地球よ、永遠に 055 | 百夜百冊

百夜百冊

読んだ本についての。徒然。

「エイリーク、沈みます」
オペレータの声に、シュレーゲルは全天周スクリーンを見上げる。
連邦艦隊の手前に、星が生まれたかのような明るい輝きがあった。
ある意味エイリークの最後は、ロスヴァイゼより壮絶であったといえる。
艦隊の集中砲火を受けながら、最後まで逃げ回り反撃をしながらの撃沈であった。
派手好きのホフマン艦長らしいとも、シュレーゲルは思う。
その宇宙の海に生まれた輝きを、シュレーゲルは昏く眉を顰めながら見つめ、敬礼をおくった。
ティークが、呻き声をあげる。
「ホフマン君も、逝ったか」
うなだれ首をふるティークを無視して、シュレーゲルはオペレータに問いを投げる。
「連邦のミリタリーモジュールは、どうですか?」
オペレータは、コンソールを操作しウィンドウを立ち上げる。
そこには索敵ドローンによって把握された連邦のミリタリーモジュールが、映しだされていた。
幾編隊ものミリタリーモジュールがフォーメーションを組んで、星の海を渡っていく。
時折光学ジャミングが入り映像が揺らめき、消える。しかしこの宙域には無数のドローンとセンサーが配備されているため、すぐに映像は復活した。スクリーンに映し出されたミリタリーモジュールの装甲には、連邦軍の紋章であるアイリスの花が刻まれている。
ヴァーハナクラスは航行不能に陥っていたが、搭載したミリタリーモジュールの発艦には成功したようだ。
「敵ミリタリーモジュールは、全部で六十四機。全て対艦用のアタックユニットを、装備しています」
シュレーゲルは、頷く。
こちらのミリタリーモジュールは八十機、しかも対艦仕様ではなくマルチロールのアタック仕様だ。
連邦のミリタリーモジュールの方が性能は上かもしれないが、それなりに戦えるはず。
「こちらのミリタリーモジュールは、間に合いますか?」
シュレーゲルの問いに、オペレータが応える。
「我が艦隊のミリタリーモジュールが連邦側に接触するのは、三百秒後。テラ艦隊から、十五万メートルの地点です」
「それは厳しいね」
ティークが、苦しげな声を出す。
シュレーゲルの、瞳が曇った。思ったより、連邦のミリタリーモジュールに接近をゆるしてしまったようだ。その距離では、全てのミリタリーモジュールを止めることはできない。
おそらく、一編隊くらいはこちらの包囲をかいくぐれるだろう。
「ローゼンクロイツ司令には、覚悟してもらうしかないな」
ティークの言葉に、覚悟ならとっくにできてるはずだろうとシュレーゲルは思う。しかし、何も言葉を発することはなくミリタリーモジュールの状況を表示するウインドウを、見つめる。
連邦の編隊は、包囲されることを嫌い散開しはじめた。テラの編隊はそれを追尾するように、広がってゆく。
まず、相互に対スペースミサイルを撃ち合う。泡が沸き立つように幾つもの光の球が、ウインドウへ表示されはじめた。
時折光の花が咲くように、一際大きな閃光があがる。敵味方相互に、ミリタリーモジュールの損害がではじめていた。
オペレータが矢継ぎ早に双方の損害状況を、報告していく。キルレシオでは、あきらかにこちらが上だった。しかし、それだけではこの戦いに勝てない。
「まずいな」
ティークが、唸る。連邦軍の一編隊が、こちらの包囲をかいくぐってテラ艦隊へ向かっていた。
シュレーゲルが口を開こうとしたその瞬間、オペレータが叫ぶ。
「パルシファルより、入電!」
シュレーゲルは驚きで目を見開き、思わず呟く。
「なんだって?」
「パルシファルより、入電です」
オペレータは、律儀に繰り返した。
ティークは少し笑みを浮かべ、オペレータに指示を出す。
「読み上げてくれ」
オペレータは頷く。
「一言だけです、待たせたな、と」
苦笑をうかべたシュレーゲルが、オペレータに指示を出す。
「グリムゲルデへ、電文を送信。持ちこたえろ、もうすぐ聖なる愚者が降臨する」