●婚約者を襲う重度の冷え性。
アメリカの霊能者の所に、
二人の男女が相談に来た事があります。
一人は立派なスーツを身にまとった背の高い男性。
そしてその脇には、はた目にもすぐ分かる様な厚着の女性。
シアトルの春は、日本よりも遅いとは言っても、
もう4月の中旬なので、春にしては、大げさな厚着と感じられました。
しかも、そんな厚着をしているのに、
彼女は少し震えているのです。
二人は居間に通され、
男性が女性を気遣う様にして座らせると、自己紹介を始めました。
「私はIsaac(アイザック)と申します。
そして、彼女は婚約者のステファニー。」
ふたりは同じ会社に勤める上司と部下で、
Isaac(アイザック)が45歳。
ステファニーが29歳という歳の差カップルでした。
去年のクリスマスに、彼がステファニーにプロポーズ。
しかし、年が明けた1月の中旬頃から、
ステファニーの体に異変が起こり始めたといいます。
まずは手足の先が異常に冷たくなったのです。
冷え性です。
通常、冷え性と言えば、手の先や足の先が寒くなるのですが、
彼女の場合、やがて全身が寒くなっていったといいます。
それまでは多少の冷え性になった事はあったのですが、
これほどの酷い冷え性になった事はありません。
布団に入って寝る時にも寒さは襲って来るので、
厚手のコートを着ながら、足には湯たんぽ。部屋は暖房をつけっぱなしという状態です。
医者に行くと、漢方薬を処方され、
普段はシャワーで済まさず、湯船につかって体を温めるようにアドバイスされたそうです。
(向こうでは、冬でもシャワーだけで済ます人は多い)
しかし、冷え性の症状は悪化するばかりで、
やがて、水を触るだけでも「ヒェー」と声をあげてしまう程冷たく感じるようになり、
食事を作るのにも支障をきたす様になってしまったのです。
食べる物も、温かい物だけしか口に出来なくなるありさまです。
他の病院にも行ったのですが、
冷え性以外の対応はしてもらえず、医者にも原因が分からないと言われたそうです。
それまでは、なんとか有休を使って休みをとっていましたが、
先月とうとう会社を辞めざる負えませんでした。
春の声を聞いても、冷え性の症状は治まらず、
さすがに、これはおかしい。と感じた彼は、
藁をもつかむ思いで、霊能者の門を叩いたと言います。
さっそく霊視が始まりました。
ところが、この日の霊能者の方は、いつもとちょっと違います。
普段なら、異常が起きている女性の方を霊視するのが普通なのですが、
この時は、関係ない男性・アイザックの方ばかり診ているのです。
やがて、霊能者の方は、言葉を選ぶようにして口を開きました。
それも、アイザックに対して。
「あなた、
去年、離婚してるでしょ?」
「はい。」
「その時、
不倫が奥さんにばれて、逆切れして、
暴力を振るって、半ば強制的に別れているわね。」
「あ、はい」
アイザックとステファニーは、職場不倫の関係だったのでした。
それが妻にばれると、謝るどころか暴力を振るう様になり、
やがて強制的に離婚し、その年のクリスマスにステファニーにプロポーズしたのです。
彼女は彼からは円満離婚だと聞いていた様ですが、
それでも不倫していたという自覚はありました。
霊能者の方は、次にステファニーに話かけました。
「あなた、
1月の中旬頃から冷え性が酷くなったって言ったでしょ?」
「はい。」
「はっきり言ってしまうとね。
その頃ね。
彼の前の奥さん、
冷たい海に飛び込んで自殺しているの。」
それを聞いた彼女は、頭を伏せ震え始めました。
彼も事故死だと思っていたようで、それを聞いて声を失っていました。
中立的立場の私からみると、一番悪いのはアイザックなのに、
なんでステファニーが、と思ってしまうのですが、
霊能者いわく、こういう事はよくある事で、
霊障が家族の中で一番体力が弱い人に行く事があったり、
霊障が霊と似た性格の人にだけ及ぶという事もあるそうです。
今回の場合も、一番悪いのはアイザックですが、
亡くなった奥さんがどうとらえたかによって違うそうで、
夫の気が変わったのは、不倫相手のせいで、
一番悪いのは、不倫相手だと思ったのかもしれませんし、
霊障が体格の良い夫には通用せず、
夫より体格の弱いステファニーに向いたという可能性もあるとの事でした。
最後に、
彼は恐る恐る霊能者の方に聞きました。
「私達、
結婚しても大丈夫ですか?」
すると、霊能者の方は、
「大丈夫ですよ。
ただし、
1つ条件があります。」
「結婚後も、
家のどこかに前の奥さんの写真を飾り、
その前に、毎日温かい飲み物を供えて、
二人で謝ってあげてください。
そして、1ヶ月に一回は、二人で墓参りしてあげる事。」
(日本であれば、毎日お線香を1本焚き、熱いお茶を供える)
ふたりは必ずそうします。と言って帰っていった。
その後、段々と冷え性の症状は弱まっていったというが、
結局ふたりは結婚せず、別れたという。
END