●猫のナナ。

 

 


このお話は、ある方の電話相談の時にあがったペットの出来事です。

 

 

電話相談で30分いくらという設定の場合、

 

 

時間が余って、聞くことが無くなると、ペットの気になる事などを聞いて来る事は、

 

 

よくある事です。

 

 

この時も、彼女は娘さんの悩みを相談された後、

 

 

聞くことが無くなったのか、ペットの話をし始めました。

 

 

 

 

 

 

 

事の始まりは、今から約11年前の事。

 

 

 

 

彼女が夕飯の支度をしていると、外は雨が降ってきたといいます。

 

 

そうなると、傘を持たずに遊びに行った娘が心配になりました。

 

 

作りかけの鍋の火を止めて、娘がいつも友達と遊んでいる公園に行こうと、

 

 

傘を2つ持って、彼女が玄関で靴を履こうと思った時でした。

 

 

 

 


玄関のドアを開けると、通りの向こうから、

 

 

娘が早歩きでこっちに歩いて来る姿が見えます。

 

 

 


ところが、娘は見慣れない大きな段ボール箱を両手で抱えているのです。

 

 

 

近くまで来ると、その中身が分かりました。

 

 

それは、小さな黒っぽい小猫でした。

 

 

 


娘いわく、3日前から公園に捨ててあったそうです。

 

 

最初見た時は、段ボール箱には3匹居たそうですが、

 

 

2匹は他の子が引き取ったそうですが、

 

 

色が黒っぽい1色だけで、余り綺麗じゃないこの子だけが残ったそうです。

 

 

でも、帰り際に雨が降って来て、

 

 

このままじゃ死んじゃう。と思った娘さんが、持って来てきてしまったのでした。

 

 

 


お母さんは、その時、

 

 

娘さんの事を内心「優しいのね。」と思ったそうですが、

 

 

残念ながら、飼う事は出来ないと思いました。

 

 

なぜなら、お母さん自体はペットは好きなのですが、

 

 

以前、ご主人に娘が犬を飼いたいとお願いした時に、激しく反対していたからです。

 

 

「ごめんね。うちでは飼えないのよ。

 

 一緒に公園に返しに行きましょう。」

 


すると、娘さんは、

 

 

死んじゃう。死んじゃう。」と言って泣きだしたそうです。

 

 


お母さんは仕方なく、雨が止むまでという条件で玄関に入れてあげました。

 

 

 

 

ところが、雨は止まず、

 

 

とうとうご主人が帰宅する時間になっても降り続けたのでした。

 

 

 

そして、ご主人が帰宅。

 

 

 

すると、滅多に玄関まで行って出迎えた事の無い娘が、

 

 

夫を玄関で出迎えて、

 

 

「お帰りなさ~い。お父さん。

 

 一生のお願い。この猫可哀想なの。飼っていいでしょ。」とお願いしたのです。

 

 


例え、娘の上目遣いのお願いでも、きっとまた激しく怒られるだろうと思っていました。

 

 

ところが、ところが、

 

 

夫は、「母さんに聞きなさい。」と、なんと、私に丸投げしたのです。

 

 

「えっ??

 

 なに、なに、私が飼っていいって言ったら、いいのぉ?」と夫に聞くと、

 

 


ああ」という、まさかの曖昧なYES返事。

 

 


後で分かったのですが、夫の実家では以前、猫を飼っていた事があったそうです。

 

 


なんだ、猫なら良かったのか。と、ちょっと拍子抜けでしたが、

 

 

どうせなら、娘の教育の為にも世話は責任を持ってやれるならという事で、娘に、

 

 

ちゃんと毎日世話できるの?」と聞くと。

 

 

「出来る。」と娘。

 

 

「トイレの掃除も、水もあげられるの?」

 

 

「大丈夫。やれる。」

 

 

そこで、私は、

 

 

もし、世話が出来なくなったら、

 

 もううちでは飼わないわよ。いいのね。」と念を押すと、

 

 

娘は猫を抱きながら、「絶対出来る。約束する。」と約束しました。

 

 

 

 


翌日、夫の動物病院で検査する様にと言ったので、連れて行き、

 

 

その時に小猫用のミルクを購入して、本格的に家で飼い始めたのでした。

 

 

猫が家に来た時、娘が七歳だったのもあり、女の子だとも分かったので、

 

 

名前を「ナナ」にしました。

 


最初の内は、娘さんが部屋に連れて行き、一緒の部屋で寝起きするという生活で、

 

 

娘さんのみが猫にべったりだったそうですが、

 

 

段々と時間が経つにつれ、娘さんが学校に行っている間は猫はお母さんと一緒。

 

 

猫と一緒にいる時間は娘さんよりもお母さんの方が長くなりました。

 

 

昼間、猫と二人っきりになると、猫はお母さんの所にもやってくる様になりました。

 

 

洗濯物を畳んでいると、猫が来て邪魔をしたり、

 

 

食事を作っている様子をじっと見に来たり。

 

 

その内、お母さんも猫ちゃんの事が大好きになっていったといいます。

 

 

ネットで勉強して猫用の食事を工夫してみたり、

 

 

テレビを見ながら、猫じゃらしで遊んであげたりしました。

 

 

娘が勉強が忙しい時や外泊する時は、

 

 

猫はお母さんと寝る様になったといいます。

 

 

そんなナナとの幸せな時間が過ぎていきました。

 

 

 

 

 

 

やがて、娘さんが高校を卒業して、離れた大学に通う為に、

 

 

都内のマンションを探す事になったそうです。

 

 

こうして、娘は一人暮らしを始める為に家から出て行ったのでした。

 

 

ナナの事、お願いね。」という言葉を残して。

 

 

ナナは娘の事を、じっと見ながら見送っていたといいます。

 

 

 

 

 


ところが、それから1週間後の事でした。

 

 

 

 

 

彼女が家で洗濯物を干している時です。

 

 

今まで一度もベランダに出て来た事が無いナナが、珍しくベランダに来たのです。

 

 

彼女は、珍しく日光浴かな。と思い、1階に戻って昼食を作ったそうです。

 

 

 


しかし、それがナナを見た最後だったのです。

 

 

 

ナナは2階からどうやら庭の木に飛び移って、外に行ってしまった様でした。

 

 

それからは、近くを探したそうですが、見つからなかったそうです。

 

 

 


私が電話相談を受けた時は、

 

 

既にナナがいなくなってから4ヵ月が過ぎていました。

 

 

 

 


彼女は、「ナナは娘を追って行ったのでしょうか?」と聞いてきました。

 

 

確かに、タイミング的にはそうかもしれません。

 

 


そこは否定も肯定も出来ないのですが、

 

 

私は彼女の話をずっと聞いていて、1つだけ気になった事があったのです。

 

 

でも、それは彼女にショックな事かもしれないのでなので躊躇(ちゅうちょ)しました。

 

 

「1つだけちょっと気になった事があるのですが、

 

 それは少し貴方にとってもショックな事かもしれません。」と言うと、

 

 

彼女は、それでもいいから聞かせて下さい。と言います。

 

 

 


そこで、こんな不思議な話をしました。

 

 

 

「信じられないかもしれませんが、

 

 猫は最初の約束を守るという事があるんですよ。」

 

 


最初の約束ですか?」

 

 

 

 


当然ですが、彼女はすっかり忘れていました。

 

 

 

 


「そうです。最初の約束です。

 

 貴方、ナナちゃんを飼うと決めた日、こう言いませんでしたか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 「もし(娘が)世話が出来なくなったら、

 

  もううちでは飼わないわよ。いいのね。」

 

 

 

 

もしかしたら、ナナちゃんは、貴方のとの約束を守ったのですよ。

 

 

 

 

 


よく諺(ことわざ)で、

 

 

「犬は三日飼えば三年恩を忘れず。

 

 猫は三年の恩を三日で忘れる。」

 

 

なんて事も言われますが、

 

 

それは猫の外見や態度、行動などから表現したに過ぎないものでしょう。

 

 


実際は、猫の記憶力はとても優れています。

 

 

人間は3歳より前の事は、覚えていない人が多いですが、

 

 

猫は生後2週間の出来事を記憶していたりします。

 

 


受けた恩を一生忘れない猫も多いのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「お約束通り、お姉ちゃんと出ていきます。

 

 今まで、どうもありがとう。

 

 

 


 ナナは、幸せでした。

 

  ママの事、大好きだったよ。

 

 

 さよなら。」

 


END