【今に繋がる日々…】
               その25話目です



年明けの外泊許可の4日間
無事過ごし、

また
主人の病院での生活が始まった




外泊許可の話が出る数週間前…

主人の身体は
  投薬に耐えうる体力もなく
  症状を緩和する状態を続けていた


「体力が上向きになったら
         また投薬治療を始めます」



それが
とても難しい状態である事は
医師達はもちろん、
イヤでも私にも 分かった…



いつも周りの事をよく見ていて、
人の気持ちの動きに敏感だった主人

自分自身の身体のコト…
体の中で起こっているコト…


誰よりも
主人自身が感じていたに違いない




ある日 主人から
行ってきて欲しい場所がある…と

  担当の先生達に相談して、
  話を進めているから
  俺の代わりに行って欲しい



そう言って伝えられた場所は

         「国立がんセンター」




入院している大学病院で
現時点での主人の体への治療は
止まったままの状態


今の状態で、他に
何らかの治療方法があるかも知れない

何かやれる事があるかも知れない



     その事を確認してきて欲しい…



それが主人の私への頼み事だった







それから数日後の晴れた日


これまでの検査結果や治療法、
       レントゲン写真等、
主人の病気に関する全ての事…

そして
  担当医からの紹介状を持ち、


 義母と2人で
  国立がんセンターへと向かった




     「しっかり聞いてきてね…
         よろしくお願いします」



病室のベッドの上に座っていた主人は
そう言って頭を下げ
                      私達を見送った





  

テレビの画面を通してみてきた

その建物を前に


     まさか自分が
     こういう形でここに来るなんて

         全く夢にも思わなかった


そんなコトを考えていた…




入り口を通過して
受付に向かいながらも

     現実としての実感がなかった




紹介状と
 持っていった書類達全てを出し、

受付を済ませ


       名前を呼ばれるまで


入り口から繋がる
                  広々としたロビーで

夢だか現実だか分からない状態の私は

行き交う人々を
              ただただ 見ていた…









どれくらい待っただろう…

名前を呼ばれ、

通された部屋には

  白衣を着て
   眼鏡をかけた男性が座っていた



どういう説明を受けたんだろう…


 とにかく
  今の段階では難しいということ
  なんの手段もないこと


        緩和ケアの話もされた…




ショックとかどうとかではなく、

ここまできて

私の中では
    やっぱり現実感がなく…



      頭が…
         心が…
           認めようとしない現実





主人になんて説明すればいいか、

その事に気持ちがいっぱいだった





ふと

話を一緒に聞いていた義母が
その医師に質問した



 「あとどれくらいなんですか…?」




 
   えっ?

  そういう話なの…




  そんな事聞くような…




 私は

 説明の内容よりも、



 義母のそのセリフで

 急に現実の世界へ叩きつけられた






そして

  その質問に答えた
           医師の言葉は…



       「   1ヶ月です・・・  」
 




心臓がバクバクした
訳が分からなくなりそうだった




 具体的な数字を
 このタイミングで聞かされるなんて



 

 その後どんな会話したかも

 ぼんやりとして覚えてない





医師が、

  今日説明してくれた内容

  主人の病気に対する現状


それらの事を
入院する病院宛に 書面に書くので

  ソレを持ち帰って
   病院に渡す・・・という事だった

         




それが出来るまで

部屋の前のソファで待った





義母と並んで座り

しばらくお互い無言のまま…




      「1ヶ月なんて・・・」

ふいに 義母がつぶやいた


   この頃
   義母達と生活するようになって
            1ヶ月ちょっと・・・





目に涙を浮かべながら、

私の手を握り

      「 一緒だからね…」
 
     「ずっと一緒にいるからね」

そう言って

        私の手を握り続けた…





私は涙が出てこなかった



実際に聞いた
         「1ヶ月」
という言葉はショックだったけれど、



義母の涙を見て




涙を流したら

その事を認めてしまったような


実際にそうなってしまうんじゃないか


そんな気持ちが湧いてきて




一滴も涙が出てこなかった…





そして

義母に言われた

          「一緒だからね」

           という言葉を聞いて、





そりゃ私達は一緒に住んでるけど…



じゃ、

主人はひとりぼっちになっちゃう…


あの人はどうなるの?


あの人はどこ行くの?






なんだか

現実を受け入れてない頭の中で

訳の分からない思考になって



その時
やたらと


    主人がひとりぼっちになっちゃう


という思いが
私の頭を駆け巡っていた…








 入院当初 
           担当医から

「いつ何が起こってもおかしくない」

と言われてた時に


主人に話したのと同じように、


また

        主人にウソをついた・・・





結果を待つ主人には



「治療をする体力がまだないから、
   もう少し体力ついたら
   それができるようになるんだって」





  静かに聞いていた主人は


     「そっか…ありがとう」



            それだけ言って笑った






        「 あと 1ヶ月・・・」



国立がんセンターで聞いた言葉

それは
12月中旬を過ぎた頃の事だった…