要因にもかかわらず戦争阻止
の条件があれば戦争を阻止することが可能性もあったの
ではないかという問題を設定した上で、現実には戦争を
阻止することができなかったのは何故かという、いわば
戦争惹起の消極的要因を、著者の専攻する思想史学と法
史学との角度から考えていくことにしたい。
(18~19ページ)


家永先生は太平洋戦争が「やむを得ない状況に追い詰め
られた状況で起こったこと」をいう、現在広くはびこっ
ている、「戦争不可避論」を否定し批判している。私は
先生がこの説を唱えるのは、日本という国を愛していた
からだろうと思っている。

日本は賢明にも太平洋戦争を回避することに成功した。

この反語として、「戦争をどうして阻止できなかったか」
という編を最初に持ってきて、問題提起としたのである。

回避する力があったのに、それができなかったのは、痛
恨に極みである。先生が講義中に涙を抑えられなくなっ
て、しばしば講義が中断したのも、このような心痛によ
るもであると思っている。

この第一章で、日本人が中国や朝鮮に対し政策や意識で
大きく歪みを生じたと指摘する。その歪みは一言でいえ
ば蔑視である。この蔑視が国民感情から政策まで、まさ
に隅々までに行き渡ってしまったのである。

日清戦争は、従来、先進文明国として、また大国として、
とかく畏敬の目をもって見る傾きが強かった日本人の対
中国観を一変させた。
(23~24ページ)


ここからの数ページは生々しい中国や朝鮮に対する蔑視
の言葉が数多く引用されている。国民がこのような意識
を共有してしまったことで、その後の対中国、対朝鮮政
策の傾向を、疑問に感じたり、批判する意識を、国民が
失ってしまったのである。

翻って、現在日本人にこのような意識が再び醸成されて
いないだろうか。今一度私たちはこのことを真剣に考え
る必要がある。国同士に問題があることと、相手の国を
軽視したり蔑視したりすることとは、まったく別の問題
であり、問題が生じた際にお互いが全くの無理解であっ
たり、誤解が生じていることを問題視すべきである。そ
して、相手の国が無理解や誤解を生じているのであれば、
なおさら、私たちは冷静かつ賢明に振る舞うことが求め
られている。

第二章では戦争を批判する意識そのものを封殺する公教
育のあり方と、言論統制にメスを入れている。

1889(明治22)年天下り式に公布した大日本帝国憲法は、
基本的人権の無制約的保障をなさず、表現の自由はただ
法律の範囲内においてしかこれを認めないことと定めた。
法律の定め方によって、表現の自由を無にちかいところ
まで縮小することも可能とされたわけである。
(36ページ)


このような体制の下では、国民は、日本の国家・社会の
根幹にふれる重要な問題について、真実を知り、自由な
意見を交換することによって、日本の将来の進路につき
自由にその方向を選ぶ可能性をほとんど全面的に閉ざさ
れてしまったのである。
(37ページ)


治安維持法をはじめとする言論を統制するための治安立
法にとって、国民は何よりもまず、真実を知る機会を失
った。真実を知ることなく有効な議論を行うことが極め
て困難なのは想像に難くない。しかし、その上に議論を
する機会や場所さえ奪われていくのである。

しかし権力は、服従という消極的な形にとどまらず、積
極的に国策へ協力する心情を培うことを教育に期待した。
そのうちでも、特に身命をなげうっても進んで戦争遂行
に奉仕する軍国主義的心情の培養が「忠君愛国」の重要
な内容として強調されたのである。
(46ページ)


家永先生は「教育勅語」の役割が大きかったこと、特に
当時、軍を取り仕切っていた山縣有朋がこの「勅語」に
より軍国主義的な色彩を盛り込んだと批判している。
小学校の教科書はすべて国定教科書であり、小さな頃か
ら徹底的に軍国主義的社会観をたたき込まれたことが、
多くの国民を画一化し、自由な意見や発想を奪っていっ
たのである。

先生はまた、このような画一化教育によって生まれた国
民が、比較的自由な教育の場であった大学の教育を受け
た者が形成する「インテリ層」を孤立化させ、無力化さ
せる役割を担ったことを指摘している。(44ページ)

この本はとても一日では書ききれない。
明日は別の本を扱うので、この本はしばらくした後に再
登場していただく。

太平洋戦争 (岩波現代文庫―学術)/家永 三郎

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