●僕は死なない。

 

 

これはアメリカの一匹のワンちゃんのお話です。

 

 

ブレンダという高校生の女の子が、

 

両親に、1つのお願い事をしました。

 

 

 

 

それは、

 

中学卒業のお祝いに何が欲しいかと尋ねられた時、

 

私、ワンちゃんが欲しい。」と両親にお願いしたのです。

 

 

アメリカでは日本の様なペットショップはありません。

 

ブリーダーから直接買うか、保護犬から選ぶかです。

 

 

 

しかし、彼女は第三の方法を考えていました。

 

それは、

 

 

 

 

彼女のお祖母ちゃん家がある町に、犬猫の殺処分場があったので、

 

そこに居る子の中から引き取りたいと思っていたのです。

 

なぜなら、保護犬は、一応助かっている状態ですから、

 

きっと誰か新しい飼い主が見つかるでしょう。

 

でも、殺処分場にいる子は・・・・・・

 

 

 

 

 

両親の許可が下りると、彼女はすぐに殺処分場に出かけました。

 

 

殺処分場はかなり街から離れた所にありました。

 

日本では殺処分する時は、ガスや薬による安楽死かと思いますが、

 

当時のアメリカのこの施設では、で犬猫を撃ち殺していました。

(現在は分からない)

 

 

処分場に入ると、

そこには20匹位の犬が殺処分の順番待ちとなって保護されていました。

 

どの子も可愛く、助けたいと思いましたが、

 

両親から許されていたのは、一匹だけでした。

 

ブレンダは、そこに20分位居ましたが、どうしても一匹を選べませんでした。

 

そこでその日は、候補の8匹のワンちゃん達の写真を撮るだけで、

 

お祖母ちゃん家に泊まりした。

 

 

その夜は、撮って来たワンちゃん達の写真を見ながら、

 

ずっと8匹の内、どの子を引き取ろうとかと考え余り眠れませんでした。

 

そして翌朝、一匹の元気な白い犬に決めました。

 

 

朝食を済ませると、再び処分場に向かいました。

 

係りの人から、「どの犬にしますか?」と聞かれた時でした。

 

 

白い犬に決めていたので、「白い犬!」と言えばいいだけの事でした。

 

しかし、彼女は気になる事があったのです。

 

 

それは、

 

どのワンちゃんも、彼女に愛想が良かったり、

「ク~ン」と吠えたり、歩いていたりしていのに、

 

 

一匹のワンちゃんだけ、ずっと床に倒れて、ただ彼女の方を見つめているだけで、

 

まるで、その子だけは、

 

どうせ、僕なんか選ばないんだろ。

と無関心の様子だったのです。

 

それは、前日も同じ格好でした。柵の一番近い所に横たわり、

 

私が近づいても、立つ事も、吠える事も、甘える事もなく、

 

 

ただただ私をじっと見ているだけ。

 

 

 

ブレンダが係りの人に、「あの黒い犬は?」と聞くと、

 

係りの人は、「ああ、あの黒い犬は止めた方がいいですよ。」という。

 

「えっ、なんで?」と聞くと、係りの人が、

 

 

 

 

 

前足が片方折れてんですよ。

 

しかも、今日この後処分する事になっていると言う。

 

 

 

 

 

係りの人いわく、

 

あの黒い犬は、山で保護されてからずっとあんな感じなのだという。

 

他の子がピストルで殺される音がすると、

 

他の犬はびっくりしたり、吠えたり、走り回ったりするのに、

 

あの黒い犬だけはビクともしないで、瞬き一つしないという。

 

係りの人が思うには、

 

狩猟出来る山で保護されたし、ピストルの音を怖がらない事から、

 

多分、あの黒い犬は狩猟犬だったんじゃないかな。

 

狩猟犬とは、鹿などを追い込んだり、

 

ハンターが撃ち落とした鳥を探して持ってきたりする犬の事です。

 

 

 

 

ハンターの中には、動きの鈍くなった犬や、新しく買った犬がいると、

 

いらなくなった犬は、山に捨てて来るのだと言う。

 

 

 

すると、捨てられた犬は、一生懸命ご主人の車を追いかけて来るので、

 

 

 

 

ハンター達は、犬の足を折ってから、山に捨てて来るのだと言う。

 

多分、あの黒い犬はハンターに山に捨てられたんだろう。という事だった。

 

 

 

 

 

ブレンダは、その話を聞くと、

 

ふざけんな!と、

思わず怒り声をあげてしまいました。

 

そして係りの人に、白い犬ではなく、

 

「あの黒い犬をお願いします。」と言っていました。

 

白い犬は元気だし、きっと

 

後から来た動物愛護の人達か誰かに選ばれるかもしれない。

 

でも、あの前足が折れた黒い犬は、この瞬間がラストチャンス

 

 

私が、・・

 

私が殺させない!

 

このまま死んだら、可哀想すぎるだろ。

 

 

 

 

 

勢いで黒い犬を引き取ったものの、

 

その後が大変でした。

 

 

 

一応医者に連れて行くと、診査の結果、

 

壊死するので、折れている前足は付け根から切断した方が良いというのだ。

 

結局彼女の貯金を全部はたく事になってしまいました。

 

 

 

しかし、その後は、黒い犬はとても優秀な事が分かりました。

 

3本足でも素早く走る事が出来、教えなくてもお手も待ても出来ました。

 

また、まるでブレンダの言う事が分かるかのように、散歩に行こうと言うと、

 

言わなくてもリードを咥えて持ってきて来る良い子だったのです。

 

「お前、優秀な子だね。」

 

彼女は黒い犬に、Great(偉大な)という意味で、グレイと名づけました。

 

3本足で散歩もしました。

 

 

3本足は恥ずかしいどころか、みんなの関心を呼び、

 

沢山の犬友が出来きました。

 

「グレイのお蔭で、沢山の友達が出来たよ。ありがとね。」

 

 

 

 

 

ある日の散歩道、

 

献血の車が来ていたので、ブレンダはグレイを車の近くに繋ぐと、

 

「ちょっと待ってて、献血してくるから。」と言って献血しました。

 

 

すると、男性看護師の方が、ブレンダに、

 

「君の犬?」

 

「はい。」

 

 

「随分、筋肉質で丈夫そうな犬だね。」

 

 

そう言うと彼は、名刺を彼女に渡し、

 

犬の献血もやっているので、もし良かったらお願いします。と言われたのです。

 

 

「へぇー、犬にも献血ってあるんだ。」

 

 

「グレイ、どうする? 献血やってみる?

 

 他のワンコを助けられるかもしれないんだよ。」

 

 

すると、グレイは賛同したかの様に、「ワオーン」と吠えたという。

 

 

人間の血液型は、皆さんも知っている通りA型B型O型AB型の4種類ですが、

 

犬の場合、DEA式で10種類あります。

 

だから、まずは検査して登録してから年2回位の献血が行われます。

 

ただ、どの犬でも献血出来る訳では無く、いくつか条件があり、

 

1歳以上7歳以下とか。体重が15キロ以上とか、

 

毎年予防接種をしているとか、注射を怖がらないなどの犬が献血出来ます。

 

グレイはピストルの音にも動じない勇敢な犬だったので、

 

注射もへっちゃらでした。

 

そんなある日の事でした。

 

突然家に電話がかかってきました。

 

出ると、それは市内の動物病院からでした。

 

急な話で悪いんだが、グレイ君の献血をお願い出来ないだろうか」というのです。

 

「どうする?グレイ。

 

 助けてあげるよね。」

 

すると、グレイは賛同したかの様に、「ワオーン」と吠えたという。

 

病院に駆けつけると、すぐにグレイの採血が始まりました。

 

 

 

そして、献血が終わると、看護師の方からグレイに、

 

ケーキのご褒美がふるまわれました。

 

 

 

 

ところが、病院から出る時です。

 

 

 

 

 

 

急に後ろから一人のお婆さんが、走しり寄って来て、

 

泣きながらグレイの事を抱きしめたのです。

 

「ありがとう。

 ありがとう。」って号泣していました。

 

きっと、彼女の犬がグレイの献血で助かったのでしょう。

 

お婆さんは「ありがとう。」

 

何回も何回もグレイに感謝して手を振っていました。

 

 

「良かったね。グレイ、お前が助けたんだよ。」

 

 

「ワオーン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3年が経った時です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレイの具合が悪くなり、病院に連れて行くと、

 

もうガンが全身に回っていて手遅れだといいます。

 

医者からは2週間は持たないだろうと言われ、

 

安楽死にしますか?と聞かれた。

 

それを聞いたブレンダのお母さんは、

 

娘の犬なので、それは私には判断出来ません。」

 

と言って、グレイを家に連れて帰って来ました。

 

 

 

 

 

 

 

医者が言う様に、グレイは2週間を過ぎると、

 

何も口に出来なくなり、何とか水を飲める程度になり、

 

もういつ亡くなってもおかしく無い状態になりました。

 

ところが、それから何も食べないのに、3日経っても生きていました。

 

1週間経っても生きていました。

 

10日経った時、さすが可哀そうになり、安楽死も考えたそうですが、

 

やはり娘の犬なので、勝手には決められないと思い、

 

その代わり、アニマルコミュニケーターでもある霊能者の所に相談が来たのです。

 

グレイは何か言いたい事があるんじゃないか? 

 

何か思い残した事があるんじゃないか?

 

そんな相談でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっそく、グレイの霊視が始まりました。

 

 

 

 

 

すると、霊能者の方が、意外な事を言ったのです。

 

 

 

 

「グレイちゃんですが、

 

 何回も、僕は死なない。と自分に言い聞かせてるんですよね。」

 

 

「えっ、僕は死なない。ですか?」

 

 

「はい。

 

 誰か、このグレイちゃんと約束とかしてませんか?」

 

 

 

すると、その約束という言葉を聞いて、お母さんが泣き出したのです。

 

 

 

 

 

訳を聞くと、

 

 

今から3年前、ブレンダは大学進学の為、

 

グレイと離れ離れになって、大学の寮に行ったのでした。

 

その時、ブレンダはグレイを抱きしめて、こう言ったと言います。

 

「私が戻って来るまで、

 

 元気で待ってね。グレイ。

 約束だよ。

 

 

しかし、2年前、

 

ブレンダさんは、交通事故で亡くなったのでした。

 

 

霊能者いわく、

 

それを知らないグレイは、ただ約束を守る為、

 

ブレンダさんとの

約束を守る為に、

 

ブレンダさんが帰って来るまで、絶対死なないで待っているんですよ。

 

ただそれだけの気力だけで生きている。

 

 

 

お母さんが、グレイに、

 

お前は、ブレンダを待っててくれているのね。

 

 ありがとね。

 

 本当にありがとうね。

 

 でもね。

 

 ブレンダは天国に行ってしまったのよ。

 

 だから、もう帰って来ないのよ。」

 

 

それを聞くと、

 

グレイは分かったのか。

 

翌日、静かに目をつぶり、天国に旅立っていった。

 

 

END