グレゴールは思った。やれやれおれはなんという辛気くさい商売を
選んでしまったんだろう。

新潮文庫 フランツ・カフカ「変身」6ページ

年がら年中、旅、旅だ。店勤めだっていろいろ面倒なことは
あるのだが、外交販売につきまとう苦労はまた格別なのだ。
(6ページ)


「ザムザ君」支配人は今や一段と声を高めた。
「どうしたというんだね。君は自分の部屋に閉じ籠もって、
返事をするかと思えばただイエス、ノーだ。ご両親には
無用重大なご心配をかける。そのうえーーこれはまあついでに
申し上げるんだがーー君の職務をじつに前代未聞のやり方に
おいて怠っておる。(19ページ)


名作は古くならない。そればかりか、その普遍性ゆえに時代が
変わっても常に新たな存在理由を獲得して輝きを放ち続けるのだ。

「変身」で示される不条理は、「あり得ないこと」ではない。
そもそも人生は不条理の固まりではないか。勤め人の世界では
「筋が通る」ことのほうがよっぽど奇跡的なのである。

カフカもザムザ家もユダヤ人である。保険販売員として勤め、
年がら年中出張している。カフカもそのような体験をしている。

安住できる土地もなく、まわりから疎まれ、流転する人生とは
どのようなものなのだろうか。
ライク・ア・ローリング・ストーン。

グレゴールは会社から解雇され、社会から絶縁され、
最後には家族からも見捨てられてしまう。

彼の境遇は現在の社会的弱者の姿であり、現在問題になっている
ニートや引きこもり、パラサイトシングル、ホームレス、
ネット難民は、変身して身体の自由を奪われた
グレゴールそのものである。

グレゴールは父親からりんごを投げつけられ重傷を負うが
これはDVや幼児虐待である。(グレゴールは幼児ではないが)

「放り出しちゃうのよ」と妹が言った。「それ以外に
どうしようもないわ、お父さん。これがお兄さんのグレゴールだ
なんていつまでも考えていらっしゃるからいけないのよ。
あたしたちがこういつまでもそんなふうに信じこんできたことが、
本当はあたしたちの不幸だったんだわ。
だっていったいどうしてこれがグレゴールだというの?」
(81ページ)


ラストシーンでこの妹の健全さが暗示されている。
しかしこの家族がこののち幸福になったか否かはわからない。

ただ、私はこの妹を非難することができない。彼女もまた弱者だからだ。
弱者が弱者を放逐する。これこそ普遍的なこの地球の悲劇なのである。

大津波警報が出ています。対象になっている世帯の方は、安全にご留意下さい

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