●死神くん

 

 

世の中には、

 

 

霊能者でなくても、特殊能力を持った人がたまにいる。

 

 

某日本の鉄道会社に勤めている氷川正さんは、そんな特殊能力を持っている一人だった。

 

 

しかし、その特殊能力は、世の中に役に立っているのだが、

 

 

ちょっと不気味な力なのだと言う。

 

 

 

 

 

 

今年の夏、7月28日の夜、

 

 

札幌市中央区のJR函館の苗穂駅で、男女2人が、

 

 

旭川行きの特急カムイ47号に飛び込み自殺した。

 

 

20代の男女とみられており、男性は元ホストで緑色の髪の毛姿だったという。

 

 

この事件、女性の方が地下アイドルだった事から、SNSではちょっと話題になっていました。

 

 

 


そんな悲惨な事件がある一方、

 

 

今年公開された動画で、勇気ある女性が電車に飛び込み自殺しようとしている男性サラリーマンを、

 

 

間一髪で助けるという奇跡的瞬間もありました。

 

 

 

 

 

 

鉄道会社の職員は、こうした事件が起きない様に、常日頃気をつけているのだが、

 

 

無事に防げる事は希だそうで、ほとんどが自殺を未然に防ぐ事が出来ない。

 

 

極たまに、自殺しそうな人を未然に助けたという職員が出るが、そういう人でも、

 

 

勤続40年間で1回か2回、多くて3回だと言う。

 

 

そういう現場に出会うというのも希だし、ましてやその自殺者を助けるとなると奇跡と言えるのである。

 


ところが、今日お話しする某鉄道会社に勤めている氷川正さんは、(実在の方です)

 

 

僅か6年間の間に、21人の自殺しそうな人々を助けているのである。

 

 


彼の同僚達は、自殺者を何度も助ける彼の事を、気味悪いのもあり、

 

 

「死神くん」と呼んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある時、氷川さんは、各駅停車の電車の運行業務をしていた。

 

 

そして、K駅に到着した時だったと言う。

 

 

電車が駅に到着して、しばらくしてから彼が発車のベルを鳴らそうと、

 

 

K駅のホームに降り立った時だった。

 

 

すぐ目の前に一人の女性が立っている。

 

 

白いノースリーブのワンピース姿。

 

 

普通の人が見たら、そう見えるだろう。

 

 

 

 

しかし、氷川さんの目には、こう映ったと言う。

 

 

 

女性の白いワンピースの周りにユラユラと黒い霧らしきものが立ち上っている。

 

 

霧はかなり濃く、彼女の姿は完全に黒い霧に包まれている。

 

 


そう、彼の特殊能力とは、

 

 

これから自殺しようとしている人の周りに黒い霧や黒いモヤが見えるというのである。

 

 

 

 

しかも、その白いワンピースの女性は、この電車に乗って来ない!

 

 

彼は直ぐにピン!と来たという。

 

 

この女性は自殺する!

 

 

 

 


なぜなら、このK駅には各駅停車しか止まらないのだ。

 

 

つまり、この電車に乗って来ないという事は、

 

 

次に来るこのK駅を通過する特急電車を待っているのだ!

 

 

 


しかし、彼はあえて彼女には何も声をかけずに、発車ベルを鳴らすと電車に乗り込んだ。

 

 

業務中だったので、彼女を説得する時間が無かったというのもあったが、

 

 

ただホームに立っている彼女に声をかけても、「違うと言われればそれまでである。

 

 

自殺を考えている人を、事前に救うのはそれほど大変なのである。

 

 

 

氷川さんは、電車が動き出すと、すぐに無線で指令所へ連絡を入れた。

 

 

その後、K駅で人が線路に立ち入って女性がいたが、無事だったという一報が入った。

 

 

事前に連絡を受けた急行電車が徐行してK駅に入って来た為、女性の自殺は未遂に終わったのである。

 

 

一人の女性の命を救った氷川さんは、人身事故未然防止で表彰を受けた。

 

 

 

 

 

氷川さんいわく、黒い霧の正体は分からない。

 

 

でも、黒い霧はその日の体調によって、見えたり見えなかったりするのだと言う。

 

 

黒い霧が1日に何度も見える時もあれば、1週間以上まったく見えない時もあるそうだ。

 

 

ただ、黒い霧が濃ければ濃いほど、その人は思い詰めている様に感じるという。

 

 

 

 

 

そんな特殊能力を持つ氷川さんにも、苦い体験があったという。

 

 

 

 

 

 

それは数年前の元旦の朝の事だった。

 

 

昨日の大晦日からの業務を終えて、家に帰ろうとK駅の駅務室に向っていた。

 

 

すると、下りホームのベンチに寂しそうに一人のお婆さんが座っている。

 

 

お婆さんは、すごく疲れている感じで、物思いにふけっている様子だった。

 

 

正月早々、どうしたのかな?」と思いつつ、

 

 

そのお婆さんの側を通り過ぎようとした瞬間だった。

 

 

お婆さんの体から、あの黒い霧が噴き出し始めたのである。

 

 

黒い霧はみるみるうちに、お婆さんの体を包み込んでいった。

 

 

「カンカンカン!」

 

 

踏切の音だ!

 

電車が来る!

 

 

その時、場内アナウンスが流れた。

 

 

「ご注意下さい。電車が通過いたします。」

 

 

まずいな! 通過電車だ!

 

 


すると、お婆さんがベンチからゆっくりと立ち上がった。

 

 

氷川さんは急いで業務電話へと走り、受話器を取って叫んだ。

 

 

場内赤にして下さい。人がいる! 場内赤にして下さい!!」

 

 

ちなみに、場内赤にすると言うのは、信号機を赤にするという意味だそうです。

 

 

すると、通過電車はK駅に入る手前で緊急停止した。

 

 

信号を赤にした事で、電車の安全装置が働いて緊急ブレーキがかかったのだ。

 

 

お婆さんはホームから線路に落下したが、

 

 

電車はお婆さんの数メートル前で止まり、大した怪我ではなかったという。

 

 

氷川さんが電話していなけば、多分間に合わなかっただろう。

 

 

 


すぐに仲間の駅員達が集まって来て、

 

 

その一人の助役が彼に言った。

 

 

また表彰もんだな。    どうなってんだ正月そうそう。」

 

 

 

「お婆さんの様子がおかしかったので・・・・

 

 大丈夫ですよね?」

 

 

 

「ああ、怪我も無さそうだしな。

 

 あとは、こっちで処理してくよ、ご苦労さん。」

 

 


勤務明けだった氷川さんは自宅に帰った。

 

 

その後、お婆さんの家族が呼ばれ、

 

 

お婆さんは迎えに来た家族と一緒に帰っていったという。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、氷川さんが帰宅して数時間が経った時だった。

 

 

自宅の電話が鳴った。

 

 

そのベルを聞いた氷川さんは、何か胸騒ぎを感じたという。

 

 

電話はさっきまで一緒だったK駅の助役からだった。

 

 

「さっきのお婆さんの件だがな、表彰は無くなった。」

 

 

 


「あのお婆さん、どうかしたんですか?」

 

 


「さっき、

 

 隣のN駅で、飛び込んじゃったんだよ。」

 

 


助役が言うには、

 

 

お婆さんは事情を聞かれた時、

 

 

「ちょっと具合が悪くなっただけ。」と答えたという。

 

 

その後、お婆さんは家族と一緒に帰ったのだが、また一人で隣駅に向かい、

 

 

電車に飛び込んだのだった。

 

 

 

 

 


氷川さんは言う、

 

 

表彰が流れようが、そんな話はどうでもよかった。

 

 

あの時、あそこで私は「このお婆さんは自殺をしようとしていた。」と、

 

 

報告しておくべきではなかったのか?

 

 

そうすれば、自殺未遂事件として、事後処理は警察に引きつがれて、

 

 

お婆さんは家族にケアしてもらえたかもしれない。

 

 

そうすれば、死なずに済んだはずだ。

 

 

元旦の朝に死のうと決意を固めるまで、お婆さんはどのくらい苦しみ、悩んだのだろう。

 

 

死の恐怖と対峙しならが、どんな思いでベンチに座っていたのだろう。

 

 

結果的に、お婆さんは2度も怖い思いをする事になってしまった。

 

 

 

 

 


最近、氷川さんは黒い霧について、こんな事を思う時があるという。

 

 

それは、黒い霧はその人の意志の表れではなく、

 

 

誰かからの恨みや殺意という様な第三者の悪意の様なものなのかもしれないと。

 

 

なぜなら、黒い霧、それ自体が別の意志を持っているかの様に、うごめいていて、

 

 

包み込んだ人を操っている様にも見えると言うのである。

 

 

 


果たして、それは誰かからの怨念なのだろうか。

 

 

それとも、本当の死神が操っているのだろうか。

 

 


それは分からないが、最後に一言だけ付け加えておくと、

 

 

電車への飛び込みは、親不孝である。

 

 

多くの乗客への迷惑行為でもあるのだが、

 

 

残された親への賠償金が発生してしまうからである。

 

 

飛び込みで電車が破損した場合は、何千万円という金額になるかもしれないし、

 

 

何も破損しなくても、死体処理や運行の遅延行為から、

 

 

親に78万円請求されたケースもある。

 


END

 

参考:現役鉄道員“幽霊”報告書: 幽霊が出る駅、路線……教えます!
著者: 氷川 正https://books.google.co.jp/books?id=UV7RBgAAQBAJ&pg=RA1-PT26&lpg=RA1-PT26&dq=%E6%B0%B7%E5%B7%9D%E3%80%80%E6%AD%BB%E7%A5%9E%E3%80%80%E8%87%AA%E6%AE%BA&source=bl&ots=h4Ex_of1aS&sig=GYpQ1nCoWnBiQoVZNKlgzlzgpqQ&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwjN0O6Hm9XeAhUNFYgKHUejDCAQ6AEwA3oECAIQAQ#v=onepage&q=%E6%B0%B7%E5%B7%9D%E3%80%80%E6%AD%BB%E7%A5%9E%E3%80%80%E8%87%AA%E6%AE%BA&f=false