そしたら、「私はまだ諦めていませんよ」っていうんだよ。
だいわ文庫 荒木経惟『すべての女は美しい』121ページ

荒木経惟さんは日本が誇る世界のカメラマンである。1940年東京
都生まれである。私は荒木氏の写真が大好きである。残念ながら、
女房・子どもがいる家で購入できる写真集は少なくなってしまう
が、できるだけ見るようにしている。

あの独特な写真の肌触りはどこから来るのだろうか。ざらっとし
ていて、ぎらっとしていて、生々しい。真似る人はたくさんいる
が、やはり荒木さんのようにはいかないのだ。

荒木さんの写真は、非常に月並みな表現で恐縮だが、深い「慈し
み」を感じる。「素晴らしいよ」「キレイだよ」「愛しいよ」と
いうささやきが作品から聞こえるようだ。裸の女性でも、ネコで
も、街角でも、どんな被写体であっても、同じようにそう見える
のだ。

荒木経惟氏の写真といえば「ヘアヌード」の代表される女性の写
真が有名である。私は(変な話だが)荒木さんの写真の女性に本当
に惹かれたことがある。「惹かれた」というのはマイルドすぎる
表現だ。「惚れてしまった」というほうが正確だし正直だ。もう
フェロモンとか色気とかそんなものを超越した、ものすごい磁力
を感じるのだ。

オレにいわせれば、ぜんぶさらけ出すことは、ほんとうのヌード
じゃないんだよ。全部暴いてしまうと、相手の体がモノになっち
ゃうんだよ。(49ページ)


エロスには思想はいらないんだから、自分がどうすれば気持ちい
いかっていう生理に、素直にしたがえばいいんだよ。(50ページ)


温泉旅館で、目の不自由なマッサージのおばちゃんと話している
うちに、「生まれつき見えないっていうのは、どんな感じなの」
ってどうしても聞きたくなっちゃったんだよ。
そうしたら、「私はまだ諦めていませんよ」っていうんだよ。
「何が見たいの」って聞いたら、「花とか月」っていうんだよ。
それを聞いたときには、もう、枕が涙でグチャグチャになっちゃ
ったね。
オレが死ぬのは、そのおばちゃんに、「花と月」を見せてからか
な、と思うよね。だから、ひとりじゃないんだよ、人間ってね。
(121ページ)


こういう気持ちが子どものような心が美しい写真を生むのだな、
そう思った。心が美しくなければ、美しいものを美しいと感ずる
ことはできないのかもしれない。自分にそれができているのだろ
うか。私は猛省しなければならないと思う。

荒木経惟さんは最近体調をくずされていると聞く。早く元気にな
って、温泉旅館のおばさんに「花と月」という作品を見せてあげ
て欲しいと願う。できることならば、私もその作品を見せてもら
えたらいいなと思う。

すべての女は美しい―天才アラーキーの「いいオンナ」論/荒木 経惟

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