●行旅死亡人。



皆さんは、

行旅死亡人(こうりょ、しぼうにん)  という言葉をご存知でしょうか?






行旅死亡人(こうりょ、しぼうにん)とは、



死体が発見されたが、

その死体の名前も住所も分からず、

かつ、その遺体の引き取り手が名乗り出ない死者の事を言う。



昔、法律が出来た頃、一人旅や一人で山登りしていた人が、

そのまま行き倒れになり亡くなったり、落石や落下して亡くなりしたが、

名前を特定する物も持っておらず、

結局、引き取る人がいないままになる事が多かった。

それで、「行旅」死亡人という名前になっている。








今から約3年前の、2017年11月、

そんな行旅死亡人という言葉が、世に知られる事件があった。





私が特に、この事件の事が今でも印象に残っているのは、

その事件の約1年前に、こんな電話相談を受けていたからである。

それはある奥さんからの相談だった。

相談内容はご主人の浮気についてだったのだが、

時間が余ったので、娘さんのある言動についても相談された。

その相談は、概ねこんな内容だった。




「今年の夏、

 親子で鹿児島に旅行に行った時の事です。

 鹿児島市にあるビジネスホテルTに泊まりました。

 すると夜中の2時頃、娘が私を起こすのです。

 聞くと、沢山の赤ちゃんの鳴き声がする。と言うのです。

 でも、私が耳をすましても、何も聞こえません。

 きっと嫌な夢でも見たのだろうと思い、娘を寝かしつけました。

 しかし、翌日も同じ様な時刻の頃に、娘が私を起こし、

 昨日と同じ様に、沢山の赤ちゃんの泣き声がする。と言うのです。

 やはり私には何も聞こえなかったのですが、鳥肌が立ちました。

 そんな声を聞いてしまった娘に、何か悪い事は起きないでしょうか?」


そんな様な相談だった。







この時はまだ、本当の事件の真相は明るみになっていなかったので、

私もうまい説明は出来なかった。

確かこんな事を言ったと思う。

「鹿児島から帰られてから、何か娘さんに変わった所はありますか?」

「特にないです。」

「感受性の強い小さいお子さんが、霊の声を聞いてしまう事はよくある事です。

 声も泣き声とか、叫び声などなら、そう心配は無いと思います。

 こっちへおいで。とか、遊ぼう。とか、許さない。など娘さん個人に向けた言葉では無いので、

 2ヶ月経った今現在、何も無いのであれば、忘れる事です。」





それから約1年が経った2017年11月、

あの事件が明るみになったのである。





その後のテレビ報道によると、

建物の解体を依頼された業者が、


解体中に、瓶の中にホルマリン漬けにされた胎児の遺体15体を見つけ警察に通報したのだ。

警察が調べると、見つかった15体は妊娠12週から31週までの胎児で、

そこは、鹿児島市松原町で20年前に廃業した「鳥丸産婦人科」だと言う。

 

日本の法律では、

中絶の手術は、妊娠21週6日までと決まっていて、

妊娠22週以降に中絶すると、妊婦は堕胎罪で逮捕される。

ちなみに、堕胎罪では、妊婦は1年以下の懲役に処される。(刑法212条)

警察によると、妊娠22週以降の遺体もあった為、

中絶した医師や助産師にも業務上堕胎罪が適用されるとして、

「鳥丸産婦人科」の元院長を探したのだが、

すでに死んでいた。

こうして、見つかった胎児についての詳しい経緯や身元は判明せず、

15体の遺体は鹿児島市に「行旅死亡人」として引き渡され、市営墓地に納骨された。





私はこの事件を知った時、

もしかしたらと気になって、「鳥丸産婦人科」の場所を調べてから、

 

あの奥さんと娘さんが泊まったというビジネスホテルTの場所も調べてみた。

すると、意外と近い場所にあったのである。





勿論それだけでは、断定は出来ないが、

あの時、娘さんは、

中絶され、埋葬されずに廃墟の中にほったらかしにされた

名も無き胎児たちの泣き声を聞いたのかもしれない。


END