「良い城にはきっと隙がある。その隙に敵を集めて勝負をする。
守るだけでは城はもたん」

朝日ソノラマ 都築政昭「黒澤明と『七人の侍』」145ページ

もしあなたが外国人で、日本についてあまり知識がない
にもかかわらず、「サッカー日本代表監督になれ」と言われ、
受けたとする。そこで日本について、特に日本人の特徴に
ついて勉強しなければならないとしたらどうするだろうか。

私は多くの外国人が「七人の侍」を、日本人を理解するための
テキストとして使っているのではないかと思う。

まず、村を一望できる丘に立つ勘兵衛、地図を広げて
「おぬしならこの村をどう攻める?」と問う。
五郎兵衛が「まずこの山から逆落しじゃ」
「やはりこの道」と地図をなぞり、村の西に行く勘兵衛たち。
(144ページ)


映画「七人の侍」を見たとき、すぐにサッカーの戦術の
ことと結びついた。変わった見方なのかもしれないが
「この作戦は!」と思った。私が初めて「七人の侍」を
見たのは、2002年の日韓ワールドカップの後だった。

七人の侍のリーダー、勘兵衛は野武士40騎から農村を
守るために作戦を立てる。

1 敵の侵入経路を限定し、防衛ラインを小さくする
2 敵の侵入する数を限定して数的優位を保つ
3 敵の攻撃パターンを限定させ戦力をそこに集中する


3は冒頭の引用文、勘兵衛のセリフで示された戦術である。
相手が弱点だと思う「隙」をわざと作っておき、
敵にそこを攻めるように誘導する。
「隙」に戦力を集中して主戦場とし決戦に持ち込む。

この見事な戦略による勘兵衛の村の要塞化は、後に自衛隊
の幹部が訪れて「誰の指導を受けて戦略を考えたのか」と
黒澤に尋ねたという。
「誰にも相談していませんよといったら、『えっ!』て
いうわけ。あの勘兵衛のやり方はアメリカ軍の作戦要務令に
ぴったりなんだってね」(145~146ページ)


敵は騎馬武者で40騎、迎え撃つは馬もない侍七人と竹槍を
持った農民たち。戦力の優劣は明らかだ。
その状況を克服して勝つため勘兵衛の立てた戦略は
米軍公認とも言うべき理にかなったものであった。

2002年のワールドカップで初戦ベルギーと2-2で引き分けた
後の2戦目、ロシア戦でトルシエ監督は選手をひとりだけ
入れ替えた、右ウイングに攻撃能力が高い市川に代えて
守備能力が高い明神を入れた。

ロシアは右サイド(日本の左サイド)にカルピンと言う
優れたアタッカーがいた。左サイドを攻められる。
誰もがそこが主戦場だと思った。だから左サイドを
守備的にしてくると思った。

トルシエ監督は反対に右サイドの守りを固めたのだ。
これで日本の「隙」は限定された。

試合は最初から日本の左サイドで展開された。
日本は攻撃的能力が高い小野に守備をさせ、
しっかり守った。
そしてこの試合の唯一の得点は左サイドから生まれた。

トルシエのやったことはすべて黒澤監督が考え、
勘兵衛が取った戦術そのものだった。
この映画を見て、初めて明神を右サイドに入れた
意味がわかった。

フランス人監督のフィリップ・トルシエが「七人の侍」を
見ていたか否かのコメントがないのでわからない。
でも私は見たに違いないと思う。

本には関係ないがトルシエの発言と映画に関する記憶を一つ。

トルシエ監督はワールドカップ直前に「このあと世界と
戦うために何が必要か」という質問に対し、
「あとは組織を超えた個人能力だ」と答えた。

私は組織重視のトルシエの言葉としてのみこめなかったのだが、
七人の侍のラストシーンで、人質を取られ絶体絶命の村を
最終的には菊千代(三船敏郎役)の個人技と自己犠牲で救った
シーンを思い出した。

組織を超えた個人能力とはあの菊千代のラストシーンなのだ
と思って、感動した。

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