このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で分かりやすくお伝えします。
<総務部長>
先日採用したアルバイトについて、社会保険の手続きをしたところ、もう一つのアルバイト先でも社会保険に加入していることが判明しました。正社員は副業を禁止しているのですが、パートタイマーやアルバイトは特に禁止していないため、弊社以外で働くことに問題はないのですが、社会保険はどのように対応したらよいのでしょうか。
<社労士>
なるほど、いわゆるかけもちバイトで、労働時間が長い方ということですね。この方のように同時に2か所以上で社会保険に加入する要件を満たしたときは、加入要件を満たしたすべての事業所で加入することになります。
<総務部長>
え!そうなのですか?健康保険証は2枚持つことになるのですか?
<社労士>
いいえ、健康保険証はあくまでも1枚です。実務的には加入要件を満たした複数の事業所の中から、アルバイト自身がいずれか1つの事業所を「主たる事業所」として選択します。健康保険証は、この「主たる事業所」のみで発行されます。
<総務部長>
なるほど。アルバイトに「主たる事業所」を選んでもらって、当社で手続きをするということですね。
<社労士>
届出はアルバイト自身で行います。会社が、資格取得届を提出した後に、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、主たる事業所を管轄する年金事務所に届け出ます。
<総務部長>
承知しました。本人に説明しておきます。社会保険料はどうなりますか。それぞれの会社で標準報酬月額が決定されるのでしょうか。
<社労士>
それぞれの事業所で支給される給与(報酬月額)を合算した月額で標準報酬月額が決定されます。この標準報酬月額に厚生年金保険料率および主たる事業所の健康保険料率を乗じて保険料総額を算出し、これをそれぞれの事業所で受ける報酬月額に基づき按分して、決まります。
<総務部長>
当社が支給する給与に基づく標準報酬月額で決まるわけではないのですね。
<社労士>
はい、その通りです。実際に各社で控除する社会保険料は、年金事務所で決定され、通知が届きますので、それに基づいて、控除することになります。なお、社会保険は2ケ所で加入することになりますが、雇用保険は2ケ所で加入できず、いずれか一方の主たる事業所のみで加入することになります。
<ONE POINT>
① 2ヶ所以上で社会保険の加入要件を満たしたときは、加入要件を満たした事業所すべてで社会保険に加入する。
②健康保険証は、被保険者自身が選択した主たる事業所のみで発行される。
③標準報酬月額は、加入した事業所ごとで決まる報酬月額を合算した額で決定される。
※協会けんぽに加入する事業所の、原則的な手続きの流れを記載しています。