(トラ:エキストラの略で臨時出演の意味)
プロデューサーのジジィが話しかけてきた。
「君が○○の代わり?しっかり練習してきたのか?」
『はい!頑張ります!』
「ホントかよ?大丈夫かよ〜!?お前みたいなガキが言うことは信じらんねーんだよなぁ!」
『…頑張ります。』
内心では…見とけこのクソジジィ!と思ってた。
仕事をくれた先輩ギタリストはジャズの人でそのイベントでは女性ボーカルとデュオで演奏する事になっていた。
そのイベントは出演者のほとんどがロック系のベテランアーティストで埋め尽くされていた。
要するにジャズをやるのは俺たち1組だけと言う事になるのでアウェイといえばそうだけど、逆に考えたら俺たちだけがジャズが演奏できる演者という事になる。
はっきり言ってさっさとやって、貰うものもらってさっさと帰りたかったし、帰り際にそのクソプロデューサーに毒吐いてやろうとすら思ってた。
イベントが始まりベテランアーティスト達が次々とステージで暴れてる。
流石はベテランだけあって演奏はそれはそれは素晴らしいもので、“このステージでジャズやるのか”と少しビビり始めてた。
いよいよ俺たちの出番…
その日の相方の女性ボーカルもかなりのベテラン歌手でビビった様子は少しもない。
“ちくしょう!俺だけかガキなのは”と若い事を恨んだ。
ステージに上がったら諦めがついたのか…なんか吹っ切れちゃって演奏は落ち着いて楽しくできた。
出番を終え精算を済ませて帰ろうと思ったその時、あのクソプロデューサーが声をかけてきた。
「尾田くん。」
内心では…もう一個腹立つ事言ったらキレると決めていた。
ちょっとキレ気味で『はい?』
「いやぁー!素晴らしかった!尾田くんがあんな演奏するなんて思わなかったよぉ〜!さすが○○のトラだよ!ありがとうねー!!!」と態度を180度変えてきた。
キレようと思ってた俺は気が抜けて…なぜか
『へぃ。』って言ってしまった。
これが大人の世界かぁ。と愕然としたっけ。
その後何度も飲み会だのたこ焼きパーティーだのお誘いの電話がかかってきたけどぜーんぶ断った。
その時から俺はバッサリ切るキャラがスタートしたのかもしれない。
昔話でした。
感謝